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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
連枝の絆

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第85話 盟友の再会

天正11年(1583年)5月 京・山城城 羽柴源一郎秀成

山崎城内の広場


昨日の家族の団欒を終え、ようやく会える。

私の足取りは、いつの間にか(はや)っていた。


「……マル」


その名を呟いた瞬間だった。

「ワン!」という、高く、弾けるような鳴き声が聞こえた。


曲がり角から飛び出してきたのは、丸々とした茶色の毛玉――相棒のマルだった。


勢い余って滑ってごろんと一回転してもなお、マルは立ち止まらない。

私の姿を認めた瞬間、マルの短い尻尾は、まるで千切れんばかりに左右に振られた。


「マル! 久しぶりだな!」

膝をついて両手を広げると、マルは弾丸のような勢いで胸に飛び込んできた。


グイグイと鼻先を首筋に押し込み、ペロペロと一心不乱に頬を舐め回す。

数ヶ月の間、どれほど寂しかったのかを訴えるように、鼻を鳴らして「クゥーン、クゥーン」と甘えた声を出し続けている。


「ははっ、くすぐったいって。よしよし、いい子だ、マル……」

私は、マルの温かい体を、力一杯抱きしめた。

その毛並みには、春の陽だまりのような匂いと、少しだけ埃っぽい、この時代の生活の匂いが混じっていた。


掌から伝わってくる、トクトクという速くて力強い鼓動。

戦場での殺戮、戦略の構築、そして歴史を動かしたという重圧。

それらでガサガサに乾ききっていた心が、この小さな生き物の熱によって、じわじわと、柔らかく解きほぐされていく。


ふと、マルが動きを止め、私の顔をじっと見上げた。

その真っ黒な瞳には、数ヶ月の間に少しだけ「大人」の顔になった私の姿が映っていたのかもしれない。

マルは心配そうに、俺の鼻先をペロリと一度だけ舐めると、今度は安心して俺の腕の中で全身の力を抜いた。


「ああ。戻ってきたぞ、マル。長浜へは一緒に行こうな」

俺の膝の上に顎を乗せ、満足げに目を細めるマル。


山崎の柔らかな陽光が、一人と一匹を優しく包み込んでいた。

束の間の、しかし何よりも贅沢な、再会の時間だった。



そんな静寂を破ったのは、廊下を激しく打ち鳴らす足音と、懐かしい快活な声だった。


「源一郎! 源一郎はどこだ!」


障子が勢いよく左右に弾け、現れたのは河内を治める従兄・三好信吉(みよし のぶよし)(後の秀次)だった。

旅の埃も払わず、額に汗を浮かべたその表情。


「……兄上。わざわざ河内から。マル、驚かなくていい、身内だ」

驚いて跳ね起きたマルが、信吉兄上に向かって小さく「ワン!」と吠える。


「おお、マルも一緒か! 勇ましくなったな!」

「しかし、俺のことは覚えていないのか?」

信吉はどさっと私の前に座り込むと、マルの頭をわしわしと撫で回した。


マルも最初は警戒していたが、匂いで昔の記憶を思い出したのか、すぐに尻尾を振り始めた。


「源一郎、賤ヶ岳の戦のこと……聞いたぞ。大活躍だったそうだな」

信吉は満面の笑みで、そう言って私の肩を叩いた。


(史実では、信吉は賤ヶ岳の戦に参戦している。後方の陣だったため、戦自体には参加していないが)

(この世界では、私が参戦したためか、おそらく保険としてだろう、信吉は領国に残った)



「兄上こそ、随分と顔色がよろしいようで。河内の政は順調なのですか?」

そう尋ねると、信吉は待ってましたとばかりに、懐から一足の真っ白な『足袋(たび)』と、丈夫そうな『木綿の火薬袋』を取り出した。


「これを見ろ! お主が薦めた木綿の製品だ。 以前は米も碌に獲れぬ湿地だった河内が、木綿なら栽培できる」

「百姓は女子供までが糸を紡ぎ、はたを織っている。冬に備えて試作した『綿入り半纏(はんてん)』など、商人たちが我先にと買っていくぞ!」


信吉の表情には、商いの面白さに目覚めた喜びがあった。

「ただ年貢を搾り取るのは、枯れ木から水を絞るようなものだ。だが、仕事を与え、富を蓄えさせれば、民は自ら動き出す。豊かになれば、民の顔に肉が付き、表情が明るく変わっていく」

「源一郎……商いとは、これほどまでに面白いものだったのか」


興奮して話す信吉に、私も嬉しくなり口角が上がる。

「ははは、兄上。本当に楽しそうですね」

「その通りです。民が潤えば、国に力がつきます。しかし、それを理解して実践できる者は少ない」

「兄上は、よき領主にお成りになったようですね」


私の言葉に、信吉は少し照れくさそうに笑い、マルの腹を撫でながら視線を遠くへやった。


「両親(吉房・とも ※ともは秀吉・秀長の実姉)も、お主には感謝してもしきれんと言っておるぞ」

「小吉(秀勝)も、河内でのびのびと育っている。『源一郎のような賢い武士になるんだ』と息巻いて、読み書きに励んでおるわ。一家が、こうして笑って過ごせる日が来るとはな」


かつて尾張の百姓として、爪に火を灯すように過ごしていた羽柴の一族。

私や、信吉、小吉は、秀吉が出世し始めて以降に生まれており、貧しい経験はしていない。

しかし、その親世代は違う。今の状況は、想像だにできなかっただろう。

喜んでもらっているようで何よりだ。


羽柴小吉。信吉の一つ下の弟だ。

史実では、秀吉の後継とはみなされてはいなかったものの、親族として重宝され、期待もされていた。

朝鮮出兵に赴き、現地で若くして病死した。

浅井三姉妹の一人・お江の二度目の夫でもある。


秀吉と秀長の姉・ともの男子、秀次・秀勝・秀保はみな秀長が病死してから相次いで亡くなる。

秀次は、秀吉の勘気に触れ切腹させられる(1595年)

秀勝は、朝鮮で病死(1592年)

秀保は、大和・十津川で不審死(病死とも)(1595年)


秀長が亡くなったのは1591年。いずれも数年以内の出来事だ。

ちなみに、秀保は男子がいなかった秀長の養子となり、秀長の病死後、領国を継いでいる。

そして、秀保の死後、秀長の大和大納言家は解体され、家は途絶えた。


この歴史を知っているからこそ、秀次、いや、今は羽柴信吉の一家を守ってあげたいと強く願う。

そんなことを考え、一瞬ぼうとしてしまった。


「おい!源一郎、聞いているのか?」

信吉が、私の肩を突いた。


「えっ?あぁ。兄上の成長ぶりに感動しておりました」


「なにを言っておる。お前が成長するように俺も日々成長しているのだ! ははっ」

「ところで、源一郎。叔父上が、石山の跡地に途方もない城を築こうとしているのは知っているな?」


「大坂、ですね」


「そうだ。淀川、大和川が瀬戸内に流れ込む湿地帯だ」

「だが、ここを整備して大きな港と商都が誕生すれば……俺は今から震えているぞ。河内で作る木綿製品を大坂に流し込めば、一体どれほどの富が動く?」


私は、あの信吉兄から的を射た経済政策の話が出たことに、目を見開くほど驚いた。

「…兄上、その話は誰からかお聞きになったのですか?」

ひょっとして人から聞いた話かもしれないと思いたずねてみた。

すると、

「はははっ、俺が商いのことを分かっているのに驚いたか?」

「もう、以前の槍馬鹿ではないぞ。これくらいは誰にも聞かずとも分かるわ!」 

と、胸を張って答えた。


「ふふふっ。流石です、兄上」

「伯父上が心血を注いで城下町と港を整備すれば、堺や博多を越える日の本一の商都になるやもしれません」

「河内は『木綿の製造拠点』として更に豊かになるでしょう」

私がそう言うと、信吉は満面の笑みで頷いた。


「ふふっ、今より更に豊かになるか!領民が飢えず、笑顔で暮らせる国をこの手で作れるとはな!」

信吉は、私の肩を強く叩いた。


そして、二人で顔を合わせ、

「「ふふふ、はははっ」」

と声を出して笑った。


二人の脳裏には、まだ見ぬ大坂城と、そこから広がる新しい景色が浮かんでいた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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