第十五話 緊急メンテナンス
グリムの問いかけに、ミリアはこくこくと首を縦に振り、フォリンの肩をぎゅう、と抱いて答える。
「もっちろん! フォリンちゃんは変な使い方なんてしないもの!」
フォリンの妖精の扱い方は、命令ではなくあくまでお願いだ。これは気まぐれな子供と化した妖精達を扱う上で非常に上手いやり方だった。確かに、モノ相手にお願いをする、という光景はかつての人間にとっては滑稽に映るかもしれない。しかし、現代においてはこれが最善なのだ。
「夕方までは普通だったよ、グリムばーちゃん。扉も開いたし、灯りも点けられた」
「動作は正常じゃったか? 遅延も無かったか?」
「うん。特に待たされたりもしなかった」
「ふむ……予兆は無しか」
フォリンの言葉を聞き、グリムは眉間に深く皺を刻み、唸る。ふわふわと浮かび、回転して逆さまになりながらグリムは呟いた。
「これまでも、突然機能を停止する妖精はおった。狂うものもおった。じゃが、こうまで一度に変質するというのは初めてじゃ」
「そうなの?」
「うむ。妖精が狂い害を為すモノとなった場合、正常な妖精がそれを排除するのが普通じゃ」
グリム曰く、それはこうしたシステムにおける極めて基礎的な仕組みであるのだという。本来ならばあの門の妖精は、他の妖精達により止められていたはずなのだ。
「じゃが、今回は排除するどころかどいつもこいつも発狂しておる。他のシステムの妖精も応答をしておらん……本来ならばありえん」
フォリンがいくら呼びかけても、どの妖精も反応を示さなかった。グリムが言うにはその時点でおかしいらしく、ヒトを襲わないとはいえ看過できないらしい。
「あのさ。街灯の妖精とかも、グリムばーちゃんが呼んでも何も言わないの?」
「あぁ、言っておらなんだか。儂が此処に来た時点で、システムのログが儂に送信されてくるはずでの。門からも街灯からも、何も送られてこんのじゃ」
言いながら、辺りを見渡すグリム。辺りにはちらほらと街灯が灯っているのがわかる。
「システムダウンかと思いきや、そう言うわけでもない。恐らく、送受信の問題もあるんじゃろうが……狂った妖精については説明がつかん」
溜め息を吐きながら、グリムが地面に降り立つ。近くの街灯が、チカチカと気まぐれに明滅した。グリムは腕をを左右に広げると、その小さな手に光を灯しながら口を開いた。
「フォリンよ。緊急メンテナンスじゃ。王都のシステムを全て再起動させるぞ。元々扉の開閉くらいにしか使っていないとは聞いているが……一晩、妖精は全く使い物にならなくなる」
煌々とした光を手にしながら、グリムが告げる。
「悪いが、一晩王都を見ていてくれ。墓守の仕事をせんでも済むように」
「……うん、わかった」
フォリンが頷くのを見届けて、グリムは自身の頭を覆っていた布を取り払った。布の下から現れたのは、やはり人間の頭髪ではなく、金属を撚り合せた妖精の髪だ。グリムはそれを周囲にふわりと広げ、パチパチと何かが弾けるような音を立てながら雷のような光を放つ。そして。
「これより、王都ディアデムにおける全システムを対象としたシステムメンテナンスを開始します」
妖精王を自称したグリムの口調は、先程までフォリン達と話していた時とは全く異なるものへと変貌を遂げ。その妖精は自身に与えられた役目を遂行すべく、自身をこの広大な王都に張り巡らされたシステムへと接続したのだった。




