開幕前の出来事
朝のちょっとした時間に表紙を仕上げてみました。
一応女装verなっちゃんです。
それではまだ先行きさえ決まっていない第二部のはじまりはじまり~
塔宮本家からそれほど離れていない郊外に、水城家の屋敷がある。
水城家は塔宮の分家筋で、そこの娘である水樹七海は塔宮悊人の第二秘書でもある。
七海は当主候補の一人でもあり、現時点においては最も最有力とされている逸材だ。
水城家の屋敷には、今現在彼女を含めて七人の当主候補が集まっている。
塔宮本家ならまだしも、分家の屋敷に当主候補が集まるなど通常ならあり得ない事態だった。
客間に集まった候補者達は、一様に難しい表情をしている。
「七海さん、それは本当ですか?」
最初に口を開いたのは荻蔵静留。
眼鏡をかけたインテリ風の少年で、神経質そうな顔で眼鏡をくいっと上げる。
「ええ。本家のお嬢様が本格的に当主争いへの参戦を表明したわ。その手始めなのかどうかは分からないけど、塔宮学園の経営権が彼女に移っています」
スーツをビシッと着こなした七海が冷静な表情で答える。
「ちょっと待ちなさい七海! どうして当主にもなっていないのに塔宮グループの経営権を一部とはいえあの女が握っているのよ!? 納得がいかないわよ!」
すかさず反論したのは仙堂凛。
邑璃と同じ年くらいの少女だった。
プライドの高そうな少女で、いかにも他人を見下します的な雰囲気を纏っている。
「私に聞かれても困るわね。当主様がお決めになったことだもの。結局のところ自分の娘には甘いんでしょう」
七海は表情一つ変えずに答える。
しかしその内心は決して穏やかではないだろう。
「ふん。本家の嫡子だからってどんな我が儘でも通ると思ってるんじゃないの? やな感じだよね」
「………………」
幼い声でそんな風に言うのは春日位天華。
まだ小学生の男の子で、この中では一番の子供だった。
周りに負けまいと精一杯生意気そうに振る舞っているのが逆に微笑ましくもある。
その横では学ランを着た少年、辻乃丞羽塁が難しい表情で七海を見ている。
「まあまあ、みなさん落ち着きましょうよ。ここで言い争っていても事態が変わるわけではないでしょう?」
のんびりとした口調でみんなをなだめるのは遠巳坂枢。
外見も口調もゆるっとした穏やかな女性で、とてもではないが他人と争えるような性格には見えない。
「邑璃さんだって何か思うところがあって主張を変えたのでしょうし。元々は彼女だって正統な候補なのですから、そこまで目くじらを立てることないと思うのだけど」
「そうですね。たとえ彼女が経営権の一部を握っていたとしても、我々の内の誰かが当主の座を勝ち取った時にそれを返上させればいいだけのこと。そこまで気にするほどのことではないと思いますよ」
枢を援護する青年は篠之芽緋樫。
大学院生である彼は、すでに博士号を二つも取っている天才だった。
「問題はどうして彼女の気が変わったのか、だな」
緋樫がそのまま続けると、七海が顔を上げた。
「塔宮棗生。彼女が変わった原因はそれしかないわね」
「塔宮棗生? 誰だよそれは。本家にそんな奴がいるなんて聞いてないぞ!」
すかさず天華が噛みつく。
「最近本家に迎え入れられた養子よ。元々の名前は伽室城棗生。ボンクラ食品企業の次男坊ね。経営破綻していたところを彼の身柄と引き替えに資本投資を行ったのよ」
第二とはいえさすがは悊人の秘書。その辺りの事情にも精通していた。
「何を考えているのか、彼を女装させて塔宮学園に編入させているわ。もちろん女子校の方ね」
さすがは第二秘書。知らなくてもいいことまで知っている。
「うげ……」
「あらあら……」
静留が気持ち悪そうに眉をしかめ、枢は困ったように苦笑した。
「本家のお嬢様を変えたのは女装趣味の変態野郎ですか。それはそれは面白そうですねぇ」
緋樫だけは愉快そうに肩を揺らしている。
「咲来や斗織がこの件に関して何も言ってこないのも、彼が関係していると思うわ」
「ふうん。会ってみたいな、その変態野郎」
天華がそんな事を言う。
気持ち悪さよりも純粋な好奇心が勝ったようだ。
「それは無理だと思うわ。彼は邑璃さんと違って滅多に本家に寄りつかないもの。彼に会おうとするなら女子校の中に入らなければならないわ。この中で可能なのは私と凜と枢さんくらいのものね」
「あらあら。でもわたしももう高校生には見えないから無理じゃないかしら」
「そんなの理由を付ければどうにでもなるわ。ただ私にも枢さんにもそこまでして彼に会いたいわけじゃないっていうのがネックだけれどね」
「それもそうねぇ」
七海は秘書の仕事に追われていて、とてもではないが会いに行く時間は取れないし、枢の方もそこまでの興味はない。
「あたしは会ってみたいわ!」
凜が腕を組んだままそう主張した。
「ふむふむ。ではここで質問です。この中で変態野郎に会ってみたい人は挙手してください」
自分の知らないところですっかり変態野郎扱いされている不憫な棗生だった。
手を上げたのは静留、凜、天華、羽塁の四人。
羽塁の方は無口ながらも自分の主張はきっちりする少年だった。
「僕を含めて五人ですか。これは是非とも実現させたいですね。何か方法はありませんか? 七海さん」
「無茶言わないで頂戴。ただでさえ学園内の権限はすべて邑璃さんが握っているのにどうやって干渉しろっていうのよ」
「ですから、彼女に交渉するんですよ」
「……なにか、とんでもない悪巧みをしてるんじゃないでしょうね?」
「とんでもない。僕が考えているのは常に他人をどう面白可笑しく出し抜くことか、という程度のことですよ」
「…………相当にタチが悪いわね」
にやりと口元を吊り上げる緋樫を前に、七海が呆れたように肩を竦めた。
「貴方が交渉するっていうんなら好きにしなさいな。私は一切協力しないから」
「結構。ではちょっとしたお祭り計画でも練ってみますかね。参加者は僕を含めた五人ということでいいですか?」
「ふふふ。ちょっと面白そうだからわたしも参加しちゃおうかしら?」
「ええ、構いませんよ枢さん」
こうして、邑璃と棗生の知らないところで二人を巻き込むとんでもない計画が立てられることになった。
物語が始まるのはもう少し先。
彼らが舞台に上がってからのことになる。
いまいち盛り上がりとコメディ風味に欠ける始まりで申し訳ないです。
毎週土曜日くらいに更新すると思いますのでよろしくお願いします。




