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第11話「冒険者」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 冒険者達と亜人達が睨み合う。

 エリーはナイトの声色から狂気を汲み取る。冷静さを欠いているのかいつ暴れてもおかしくない。

 冒険者の集団が武器を抜いた場合、大好きなこの酒場が血で染まることになる。


「どうした! 何も言わないのか!! 仲間をかばっているなら容赦しないぞ!」


 ナイトの声が店内に木霊する。柄には手をかけたままだ。

 亜人達は怒りを露わにした表情で冒険者達を睨みつける。亜人達は全員卓越した身体能力や、鋭い爪、炎の息吹、魔法と行った様々な能力を種族ごとに持っている。つまり、武器無しでも十分戦えるのだ。

 だが冒険者に手を出したら、例えどんな理由があっても罰は免れない。


「……情報だけでもいい、寄越せ」


 ナイトの言葉に、微かな迷いが見えた瞬間。


「おうい! お前さんがた」


 ブランドンが声を上げる。全員の視線が動く。


「せっかくの酒場なんだ。酒でも飲んで話しようや。な?」


 白銀の兜を被るナイトの、鋭い視線がブランドンを穿つ。対し睨まれたブランドンは余裕を持った笑みでそれを迎え入れる。

 警戒心を露わにしながら、3人の冒険者は睨みつける亜人達を無視し、カウンターまで歩み寄る。


 たどり着くと同時にナイトが間髪入れず、カウンターに拳を叩きつけた。


「酒を飲んでいる暇はない。お前はこの店の主か」

「まぁそうなんだけどよ。そんなギンギラな籠手つけたまま叩かないでくれよ。傷出来ちまう」

「この程度の傷で済ませたければ、誘拐した犯人を教えろ」


 決めつけるような言い方に対し、エリーは唇を尖らせナイトを睨む。

 詰め寄られているブランドンは剥き出しになった牙を指先で触ると、小さく唸り声を上げ。


「悪いな。知らねぇよ」


 あっけらかんとそう答える。再びナイトが拳を打つ。


「嘘を吐いているな!」

「本当だよ。嘘吐いてどうするよ」

「亜人は忌み嫌われているが故に、同族同士の仲間意識が強い。庇っているのは明らかだ」

「あのな。俺の店が荒れそうになっているのに、そこまでして庇う仲間なんざこの街にはいねぇよ」

「……金か。いくらだ」

「太っ腹だねぇ兄さん。好きなだけ金出してくれよ。代わりに俺が出せるのは、その金額に見合った酒とつまみだけだ」


 余裕綽々とした様子でグラスの清掃をしながらブランドンはナイトと話す。ナイトが剣の柄を握り締めても、ブランドンは目尻を少しも動かさない。

 このまま話していても拉致があかないと思ったのか、鎧を揺らしながら周囲をキョロキョロと見渡し新しい”獲物”を探し始める。

 その目がエリーに止まった。ナイトは顔を歪め、短い笑い声を吐き出す。


「何で亜人が白魔道士の服を持っている?」

「そりゃ兄さん、決まっているだろ。この猫娘は立派な白魔道士の冒険者で」

「もっとマシな嘘をつくんだな!!」


 歯を剥き出しに怒りの言葉を放つ。そして 眉間に皺を寄せ、鬼の形相を浮かべながらエリーに詰め寄る。


「お前! その服を見せろ! それはラズィの服だな。引ん剝いて自分の物にしようって腹か。薄汚い獣め」

「……落ち着いてください」


 酒が入っているせいか、エリーの語気が強まる。


「いいですか。もし私がこの服を盗んだとしたら速攻で売り飛ばします。冒険者でもないのに、わざわざこんな目立つ衣服を身に纏って、この街を歩くなんてことはしません」

「じゃあ何でその服を持っている!」

「私が白魔道士の冒険者だからですよ」


 そう言って視線を外す。すると、小馬鹿にするような咳払いが耳に届く。


「亜人如きが冒険者など名乗るな。恥を知れ」


 瞬間エリーの魂から怒りという炎が沸き起こる。炎は体を巡り、爆発しそうな勢いだった。その勢いに任せ、席を立とうとした。


「待ちな、兄さん」


 ブランドンが笑みを消し、サングラスを取る。紅蓮の鋭い瞳が白銀の騎士を射抜く。


「その言い方はねぇだろうよ。亜人は嫌われている存在だ。だが冒険者を名乗っちゃいけねぇなんてことぁねぇ」

「黙れ。亜人には能無ししかいないだろうが」

「そうかもしれねぇ。だがな、そんな中にたまぁに天才が生まれる。それがこの子だ」


 ブランドンはエリーに向かって顎をしゃくる。


「この子は努力をしてやっとの思いで白魔道士になった。努力をし、魔法も使え、装備も整えクエストもこなした経験がある。任務に勤しむに相応しい実力を持っていれば、それはもう立派な冒険者だ! そこに人間も亜人も関係はない!」


 ブランドンの言葉はナイトに口を開かせる機会を与えない。怒りの唸り声を上げていた亜人達も、いつの間にか唸るのを止め聞き入っていた。


「冒険というのはこの世に生きる者達全てに与えられた、最も自由で優雅な権利! 生物は生まれた時から皆が冒険者だ!! この言葉を王都で発したのは、かつて魔王を倒した英雄と共に旅をした亜人!! 彼女と同じケット・シー、「マリア・オーシャン」! 誇り高き冒険者だ!」

「黙れ! あれはたまたま仲間になっただけの”慰み者”だ! 人間の冒険者達を愚弄するつもりか!」

「そんなつもりはない! だが」


 大きな緑色の人差し指が、ナイトの胸元を差す。


「種族の違いだけで「お前は冒険者ではない」などと抜かす、お前のような若造の方が、よっぽど冒険者を愚弄しているとは思わないのか! 恥を知れ!!」


 酒場が亜人達の歓声に満たされる。


「そうだ! よく言ったぞ!」

「亜人の冒険者も最近増えてるじゃねぇか!!」

「エリーちゃんの方がお前らより立派な冒険者だぜ!」


 周りの言葉を背中に浴び続けるナイトは、顔を下に向け、カタカタと震える。お供の2人が顔を見合わせると、女性のモンクがその耳元に囁く。エリーの耳が、その言葉を捉える。


「出直しましょう。それに、この人達が悪いようには私には見えない」

「お前、亜人の味方をするつもりか?」

「少なくとも、あのハイオークが言っていることは間違ってないわ」


 冷静にそう言うと、オークを見て頭を振る。このまま去るのであれば、追わないでほしいという意思表示だろう。


「まぁ兄さん方よ。そこに座ってゆっくり話でもしようや。な? パーティーメンバーなのかい、ラズィって子は。容姿を教えてくれれば俺も探すよ」


 ブランドンが優しく声をかける。どんな相手でも彼にとってはお客様なのだ。しっかりもてなそうと柔らかい物腰で接する。


 だが、それが間違いだった。 

 

「……ラズィは、俺の恋人だ」


 ゆっくりとした、だが重みを感じる言葉だった。明らかに声色が違う。

 エリーはハッとしてその目を見る。どす黒い光を放っていた。


「待っ」

「ちょっと!」


 エリーとモンクが声を上げようとしたのと同時にナイトが剣を抜く。


「軽々しく、醜いハイオークが、その名を呼ぶなぁ!!!」


 プラチナで出来た、魔力を帯びているブロードソードの切先が、ブランドンに突き刺さった。




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