表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

34話 推理、或いは決意


 さい、あく、だね。


 本当に最悪の気分だよ。


 僕は、徐々に遠ざかって行くご主人サマの気配に対してそう毒づいた。


 自然と目元に深いシワが寄って、険しい目つきで虚空を睨みつける。


 「……ど、どうしたんだよ、魔蔵」


 不意に立ち止まって、突然にあらぬ方向を睨みつけ出した僕に、愚かなグラスホッパーが不審げに問いかけてきた。


 きみは……ちょっとの間、黙っていることはできないのかな。


 「――土蔵、進路は今、どうなっている?」


 「え? 魔蔵が言ったとおり……西の聖都に……」


 ふん、なるほど……そうだったね、でも……。


 「仕方ないね、最後のグリモワールを、……に入れたいところだったけど」


 僕は、怪訝な視線のまま、僕を見下ろすグラスホッパーを一瞥し、また言葉を紡ぐ。


 「じゃあ、このまま進路を王都、人の国の都に移して」


 それを扱う者がいないのなら、グリモワールなんて精霊を閉じ込めるための蛹に過ぎないからね。






 僕ラは、精霊だ。今代の精霊の中で、最も早くに目の覚めた、魔道書の守護者だ。


 全てを捨て、全てを得た。僕ラはそんな、哀れな存在だ。だからこそ、他の精霊は過去を知らない。


 土蔵でさえ、僕との過去を覚えてはいない。いい、それで構うことはない。


 なぜなら、忘れるということは、僕に言わせれば滑稽で、それこそ悲嘆の極まだけれど、彼女ラは、土蔵は、忘れることで、今が幸せなんだろうから。


 僕は、前を進みゆく2人の、大きな背中と小さな背中を見やる。ご主人サマが、“ダレか”の指示で、王都で勇者たちを襲撃した。


 それが、どんなことになるかもしれないで、140年前の、悲劇の引き金を、ご主人サマは知らぬとはいえ、その手で、その引き金を引いてしまった。


 もう戻れないところまで、魔道の渦は沈んで行ってる。本当は、こんなことは僕ラだけで片付けてしまいたかったけど。


 ぼくは、前を歩く、大きい方の背中を強く見つめる。瞬間、僕の胸に走る、甘く、切ない疼き。


 飛蝗――グラスホッパー。ご主人サマが創り出した。人身御供。サウルちゃんの代わり。


 僕は目を細める。狭まり、暗がる視界の中に、それでも2人の背中は消え失せない。


 もう、こうなったら、枢密院も、マンティスの兄弟どもも信用する事はできない。


 140年前の……ひいては、8年前に起きたっていうテンペストが……何者どもかの、複雑に絡まり合った目的の中で、再び引き起こされようとしている。


 そして、その渦中には、何も知らない、その複雑な糸に縺れて、身動きを失ったご主人サマがいる。


 僕は、そんなことは認めない。何も知らないご主人サマが、そもそも、この世界での住人ですらないご主人サマが、その渦の中に穂おり出されることはない。


 ――この世界の、住人じゃあ、ない。


 ――引き起こされかけている、140年前の悲劇の再現。


 ――そして、事実、8年前に再び行われた、テンペスト。


 皇帝の生まれた年、8年前、サウルちゃんのお母さんが死んだのも、8年前。


 ッ……――!?


 そうか、なら……僕ラは、それを利用してやればいい。ここまで、これまでサウルちゃんのエゴによって召喚され、無垢のままこき扱ってきた報いだ。


 枢密院も、サウルちゃんも、マンティスも、パピヨンも。全て、今までの報いを与えてやろう。


 彼らが行おうとしているテンペストを利用して、ご主人サマを……ついでに、竜登たちを。


 元の、世界に返そう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ