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戦国転生したら秀長の息子でした ~宰相の子として豊臣を滅亡から救います~  作者: 丸三(まるぞう)
連枝の絆

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第115話 冬空に響く若き家臣の声

登場人物の年齢関係がわかるよう、今話については初出の際に(年齢)を付記しています。


天正11年(1583年)11月 近江・長浜城 黒田長政・竹中重門ほか

長浜城の一室


十月末を迎え、湖北の外は身を切るような風が吹きつけていた。

城代である主君・源一郎(九歳)は、城下の視察に出向いており不在。

その隙をついた、昼下がりのささやかな休息であった。


二人の若者と二人の若武者が、部屋の中央に置かれた火鉢を囲んで、暖を取っていた。

網の上では大粒の栗がパチパチと音を立てて焼け、隣には甘味の増した干し柿が山積みにされていた。



「あーあ、どうにも退屈で死にそうだぜ」

大きな欠伸とともに、火鉢の灰を火箸でつついたのは平野長泰(ひらの ながやす)(二十五歳)である。


「まったくだ。俺たちは賤ヶ岳七本槍と謳われている武者だぞ。もっと最前線で武功を上げたいってのに」

加藤嘉明(かとう きよあき)(二十一歳)も、熱々の焼き栗の皮を剥きながら渋い顔をした。


彼らは、先の賤ヶ岳の戦いにおける抜群の功績により、今では『賤ヶ岳の七本槍』と評され大いに称えられている。そして、恩賞として新たな領地を与えられ、城代となった源一郎の家臣としてここ長浜に配属された。

その名誉ある呼称は、秀吉らによって戦略的に喧伝されているものではあるが、この二人にとっては全く関係のないことであった。

弱小の土豪出身の彼らにとって、自らの武勇が巷に広まることは誇りの何ものでもない。


そんな彼らの言葉に、源一郎の側付きとなり、自らの主を尊敬してやまない黒田長政(十六歳)の目が厳しくなった。竹中重門(十一歳)もピクリと眉を吊り上げた。


それを見てとった加藤が、慌てたように付け加える。

「誤解しないでくれ。俺たちは決して若君を侮っているわけじゃない。あの賤ヶ岳で見せた武略、並外れた知識。それに領民を労り、美濃守様(秀長)を気遣う優しさ。家臣として心から敬服しているさ」


「ああ、その通りだ」

平野も深く頷き、干し柿をかじった。

「筑前守様の甥御にして、この長浜の城代を任されている若君にお仕えできるのは、この上ない(ほまれ)だ」

「…だがよ、このまま後方の城でお守りをしている毎日に、どうにも逸る気持ちが抑えられねえんだよなぁ」


その言葉に、黒田長政はすすっていた茶碗を置き、二人の目をじっとみて静かに言った。

「平野殿、加藤殿。お言葉ですが、お二人はまだ若様の真の恐ろしさ……いや、偉大さを十分に分かっておられない」


「長政殿のおっしゃるとおりです。前線で槍を振るっていたあなた方には見えなかったでしょうが、本陣で若様の傍にいた我々は、神がかったお力をまざまざと見せつけられたのです」

竹中重門も、長政に同調する。

彼ら二人は、あの戦を通じてすっかり主君に心酔しきっていた。


「分かっていないだと? 俺らだって、若君が背後で色々と策を練っていたって話は聞いちゃいる」

平野が胡散臭そうに目を細めると、長政が身を乗り出した。

「聞いただけでは、あの凄さは分かるまい。 山路殿の裏切りと見せかけた埋伏の毒の恐ろしさ。それによって佐久間玄蕃殿を手玉にとった謀略の鋭さ! 美濃大返しの神速の段取り! まるで空の上から、地上を見下ろし盤面を動かしているかのような采配。 あの時、私は若様の背後に後光が差しているのを見た!」


(いや、後光を見たって!...それはないだろう)

平野は心の中で呟きつつも、口に出すと面倒くさそうなので、黙って頷いた。


「そして、戦の後もです」

重門が、さらに熱を込めて言葉を継いだ。

「お市の方と姫様方を救い出すことを口実に、前田殿を味方に引き入れる手際。そして、山路殿を決死の覚悟で北ノ庄城に説得に向かわせた若君の器量。我らの父(官兵衛・半兵衛)は稀代の軍師と呼ばれていますが、若君はすでに唐土の張良、孔明すら凌駕しておられるかもしれません……!」


(いや、張良や孔明はいくらなんでも言い過ぎじゃないか?…まだ十歳にもなってないだろう)

加藤も表情は一切変えず心の中で疑問を呈したが、若君とほぼ同い歳の重門が熱弁を振るう姿に、否定するのも大人気ないと思い、黙って頷いた。


平野と加藤は顔を見合わせて目配せした後、加藤が口を開いた。

「……ま、まあ、若君が凄いということは改めて分かったよ。我らの勝利のために、鬼神のごとく策略を巡らせてくれてたのは、本当に頼もしい限りだ」

「だが、やはり戦場に出たいという思いは…」


その言葉に、長政がニヤリと不敵に笑った。

「加藤殿、その心配は御無用。先日、若君が我らにこっそり『近々、大戦があるやもしれぬ。それまでしっかりと武芸を磨いておくように』と仰ったのだ」


「おおっ! 本当か!?」

平野が身を乗り出し、目を輝かせた。


「若君が無意味な発言をされるはずがありません。必ずや大きな出来事が起こり、我ら長浜軍が出陣する時が来る。我々はそう推測しています」

重門の言葉に、加藤はポンと手を打った。


「なるほど……合点がいった! 夏以降、湖で船の操舵や水軍の戦い方を訓練させているのを見て疑問に思っていたが、あれも大戦に向けた深い意味がある布石だったというわけか!」


平野も顎を撫でながら、これまでの過酷な調練を思い返し、顔をしかめた。

「……にしても、あの磯野のじいさんのしごきは常軌を逸してるぜ。最近じゃ朝から晩まで、砂利の詰まった重い土嚢を背負わされて走り通しだ。伊吹山の山麓を駆けずり回されてへとへとだ。まぁ飯はたらふく食わせてくれるから不満は少ないがな」


長政がポツリといった。

軍争(ぐんそう)(かた)きは、()を以て(ちょく)と為し、利を以て害と為す」


「……黒田殿、なんです? そのまじないみたいなのは」

 平野が首を傾げると、長政はゆっくりと言葉を繋げた。


「若君が磯野殿と論じておられた孫子の兵法です。軍を速やかに迂回させ、敵の不意を突くためには、何よりも兵の強靭な足腰が不可欠であると。今の過酷な調練は、何かのための仕込みなのでしょう」


傍らで聞いていた加藤が、得心がいったように深く頷く。

「なるほどな。ただ走らせているわけじゃなく、先の先を読んだ布石ってわけか。まあ、走るだけで腹一杯の米にありつけるんだ。ありがたい話じゃないか」


「……いや、お前は走ってないだろうが」



平野のすかさず放った突っ込みに、加藤がバツが悪そうに視線を逸らす。

その二人の軽妙なやりとりに、長政と重門の口元からも自然と笑みが漏れた。


しかし、加藤はすぐに表情を引き締め、感嘆の入り混じった溜息をつく。

「伊吹山の薬草園。美濃守様へ定期的に送っているという『丸薬』の調合といい、一体どこで唐土や南蛮の知識を仕入れておられるのやら……若君の頭の中はどうなっているんだ」


重門も、熱のこもった声で続けた。

「夜が更けても、灯明の下で書物を読んでおられます。最近は、磯野殿と一緒に兵盤を囲み、駒を動かしながら戦術の議論に耽っておられます…そのお姿を見るたびに思うのです。私も早く一人前になり、あのお方を支えられるようにならねばと」


重門の決意に満ちた言葉が、夜風に乗って四人の胸に染み渡る。

「そうだな」

誰からともなく短く応じ、四人は静かに頷き合った。


四人の間に、主君への揺るぎない忠誠と尊敬の念が、一つの確かな絆として結ばれた...

かに見えた、その時だった。



「そういや……一つ気になってたんだがよ」

平野がニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべた。


「若君、京に滞在してるお市様や三姫君たちに、やたらと贈り物を送ってるらしいじゃねえか。冬着の足しにするような綺麗な反物だの、上等な紅だのってよ」


ピタリ、と長政と重門の動きが止まった。


「ふむ」と加藤も腕を組んで面白そうに頷く。

「いくら命を救ったとはいえ、まだ九歳の童が、女衆にせっせと貢ぎ物とは。いったい何の意図があるのやら」


「なっ……! 意図など決まっておるだろう!!」

長政がバンッと畳を叩いた。

「北ノ庄での二度目の落城を経験し、京で心細く暮らしておられるお市の方や姫君たちを哀れに思い、お慰めしようとしているに決まっているではないか!殿はそういう御方だ!」


「その通りです!」

重門も声を張り上げる。

「若様の深く純粋な慈悲の心を、そのように下世話な勘繰りで汚すなど、言語道断です!」


必死に擁護する二人の姿を見て、平野と加藤はついにこらえきれず、腹を抱えて笑い転げた。

「いやいやいや! それはどうかなあ!」

 平野が涙目になりながら、畳を叩いて笑う。

「なんせ、源一郎殿は、あの『筑前守様』の甥御様だぜ!?」


「違いない!」

加藤も笑いながら続ける。

「英雄色を好むとは言うが、あの血筋なら、そっちの『素質』も尋常じゃないはずだ! 今から唾をつけておこうって腹積もりかもしれんぞ!」


「貴様らぁっ!! 若君を愚弄するか!!」

「若様の崇高な御心を……許せません」


「おっと、火鉢をひっくり返すなよ! 冗談だ、冗談!」

「怒るな怒るな、ほら、でかい焼き栗やるからよ!」



長浜城の午後。

(まつりごと)や軍事に底知れぬ才を見せる若き主君。

そんな彼を巡る家臣たちの賑やかな声が、近江の鉛色の冬空へと溶け込んでいった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


稚拙な部分があるかもしれませんが、日々推敲しながら加筆修正していっています。

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― 新着の感想 ―
 確かにッ‼'`,、('∀`) '`,、>せっせと…
あ~(*`艸´*)忠臣?達のw各々のお年頃で、2組に別れてるのが微笑ましい♪ ココに源一郎君が居たら…生温かい感じで離れて見守るのか?照れるのか?……まぁ(*^^*)少なくても…一緒にハシャ事ゎナイ…
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