心清堂にて
―夕方―
仕事が全て終わると
「んじゃ、そろそろ行こか?」
「はい!」
頷いたのを確認して鞄を手にするとオフィスを二人で出た。
村井達の所に行ったら全て分かる……
伊川が隠してる秘密も何もかも
「……先輩?」
「あっすまん」
いつの間にか立ち止まってしまって伊川が不思議そうに聞いてきて、伊川の声ですぐ我に返って歩き出すと一瞬首を傾げていたが後を追いかけるように歩き出した。
それからしばらくするとあの店の前まで辿り着いていた。
「もしかしてここですか?先輩が俺に教えたいって言ってた店は」
「おん」
「……なんか不思議ですねここ」
「不思議?」
「よう分かりませんけど」
「不思議、ねぇ……」
やっぱ感覚がそれぞれ違うのか
村井から聞かされていたのをふと思う
「……先輩?」
急に黙り込んだのが気になったのかまた不思議そうに首を傾げてどうしたんですか?と聞かれる。
「あーなんでもないわ。じゃあ中に入ろか?」
曖昧に答えながら店の中へと足を踏み入れた。
「また来たで」
伊野部が店の扉を開けて声を掛けてみれば、店の奥から誰かが顔を出してきた。
「あーあんたか……」
「おっ久しぶりやんか!えーと……」
「後藤です。……じゃあ店長呼んできますんで」
無表情で頭を下げて言い残すとまた店の奥に消えていくのを確認すると伊野部は、もう定位置になりつつあるカウンター席に腰を下ろした。
「……………………………」
「何突っ立ってんねん!?」
なぜか黙り込んで立ち尽くしている伊川に声を掛けるとなんでもないです。すみませんと謝り、伊野部の隣の席に座った。
同時に店の奥から村井が笑みを浮かべながら姿を現した。
「いらっしゃいませ。ようこそ【心清堂】へ」
頭を下げる村井にいつものやつを注文し、挨拶がわりに片手を上げる
「ほんまにまた来たったわ」
「本当にありがとうございます」
「約束してたしな」
「そうでしたね」
村井は、笑みを深めて頷くと不意に伊川の方に目線を移した。
「あっ挨拶が遅れました。僕は、ここで店長を勤めさせて頂いてます村井と言います。よろしくお願いします」
まっすぐ伊川の目を見つめて自己紹介をするとまた笑みを深めるように目を細めた。
細めた目が一瞬ではあるが、琥珀色に光ったような気がした。
今もしかしてあの力使ったのか……そんな村井の様子をさりげなく眺めていた。
「……伊野部さん」
「どうした?」
伊川に不意に話し掛けられて、伊川の方に目線をやると
「……あっ……やっぱ、なんでもないです」
何か言い出そうとしてが変な間の後に苦笑いを浮かべ、なぜかそのまま黙り込んだ。
「…………?…………」
なんやねん……伊川の反応を疑問に思いながらもあえて顔に出さずにいると村井と目が合い、俺の思っている事が分かっているのか笑みを深めた。
笑みを深めた後に
「……夢、ねぇ」
と伊野部にだけ聞こえるように呟いた。
「あーそういえば今ふと思い出したんですが僕は、前ある夢を持っていたんです。今は、この店があるんで本当に夢だけになってしまったんですけどね」
呟きを合図に村井が伊川に話を始めた。伊野部には村井には何か考えがあるとすぐに悟った。
「なんか夢とかお持ちですか?伊野部さんには以前来店して頂いた際にお聞きしたので……」
今回は、あなたにお聞きしたくて……伊川に尋ねた瞬間に伊川が一瞬困ったような表情を浮かべたのを伊野部から見ても一目見て分かった。
「俺の夢、ですか……」
すぐ表情が戻るのと同時に考え込む仕草を見せながら、小さく呟いた。
「別に夢なんか持っていませんね。夢なんか持っててもどうせ……あっいや、最後のはなんでもないです」
口走りそうになり、おもわず苦笑いを浮かべて慌てたように訂正するように早口になる
「夢なんか持ってても、ですか……」
「………………………………」
あいつやっぱなんか隠してんな
伊川の反応を見て、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、村井が伊野部の表情を見てすぐ心の中の感情を感じ取り、伊川に気付かれないように伊野部の方に目だけ動かして小さく首を左右に振ってきた。




