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百合色革命  作者: 水月さなぎ
百合色革命 第一部
27/92

お友達から始めましょう的な? 07

「うあー……もう食えない……」


 椅子に背を預けながら、必要以上に膨らんでしまった腹をさすりつつ、俺は満足気分で呟いた。


 合計四十五貫。


 朝食の量としては破格だろう。


「よく食べたね」


「まあな……」


 悊人氏も二十貫近くは食べていた。


 それにしてもうまかった。


 板前の人格はまあ考慮に入れないとしても、寿司はめちゃくちゃうまかった。


 食後のお茶をすする。


 うん。お茶も上等だ。


「ゆーちゃんとは上手くやれているかい?」


「………………」


 ようやく本題かよ。

 

 今日はその話がしたかったんだな……。


 それにしても『ゆーちゃん』かよ……。


 親子揃ってアホっぽい呼び方だなオイ。


「まあ、上手くやれてると言えば上手くやれてると思う」


「そうかそうか。で、どこまで進んだ? もう最後までヤッてしまったとか?」


 ぶーっ、とお茶を噴き出してしまう。


「あ、あんた……他に言うことはないのかよ!? 父親として!」


「全くないね。元々そのつもりで送り込んだのだし」


「……なんつー父親だよ」


 娘の身体をなんだと思ってやがる。ついでに俺の身体もなんだと思ってやがるんだ。


「それで、どうなんだ?」


「……キス以上のことはされてねえし」


「そうかそうか。キスはされたのか!」


「嬉しそうに言うなよ……」


「もちろん初日から襲ってきただろう?」


「……分かってんなら聞くんじゃねえよ」


「なるほどなるほど。最後までいってないということは、まだ正体の方は隠し通せているわけか」


「いや……そっちは二日目にバレた」


「なに!? いくらなんでも早すぎだろう!」


「俺の落ち度じゃねえっ!」


 この間抜け、と言わんばかりの悊人氏に、俺はすかさず抗議する。


 正体がバレた時の状況を事細かに説明した。


 人目がある時は細心の注意を払っていたこと。


 浴室を使う時は必ず鍵をかけていたこと。


 その鍵をピッキングしてまで浴室に乱入してきた邑璃のこと。


「………………」


 その話を聞いた悊人氏は、


「さ、さすがだゆーちゃん! もうピッキングまで出来るようになったのか!」


「そこは感心するところじゃねえっ!」


 自分の娘が泥棒スキルを身に付けていることに対して感心するな!


「で、正体がバレた後もゆーちゃんは棗生くんと一緒にいることを選んだわけだね。ふむふむ……」


 何やらロクでもないことを企んでいそうな表情で頷く悊人氏。


「まあ、あれだな。男としての俺には興味がないらしいけど、女装姿の俺はストライクゾーンだったらしいぞ」


「ふむふむ。ひとまずは作戦成功だな」


「作戦って……」


 どんな作戦を立ててやがったんだこのオッサンは!


「なあに、大したことではないよ。ゆーちゃんの性癖についてはもちろん知っているからね。頭の痛い問題だが、だからといって頭ごなしに否定するのも逆効果だと思ってね」


「そりゃあ、一理あるが」


 誰だって自分の好きなことを頭ごなしに否定されたら、反抗の一つくらいはしたくなるものだし。


「だからまずは変化のきっかけをつくろうと思ったのだよ。棗生くんを女装させてゆーちゃんのところに送り込んで、このまま女装姿の棗生くんに惚れてくれればラッキー。正体がバレた後も何だかんだで惹かれてくれれば僥倖。さらには棗生くんがきっかけでゆーちゃんの内面に前向きな変化が起こってくれれば御の字、みたいな?」


「いやいやいやいやいや。何か知らんが色々企みすぎだろ!」


 一石三鳥くらいの企みじゃねえかよ!


「その企みも半分以上は成功しているから、まあ良しとしよう」


「よくねえよ! 特に俺が!」


「まあまあ。旨い寿司も食えたことだし、いいじゃないか」


「寿司で買収!?」


「細かいことは気にしたら負けだ」


「負けてでも気にするべき事があると思う!」


 俺的に崖っぷちなやりとりをしながら、悊人氏との対談を終えることとなった。



 別れ際。


「色々大変だとは思うが、ゆーちゃんのことをよろしく頼むよ。ああ見えてけっこう孤独な子だからね。できれば支えてあげて欲しい」


「まあ、俺に出来ることならな」


「ついでに男でもいいからと襲ってきたら受け入れてあげて欲しい」


「それは断る!」


 つーか襲われるって何だ!?


 俺が邑璃を襲う心配はゼロかよ!?


「責任を取る気があるのなら襲っても構わないがね」


「襲わねえよ!」


 責任なんか取れねえし!


「ではまた会おう。長期休みには本家に帰ってくるといい。恭子君が君に会いたがっているからね」


「絶対帰らねえよ!」


 はははは、と快活に笑いながら悊人氏は去っていった。


「ったく……俺の休日を半分以上潰しやがって……」


 時刻は昼過ぎ。


 友達と遊ぶにも中途半端な時間になってしまったので、適当に市街地をぶらついたりゲーセンに入ったりしながら気晴らしをした。


 たった半日足らずでも男として休日を過ごせたお陰で、ここ一週間鬱屈としていたものが少しだけ軽くなったような気がした。

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