第36話『王の剣に誓って!!!』
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
時計に目を向けると、朝になろうとしていた。昨晩は突然襲来した謎の魔法のせいで、緊張状態が解けなかった。
2人は寝ずに見張りをしていた。その間、無駄話は一切無かった。風呂は浴びたが、寝間着には着替えず、両者共に臨戦態勢であった。
ロゼを守らなければらない。その一心でゾディアックは集中していた。
ロゼもまた、ゾディアックに迷惑をこれ以上かけてしまうのは流石に気が咎め、見張りに集中していた。
朝日が部屋に差し込んでいるのを、ベッドに乗ってロゼは眺めていた。その視線は移動していき、窓際で椅子に座って、窓の外を眺めているゾディアックに向けられる。
冒険者であるため徹夜には慣れていると豪語していたが、やはり人間であるため、少し船を漕いでいた。
ロゼの手がベッドの毛布を掴み、布が擦れる音を響かせながら、ゾディアックの方に向かう。
「……ん。おはよう。ロゼ」
ゾディアックが振り向く。疲れを感じさせない、だが何処かぎこちない笑みが向けられる。
「ああ。おはよう」
「敵の気配、一切しなかった」
「そうだな。見張りご苦労。ご褒美だ」
そう言って、持ってきた毛布をかける。暖かく柔らかい素材で出来た毛布がふわりとゾディアックを包む。
「……あったかい。ありがとう、ロゼ」
ゾディアックの微笑みを見て、ロゼは抱きしめたい衝動に駆られた。
「アホか私は!!」
「ええっ!!? どうした!?」
「何でもない! お前はちょっと寝ていろ!! 今日は花火を一緒に見るんだぞ。その時になってぶっ倒れたりしたら、血ぃ全部吸うからな!!」
顔を真っ赤にして怒るロゼを見て、ゾディアックは無邪気に笑った。
再び抱きしめたいという思いがこみ上げてきたため、ロゼの視線は朝日を浴びる街に向けられた。
♢◆♢◆♢◆
午前中から再び街に出ると、昨日より道を歩く人の数は減っていた。
「花火がある。だから夕方くらいまでは何処に行っても混みあわないかもね」
「なるほど。じゃあ周囲を警戒しつつ、また屋台のぞいて……」
昨日2人が出会ったアーチが見える所まで足を運んだ時だった。ロゼの足が止まり、ゾディアックの眉間に皺が寄る。
目の前に、白銀の鎧を着た集団が移動していた。腰には直剣を装備し、体全体を守れるほどの大きな盾を背負っている。20名弱の集団は隊列を乱すことなく歩き続け、アーチの前で立ち止まった。全員同じ動きをし、一挙一動、寸分の狂いもない。顔が見えない兜のせいで、精密な機械でも入っているのかと思ってしまう。それほど正確で、生気が感じられなかった。
祭りを楽しんでいた人々もまた、笑顔を消して道の端に寄り、騎士の集団を見つめていた。
ギルバニア王国が誇る最強の戦力、「騎士団」が姿を現した。
ひとりひとりの強さが、冒険者でいうS級以上。もしこのまま全員と戦闘になったら、ゾディアックといえど苦戦は必至である。
「副団長に礼!!」
騎士達は一斉に剣を抜き、自身の前で剣の腹を見えるように構え、切先を上に向ける。
「ご苦労」
凛とした声、それでいて、まるで氷のような冷たさを感じる儚く高い声が街中に響いた。
決して大きな声ではない。だが、周囲は水を打ったように静まり返った。
アーチから1人の騎士が出てくる。
星の様に輝く長い銀髪を靡かせ、薄く蒼の入った鎧を身に纏う女性が姿を見せた。その美しい横顔と出で立ちに目を奪われながら、女性の声に耳を傾けた。
「昨夜、不可思議な魔力を感知した。このギルバニアで、許可されていない二重魔法が使用された……これは由々しき事態だ。諸君、騎士団の誇りを胸に、早急に犯人を捕まえるぞ。決して殺すな。王の剣に誓って、地獄の苦しみを与えよう」
『王の剣に誓って!!!』
騎士達は声を揃えて声を発すると、剣を収めて5名ずつのグループに分かれて移動を始めた。
女性の声は冷ややかだった。だが微かに怒りが混じっていたのを感じ取れた。
騎士団が捌けると、副団長と呼ばれていた女性は周囲に笑顔を向ける。
「皆様、ご迷惑をおかけしますが、どうかご容赦を。我々のことは気にせず、「ヴレント・フェスティン」をお楽しみください!!」
先程の声色とは打って変わって、明るい声が響き渡った。周囲の人々は警戒しながらも副団長と呼ばれた女性から視線を外し、やがて祭りの喧騒が戻ってきた。
「ゾディアック。あいつ相当強いぞ」
小声で話しかけてきたロゼに頷く。強者と戦い合ってきた2人だからこそ、副団長の纏う強者の雰囲気を察知した。恐らく1人で、先程整列していた騎士達と、互角以上に渡り合えるかもしれない。
底が見えない不気味さを感じていたせいか、副団長を睨み続けていた。
その時だった。副団長の目がこちらを向く。先程は横顔しか見えていなかったため、オッドアイだというのに今気づいた。ロゼよりも深い赤色の瞳とゴールドの瞳がこちらを射抜く。そして、最早作り物ではないかと思う程の精巧な顔立ちを見て、若干の恐怖すら覚える。
自信に満ちた表情を浮かべながら、ゾディアック達に近づいてくる。
自然とゾディアックの体はロゼを隠すように動く。そして、目の前にやってきた副団長は頭を下げる。
「失礼。あなた達の目線が気になりまして」
警戒心を露わにしている。まさかバレたのか。
一瞬頭の中に「逃げる」という選択肢が浮かぶが、得策ではない。「戦う」などもってのほかだ。ゾディアックは今武器を持っていない。部屋にあるハルバードを装備するまでの時間を、副団長と呼ばれる女性がくれるわけもない。
ここは相手の出方を見て、怪しい動きをしないようにした方がいい。
「それは、悪かった」
「いえいえ。話しかけたのは別の理由があります」
副団長の目がゾディアックとロゼを交互に見る。
「相当な実力者ですね。冒険者ですか?」
「まぁ」
「ランクは」
「……J」
その瞬間、副団長の目が大きく見開かれた。
「……微量ながら漏れている魔力は抑えきれていない証拠。抑制装備まで使用しているとはお目にかかれない……お名前を聞いても?」
「……ゾディアックだ」
そう答えると、目の前の女性は口元に笑みを蓄えた。
「……ゾディアック・ヴォルクス。なるほど、浅黒い肌の暗黒騎士。嘘ではないらしいですね……そちらの女性は?」
「……ろ、ロゼだ。えっとランクは」
「Sだ」
ゾディアックの嘘に、ロゼが驚いた顔をして見上げる。
嘘を吐いたのには理由がある。先程の問答で、ロゼが吸血鬼だとバレていないのが確定した。であれば彼女は、少なくとも今は敵ではない。
「それはまた……」
副団長は喉を鳴らし、背筋を正す。
「申し遅れました。私の名はリリウム・ウィンバー・ハーツ。ギルバニア王国騎士団の副団長であります。お見知りおきを」
リリウムと名乗った副団長は右手を差し出す。ゾディアックは握手に答え、ロゼは視線を外さない。
握手を終えると、リリウムは喉を鳴らした。
「早速で申し訳ないのですが、お二人にお願いがあります」
「……お願い?」
「私達の仕事を、手伝っていただけませんでしょうか」
そう言って頭を下げる。
ゾディアックとロゼは疑問符を浮かべ、相手の言葉を待った。




