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第37話「ああ。もういいや。うるせぇ」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 顔を上げたリリウムは、2人を交互に見ながら喋り始める。


「あ、先にお聞きするべきことが。昨夜、暗殺者(アサシン)の魔法を改良した、二重魔法(デュアル)を感知しましたか?」

「……ああ」

「では、話が早い。あらためまして、ゾディアックさん、ロゼさん。騎士団の手伝いをしていただけませんでしょうか」


 ゾディアックとロゼは怪訝な表情を浮かべる。


「突然の依頼で申し訳ございません。ですが、こちらは祭りの警備も行っているため若干の人手不足。更に、王国内では連続殺人事件が発生しておりまして。二重魔法を使ったのは、その犯人ではないかと睨んでいるのです。そこで、冒険者達の手をお借りしたいと考えております」

「……それで、俺達に?」

「はい。JランクとSランク。これ以上ない戦力です。是非ともお力添えを。無理にとは言いません。断ってくださっても大丈夫ですが……報酬は出しましょう」


 リリウムは懇願するような目線を向ける。

 これは幸運だった。一番の問題は騎士団が敵に回ったどうするのかだったが、味方になってくれるのであれば、何も問題がない。


「受けよう」


 ゾディアックの答えは決まっていた。ロゼもゾディアックと同じ考えだったため、渋々頷く。


「ありがとうございます。本当に申し訳ございません。お二人の大切な時間を割いていただけるとは、騎士団を代表して、お礼を申し上げます」

「待て。なんだ、大切な時間って」


 ロゼが声を荒げる。


「お二人は恋仲か、夫婦なのでは……?」


 大口を開けて否定しようとしたロゼを遮り、ゾディアックが言う。


「そうだ。恋仲だ」

「おま、えぇ……!!?」

「ああ、やはり。とてもお似合いだと思ったんです。いやはや、素敵ですね……」


 先程の冷ややかなものではない、リリウムの柔らかな声色に、ゾディアックとロゼは顔を赤くする。


「み、見つけたら、殺さずに捕まえればいいのか?」

「出来れば生かして捕まえていただければと。場合によっては生死問わずです」

「了承した」


 ゾディアックがそう言うと、リリウムは礼をした。


「王のご加護があらんことを」

「王の剣に誓って、って言えばいいのか?」


 拗ねたような口調で、ロゼがゾディアックの背中からひょっこりと顔を出して聞く。

 リリウムは微笑み、頷いた。


「それでは、ゾディアックさん、ロゼさん。お二人のことは騎士達に通達しておきます。何かありましたら、お気軽にお声掛けください。犯人と相対した場合、どうか、ご無理をなさらないよう、お願い致します」


 そう言ってリリウムは踵を返し、街の喧騒へ飲まれていった。

 その背中を見ながら、ロゼはゾディアックの手の甲を抓る。


「いたい、いたい」

「何が恋仲だ。馬鹿。死ぬほど恥ずかしかったわ」


 吐き捨てるように言って手を離す。ゾディアックは赤くなった手の甲を擦りながら、ロゼを見る。

 ロゼはすんと鼻を鳴らすと柳眉を逆立て、リリウムが歩いて行った方を睨む。


「武器を持てるようになったのは幸運だな」

「ああ。……恐らく昨日の魔力は、さっき言っていた殺人鬼だと思う」

「誰かを殺そうとしていると……。ただ、それが私である可能性は大いにあることに変わりない。だとしたら、さっさと倒さないとな」


 そこまで言って、安心したように伸びをする。


「とりあえず、騎士団が敵じゃなくて幸運だった。あのリリウムとかいう副団長相手にするのは、骨が折れそうだ」

「……すまない、ロゼ。昨日帰っていれば、こんなことには」


 ロゼはムッとした表情でゾディアックを見上げる。


「お前と一緒にいれたことに何も後悔はない。殺人鬼程度、私達なら一捻りだ。そうだろ?」

「……ああ。ありがとう」


 そう言って笑みを返す。ロゼもフッと笑い、頭を掻く。


「さて。どうする? このまま闇雲に探すか」

「……相手がこっちを狙っていること前提になるけど、作戦はある。どちらにしろ、まずは武器を取りにいく。その間に説明するよ」

「分かった……にしても」


 口元を隠し、声を殺して笑う。


「王のご加護、ねぇ? まるで神様に祈っているみたいじゃないか」


 対し、ゾディアックの表情は全く動かなかった。


「……ここの国、いや、この世界にとって、神は王様なんだよ」


 そう言って、宿屋に向かって歩きだす。何処か様子がおかしいゾディアックに小首を傾げながら、その背中について行った。


♢◆♢◆♢◆


 ラルドとエメは、道を歩く2人を、工事現場の3階から目撃した。

 エメは双眼鏡を外し、唸り声を上げる。


「お兄ちゃん。どうするのー? もう襲っちゃう?」

「確信が欲しい。もう少し情報を得て、人目の付かないところで……」

「ちょっと。そこの人達」


 ラルドが振り返る。そこには白銀の騎士がいた。全部で5人いる。エメは間抜けな声で「うわー」と言って、ラルドの方を見る。


 面倒くさいことになった。ここは普通騎士団が通る場所ではないし、ましてや昨日点検が行われたばかりの場所だったため、騎士が来るとは思わなかった。


 自分の仕事にミスが発覚したため、ラルドは怒りの瞳をぶつける。


「なんか用っすか?」

「ここは一般人立ち入り禁止だ。君達は技巧者(メカニック)か? 冒険者なら何処に入ってもいいとは……」

「ああ。もういいや。うるせぇ」


 ラルドが舌を鳴らす。

 同時に、騎士の首から上が吹き飛び、兜が霧散した。


 後方にいた騎士達は何が起きたのか分からなかったのか、動けずにいた。


「隊長!!!」

「戦闘準……」


 騎士が腰から剣を抜くよりも早く、エメが行動し始めた。右手の中指を鳴らすと、強烈な閃光が辺りを照らす。

 そして、光が晴れると、エメは両手である物を持っていた。


 技巧者の間では「自動小銃」と呼ばれる遠距離用の武器。魔力を込めることで弾丸を生成し、それを強化した物を射出する機械だ。小型大型の魔物を討伐する際に使われる武器であり、制圧用にも使われる。当然、人に向けていい武器ではない。


 その威力は、中級の魔法を軽く凌駕しており、連射も段違いである。もちろん、普通の銃の威力では、中級の防具ですら貫くことは出来ない。騎士団の装備に対しては痕すらも付かないだろう。

 しかし、ラルドのおかげで改良を加えられているこの銃の威力は、騎士団の鎧を紙屑の如く吹き飛ばせる。


発射(ファイア)!!」


 エメの弾んだ声が木霊し、同時に引き金が絞られる。

 剣を抜こうとしていた者、盾をなんとか構えた者。


 4人全員が、何も出来ずに蜂の巣にされた。銃口から光が(ほとばし)り、真っ直ぐに射出された紫色の弾丸は、大きな音を立てながら騎士団の体を射抜いた。

 S級の実力を持っているとしても、突然の攻撃に想定外の武器を装備した相手と戦った場合、成す術がない。


 騎士団達は血煙を上げながら地面に突っ伏し、全員ピクリとも動かなくなった。


「楽勝ー!!」

「今の音で敵が押し寄せてくるな。ったく。面倒くさいことになった」


 舌打ちして、首が無くなった騎士の腹を踏んづける。


「行くぜ、エメ。あの2人がターゲットだったら、さっさと殺して花火見んぞ」

「わーい! 花火花火ー!」


 ラルドはヘッドフォンをつけ、移動し始める。

 街中のざわめきをシャットアウトし、代わりに下品でロックな音が、脳内に響き渡った。 


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