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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
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55/92

クラスメイトはみんな敵!?

「……は?」


 第二部開始早々こんなセリフから始まって申し訳ない限りだが、しかしそんなセリフしか出てこないのだから仕方がない。


 第一部でも似たような感じになっていたような気がするが、まあそこは気にしないという事で。


 いやいや。


 だってさぁ。


 ……は? の一つも言いたくなる状況なんだぜ、これって。


 とりあえずここはどこかという説明から始めなければなるまい。


 説明するまでもないような気がするけど語り部がこの俺・塔宮棗生(とうぐうなつき)である以上、ここは塔宮学園内の敷地でしかありえない。


 んでもってここは俺がいつも通っている2-Cの教室ではない。


 何故か普段は使っていない空き教室に通されてしまったのだ。


 そしていつの間にか机や椅子を整えられた空き教室には、俺と邑璃(ゆうり)、そして咲来(さくら)がいる。


 それだけならまだいい。


 しかし問題はその先、むしろその向こう!


「訳ありでこちら側に転校してきました。草薙斗織(くさなぎとおる)です。皆さんよろしくお願いします」


「………………」


 なぜここに居る!?


 という疑問はこの程度ではぶつけられない。


 何故なら……


「オーッホッホッホッホッ! 仙堂凛(せんどうりん)ですわ! 皆様よろしくお願いされてあげましてよ!」


 何故か妙に高飛車な、咲来以上にお嬢様然としている女がそんな自己紹介をする。


 髪型は左サイドでひとつくくりにしているのがちょっと特徴的だ。


 こういう感じならむしろ時代錯誤縦ロールとかの方が似合いそうなのに。


 しかもよろしくお願いしますじゃなくて、お願いされてあげましてよ、かよ。


 どんだけ偉そうなんだ。


「荻蔵静留(おぎくらしずる)です。別によろしくしてくれなくても結構です」


「………………」


 今度はインテリ眼鏡かよ。


 しかも仙堂凛と同じくなんか嫌味な感じがするし。


「……辻乃丞羽塁(つじのじょうはるい)」


 今度は名前だけの自己紹介かよ。


 なんか無口っぽいってことは分かる。


 そしてトドメが、


「春日位天華(かすがいてんか)だ! わざわざ飛び級して転校してやったんだから感謝しろっつーの! えっへん!」


「……どう見ても小学生だし」


 というか日本の義務教育に飛び級制度などなかったはずなのだが。


「たあっ!」


「っ!!??」


 俺の呟きが聞こえていたらしい天華少年は、いきなり背負っていたリュックサックを投げつけてきた。


 しかも、


「子供だからって馬鹿にすんな! この変態野郎!」


「っ!!??」


 子ども扱いが気に食わないだけならまだいい。


 しかしどうして初対面の子供相手に変態野郎とまで言われなければならないのか!?


「知ってるんだぞ! お前ほんとは男だろ! 女装趣味の変態野郎なんだろ!」


「なっ!!」


 なんで知ってる!


 いや! そうじゃなくて!


 ほかの奴らもいる前でなんてこと言いやがるんだこのクソガキ!


 俺は慌てて周りを見渡すが、特に変わった様子はない。


 信じていないのか。


 それとも……


「ここにいる奴はみんな知ってるぞ! この変態」


「……は?」


 再び周りを見渡す。


 誰一人として今の言葉に動揺した様子はない。


 しかも、


「もちろん知ってるに決まってるでしょ、変態野郎」


「他人の悪趣味をどうこう言うつもりはありませんが、女装して女子高に通うのはさすがに常軌を逸していますね。変態という言葉が相応しい」


「……変態」


「くあっ……!」


 仙堂凛、荻蔵静留、辻乃丞羽塁の順番でとどめを刺されてしまった。


 それにしてもここまで連続で変態扱いされるというのはさすがに心が折れそうになるなぁ。


「ど、どうなってるんだ……?」


「あ、あのね、なっちゃん。言いにくいんだけどこの子たちみんな候補者なんだよ……」


 この段階でようやく邑璃が口を開いてくれた。


 へこたれそうになっている俺を見ていられなかったらしい。


「候補者って……全員……?」


「そうですわ。何がどうなってるのかはわたくしにも不明ですが、当主候補の半数以上がこの場所に集まってしまっていることは確かですわ」


 横から咲来が続ける。


「じゃあ俺の事情を知ってるってのは……つまり……」


「塔宮の関係者から洩れた情報だろうね。大体の見当はつくけど」


「………………」


 ま、まあいい。


 塔宮家の関係者が集まってしまっていることはいいとしよう。


 ここは曲がりなりにも塔宮学園。


 塔宮家の関係者が一時的にも集まってしまうことは、まあありえないことではない。


 しかししかししかしだ!


 何故に揃いも揃い踏みで女子高に転校してくるのだ!?


 しかも年齢もバラバラなのに何故に同じ教室に集められているのか!?


 はっきり言って訳が分からない。


「あう……まあその、色々あってね……」


 俺が混乱していると邑璃が非常に気まずい表情で説明、もとい言い訳をしてくれる。


「なんかね、わたしがいきなり当主争いへの参加表明をしちゃったのがまずかったらしくって……」


「違いますわ。参加表明ではなく、正式に当主の座を引き継ぐ前に塔宮グループの経営権を一部とはいえ自分のものにしてしまったのがまずかったのですわ」


「それってつまり……」 


 塔宮学園理事長の権利のことを言っているのだろう。


「原因、俺!?」


 邑璃が塔宮学園理事長になったのは、俺を自分の傍に引き留めるためだった。


 そんな我が儘がきっかけでこいつらはここに集まってきたというのだろうか。


 それはいくらなんでもやり過ぎじゃないのか? なんて思うのは俺だけか?


「いやいや。でもさ、塔宮学園の経営権なんてグループ全体から見れば些細なものだろ? 邑璃だって一応は本家の嫡子なんだしそこまで目くじら立てるほどのものでもない気がするんだが……」


「ふふふ。いかにも庶民らしい、短絡的な考え方ですね。まあ元々は愚民なのですから仕方ないかもしれませんけど」


「っ!!??」


 後ろ側の入り口から新たな侵入者……もとい転校生?


「………………」


 ……でもないな。アレはどう見ても高校生には見えない。


 どう若く見積もっても二十歳は越えている。


 あれで高校生だっていうのなら老けすぎだ。 

 

「つーか愚民って……」


 いくらなんでも酷過ぎる。


 変態、女装趣味、庶民、愚民。


 何故にそこまで言われなければならないのか!?


「いいですか? 確かに塔宮グループ全体からすればこの学園の生み出す利益など微々たるものです。たとえるならばひと塊の筋子とひと粒のいくらのようなものです」


「そ……そうなのか……」


 山一つ占領する規模の学園都市なのに。


 それよりもそのたとえはちょっとあんまりすぎやしないだろうか……。


「それでもこの学園は塔宮グループにとっては重要なものです。経済的資源ではなく人的資源の宝庫なのですから」


「あ……」


 なるほど。そういうことか。


 ここは未来の塔宮グループを担う人材を育成する場所でもあるということだ。


 学園内で何らかの結果を残した者は高確率で塔宮グループにスカウトされる。


 幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、専門学校まで揃っている学園都市の中だ。


 将来を見越して人材育成をするにはまさにぴったりな環境だろう。 

 

「つまりはこの学園の経営権を握るということは、将来的に自分に都合のいい人脈を作れるということでもあるのですよ。君はそれでも目くじらを立てるほどのものではないと言えますか?」


「う……言えない、かな……?」


「分かればよろしい。なかなかに素直な愚民ですね」


「愚民言うな」


「ああ、紹介が遅れました。僕は今日からこの特別クラスの臨時講師としてここに来ました。篠乃芽緋樫(しののめひがし)と言います。ちなみに僕も一応候補者ですから」


「あ、そう……」


 篠乃芽は慇懃な口調で教卓の方へ移動していく。


「俺、あいつの授業は受けたくないな……」


 愚民呼ばわりされたことに腹が立ったままの俺はそんなことを呟く。


「あらあら~。駄目よそんなこと言っちゃ」


「ひょわあぁぁぁぁっ!!??」


 いきなり俺の右耳に熱い吐息が吹きかけられる。


 耳を押さえて振り返ると、そこには綺麗なお姉さんがいた。


 ふわふわの栗色ロングヘアーは彼女の印象をどこかゆるいものに見せているけれど、いきなり人の耳に吐息を吹きかけるあたり、絶対に見た目通りの性格ではないだろう。


「ちょっとくーちゃん! なっちゃんにエロいことしていいのはわたしだけなんだからね! かってに誘惑しないでくれるかな!」


「………………」


 横にいた邑璃が全く見当違いの怒りを露わにしていた。


 つーかお前にエロいされるつもりもねえ!


 するなら俺がする!


 ……いや、そうではなく!


「あらあら~。ゆうちゃんごめんなさいね。あんまりにも美味しそうな子だったからつい」


 くーちゃんと呼ばれたお姉さんはくすくすと笑う。


 ちっとも反省していないみたいだ。


「うふふ。自己紹介が遅れちゃったわね。私は遠巳坂枢(とおみざかくるる)です。緋樫くんと一緒に皆さんの授業を担当します。よろしくね~」


「は……はあ……」


 転校生&強制乱入講師もどき、合計七名がこの塔宮学園女子高に乗り込んできた、ということになる。


 原因は邑璃が塔宮学園の経営権を握ったことと、当主争いへの参加表明をしたこと。


 あとは多分、俺の値踏みをするためだろうな。


「さ、さすがにちょっとすごい事になりそうですわね……」


「トラブルの予感しかしねえっつーのが何ともな……」


「わたしはなっちゃんさえ隣にいてくれれば別にどうなってもいいんだけどね~」


「………………」


 こうして、塔宮本家当主候補が同じ学校の同じ教室内に、ありえない密度で集まることになるのだった。


 この先どうなるかなど俺に分かるはずもなかったが、少なくともロクなことは起こらないだろうな、という予感は確実にあるのだった。

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