↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/7

第一話「一羽のカラス」

楽しんで頂けたら、幸いです。

吾輩は一羽のカラスである。

吾輩はそれなりに長く生きた...するとどうだ、進化して魔物になったのだ。


全ての物が見えるようになった、感じるようになった。悪さをする訳ではない。

面白い物を見て回るのが楽しくなった。しかも吾輩、

不思議というか不自然な挟間に迷い込んだらしい。ほら、また何かを感じる・・・


そこは、崩れかけた聖堂だった。 高い天井には大きな穴が開き、

そこから差し込む月明かりが、石造りの床を淡く照らしている。

砕けた長椅子に崩れた柱。


祭壇には厚い埃が積もり、長い年月のあいだ人の訪れがなかったことを

物語っておる。そんな廃墟の片隅で、一人の少女がゆっくりと身を起こした...

どれ、しばらく様子を見るとするとしよう。


「ううっん~...」


少女はぼんやりと周囲を見回し、自分の手に目を落とした。

白い指。細い手首。

月明かりを受けて、骨の一本一本までくっきりと浮かび上がっている。

少女は指を曲げてみた。カタカタ、もう一度、曲げてみた。カタカタカタ。

どうやら、指の動きは問題ないらしい。


「……問題は、そこではないですわね。」


手首も、腕も、その先も、どこにも肉が...


「無い...」


カカカ。吾輩はまた奇妙な物を見つけてしまったな。

少女はしばらく考え込んでいる。

ほう、恐る恐る立ち上がったか。

幸い、足腰はしっかりしているし、歩くこともできるようだ。

床に割れずに残っていた大きなガラス片を見つけ、自分の姿を映したな。


カカカ。固まっておるわ。 頭蓋骨。眼窩。歯列。 

どこからどう見ても、スケルトンである。


「……きゃ、わたくし……。どうしてこんな骨を晒しているの?

はしたないですわ。と、独り言を言ってみた所で仕方のないことですわ。

身だしなみを整えることは令嬢としてのたしなみよ。エレノア。

人前で肌をさらすなど、あってはならないことよ。

衣服を探すといたしましょうか。」


祭壇の裏、崩れた長椅子の下、瓦礫の陰。

使えそうな布切れを探して歩き回ったが、見つかるのは朽ちた木片や石ころばかり。


「困りましたわ。せめて、何か羽織れるものがあれば……」


カカカ。あの娘、立ち尽くし手を合わせ、祈っておる。吾輩の魔眼で少し見てやろう。

スケルトンらしからぬ魔物の魔力ではないぞ。


聖魔力か?面白い!胸の辺りから淡い光は小さな粒となって宙を舞い、

瞬く間に全身へと広がっていく。白い骨格を優しく包み込んだ光は、

やがて黒い布地へと変わりその上に白いレースが重なった。

長いスカート。優雅な袖。胸元を飾る十字架。


そして頭には、清楚な修道女のヴェール。まるで魔法仕立ての衣装が、

目の前で縫い上げられていくかのようだった。


光が消えたとき、そこには黒と白を基調とした美しい修道服をまとった

骸骨が立っていた。衣装は貴族令嬢の礼装を思わせる優雅な仕立てで、


長いスカートの裾には繊細なレースがあしらわれている。華美すぎず、

それでいて気品を感じさせる装いだった。裾をつまみ、そっと一回転してみた。


スカートが月明かりの中でふわりと広がる。そして、一礼。


「まあ……! 素敵ですわ。」


「今の光はわたくしの祈りが通じて神の奇跡が起きたのかしら?それとも、

この骨の身体に、なった事が原因なのかしら?今後の課題ですわね。」


「衣装はこれで良し。しかし、ガラス片に映る自分の姿は、生前の自分と比べると、

どうにも違和感がありますですわね。」


「胸元が、少々寂しい...かつての自分には、

もう少し女性らしい身体の輪郭があったはずよね。」


カカカ。娘よ、そなたの物言いと、立ち居振る舞い。どこぞの貴族の出であるな。

しかも、その力、次第に使いこなしてきておる。


ほれ、ぬしの思い通りに、胸元の魔力が輝き。

淡い光が骸骨の胸郭を包み、その前に柔らかな輪郭を形作っていく。


生前の姿を思わせる曲線が浮かび上がった。ガラスに自分の姿を確かめ、

嬉しそうじゃ。長い髪。金色の瞳。女性らしい身体の輪郭。


カカカ。素晴らしいぞ、娘よ一見すると清楚な修道女。

だが、悲しいかな骨に肉を表現する事は、できなんだか。

スケルトンに変わりはない。そもそも、魔物に聖魔力は規格外。


エレノアは、ガラス片を覗き込み、つるりとした肌触りに。


「まあ......お顔は骸骨のままね......これは、

さすがに仕方ありませんわねエレノア。」


と、自分に言い聞かせる...


「そもそも、痛くも痒くもない。苦しくも無い。むしろ、軽やかだわ♪」 


「......うまく笑えませんけれど、心まで変わったわけではありませんものね」


「 生きているのか、死んでいるのか。それすらわからない...

でも、わたくしは今、こうして立っている。できることは限られている。

ならば、今できることから始めればよいですわ。」


カカカ。娘よ、いや、エレノア。その身体を受け入れるか。

エレノアは改めてガラス片の前に立ち、修道服の襟元を整えた。


乱れた裾を直し、ヴェールの位置を確かめる。

そして、いつものように穏やかな笑顔を浮かべようとした。


結果は、やはり歯を剥き出しにした骸骨の顔である。

エレノアはスカートの裾をつまみ、誰もいない聖堂に向かって

優雅に一礼した。


その姿は、少々奇妙ではあったものの、どこか気品に満ちていた。

ただ、本人はまだ気づいていない。


月明かりに照らされた廃聖堂に、黒と白の修道服をまとった骸骨が一人。

こうして、一人の奇妙な修道女が誕生した。


かつて大貴族の令嬢だったかもしれない、慈愛に満ちたスケルトンシスター。


その名は、エレノア。 

新たな人生の幕開けにしては、少々骨の折れる出発であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。