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第十七話

 

「…。」


 そして彼はその姿に思わず無言になった。正面に立つ万里雄も無言でそれを眺めている。特になんてことのないそれは、レントたちの方を見ているのかすら分からない。


「レント…この世界のスライムって人語を話すのかい?」


 今万里雄が言った通り、レントの隣にいたのはスライムだった。オレンジ色をした球体上のスライムで、某ゲームのように頭はとがっていない。空気の抜けたボールのような形をしている。目に該当する部分や口に該当する部分はないが、少なくとも音声として人語を発しているようだ。原理は不明だった。


「未界はとてつもなく広いから人間の他に知的生命体がいると言われているが、スライムがそうだとは聞いたことない。…ていうかそもそもスライムがいることすら知らなかった。」


 地球でいう海がとても広く、もう一つ文明があってもおかしくないと言われているのと一緒だ。


「え?スライムってこういう世界ならどこにでもいそうなイメージだけど。」


 見たまんまスライムであるそれを見ながら万里雄は驚いている。


「何も勉強しないで冒険者になろうとしたわけじゃない。孤児院時代に魔物図鑑を何冊か読破したこともある。読んでいる時はその違和感に気付かなかったけど、確かに図鑑にはスライムなんて乗ってなかった。」


「…ていうことはこの世界にはスライムがいないってことかい?」


 万里雄がレントへと再度視線を戻す。ただしレントは唖然としながら見ているだけで、回答は返ってくることはない。


「驚くのも無理はないよね。つまり彼が今無言になったのは、図鑑に載ってない魔物を見つけちゃったからだよ。人間たちは未界のほとんどを解明できていない。つまり新発見はそこかしらでおきている。でもまさかそれが今日、初心冒険者である自分に訪れるとは思ってもいなかった。さしずめそんなところかな。」


 スライムが突然話だし、二人の置かれている現状をつらつらと当然が如く説明しだす。万里雄が不意に構造理解を発動し、スライムを観察した。


「…レント、緊急事態だ。」


「え?」


「僕のスキルじゃ彼を理解できない。構造が全く分からないんだ。」


「あぁ~、それが意味することは?」


「分からないけど、人間が所持する力の外側にいる存在ってことじゃ?」


「へぇ~君は頭がいいな。その通り、僕は人間が積み上げてきた常識の外側にいる。そこの彼と同じようにね。」


 スライムが言ったそこの彼がどちらかが不明なため、二人は顔を見合わせる。スライムにどちらかを指し示すための四肢などはなく、言葉だけで言われてもよく分からない。


「失礼、太っていないほうだ。」


「…俺?万里雄じゃなく?」


 明らかに万里雄が目的であるほうが正しいように思える。異世界から転移してきた地球人でありチート級の力を普通に所持し、凄まじい知能も持っている。


「そう、君だ。」


 だがスライムが指名するのはやはりレントだった。


 スライムが淡々と話を続ける。


「僕がここに現れたのもその君が目的だしね。」


「俺の何が目的でここに来たんだ?」


 一応敵意がなさそうに思えたレントは、会話を試みることにした。スライムとはいえ万里雄の構造理解が通用しない時点で、地球で得た弱いというイメージは捨てた方がいいと思えたからだ。


「言葉のまま、君自体に興味があってきたんだよ。それだけだ。」


「それが理解でき出ない…俺は至極普通だと思うんだが?」


 転生しているとはいえ、万能ではない力を与えられ、魔法が使えないという弱点を持ち、別段身体能力が異常に高かったり、超常の力を持っているわけではない。少しだけ特殊な力を使えるくらいだ。


「普通…か。君は自分が魔法を使えない理由を考えたことは?」


「俺が…魔法を使えない理由?」


 万里雄は今のスライムの話を聞いて、頭を回転させた。この世界に来てたった二日目の万里雄でも、幾度か魔法を行使する人を見た。それに魔法はこの世界に常識として溶け込んでおり、それを使えないというのはどこか違和感があった。才能がないのではなく、使えないというスライムの表現は余りに不自然だった。


「才能がないんだろ?単純に。」


 才能がないから使えない。スキル鑑定で言われたことを単純に繰り返す。


「それは違うと思うよ。」


「違うと思うって…どういうことだ?」


「魔法が使えないという状況が普通じゃないことは分かり切っているが、それがなぜかは僕にも分からないからさ。君に興味があるっていうのは理解できないからなんだよ。」


「それじゃぁただの探求心でわざわざ俺の場所まで?」


「そうだよ。未界に足を運ぶ君たち人間と一緒だ。」


 スライムはポヨポヨとしながら当然のように答える。


「まぁでも何かするとかそういう気は一切ないから安心して欲しい。僕からすることは特になくて、ただ君が未界に来たら、たまに現れて君を観察していくだけさ。」


「は…はぁ。なるほど、それじゃぁ…よろしくお願いします?」


 レントは自分で言っておきながら首を傾げる。


 この数奇な出会いが自分の運命を大きくかき回すことを知らずに。


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