お友達から始めましょう的な? 06
何だか微妙に丸め込まれた感じがしつつも、十兵衛に到着。
「あれ? 入るんじゃないのか?」
「今日は別館に行くんだよ」
狭いながらも金の掛かってそうな通路を通って、そのまま店の中に入るかと思いきや、地下の方へと移動してしまった。
「おう、いらっしゃいてっちゃん」
「朝から悪いね、十兵衛さん」
地下の貸切部屋に入ると、すでに板前さんが準備していた。
「ほらほら、棗生くん。入って入って」
「あ、ああ……」
若干気後れしつつも、部屋へと入る俺。
しかし……
「ぐはっ!?」
そんな俺の横を、まな板が飛来していた。
まな板!
そして顔面にまな板が直撃した悊人氏。どくどくと血を流しながら、床に倒れ伏している。
「ちょ……大丈夫か!?」
いきなりのバイオレンス展開についていけないまま、俺は悊人氏を抱き起こそうとするが、それは包丁を手にしたまま突撃してきた板前さんによって阻まれてしまった。
「てめぇ……」
板前さんは包丁を悊人氏の喉元に添えたまま、ドスの聞いた声で唸る。
「てっちゃん、てめえ確かに昨日言ったよな? 『美少女を連れてくるから最高のネタを用意して待っていろ』って」
「………………」
「それがなんだこのチビは!? 男じゃねえか! どこが美少女だ! オレはこんなチビのために早起きしてネタを目利きしてたっていうのか!?」
「チビ!?」
俺を指さしたまま悊人氏に激怒する板前さん。
チビ……。
人が気にしていることをかなり容赦なく突きつけてきたぞこの板前!
つーか悊人氏、そんなことを言って無茶を通したのか……。
「おいこら! 事と次第によってはてめえから寿司ネタにすんぞ!」
ぺたぺたと悊人氏の首筋に包丁を当てる板前さん。
眼がマジだ。怖え!
「………………な、棗生くんに、アレを………………」
半ば意識を失いかけていた悊人氏は部下に何かを命じていた。
「うわ!? 何すんだコラ!?」
そして部下達は俺を店の外へと連行する。
そして五分後――
「………………」
「な? 美少女だろ?」
「美少女だ!」
車の中で悊人氏が用意していた女性用の服を着せられた俺は、貸切部屋に戻っていた。
血を拭き取りながら俺を紹介する悊人氏。
さっきまでの態度とは一転して弾ける様な笑顔で俺を迎える板前さん。
「さあさあお嬢さん! 腕によりをかけて握りますからどうぞ座ってください!」
「………………」
さっきまで人のことをチビ呼ばわりしていた奴と同じ人物とは思えない態度の変わり様だった。
「あの……言っておきますけど、俺は男ですよ? あくまで女装させられているだけで」
「いやいや。オレは美少女ならニューハーフでもイケるクチなんで問題ないですよ」
「………………」
イケるなよそんなもん………。
色々と突っ込みどころ満載な板前さんだが、まあ、旨い寿司にありつけるのなら気にしない方がいいのかもしれない。
世の中には色々な人種がいる、というのはここ数週間で嫌と言うほど学んでいる。
「うまい!」
板前さんが握ってくれた大トロを口に入れながら、俺は素直な感想を漏らす。
とろけるネタ。ほどよく口の中でくずれていくシャリ。絶妙な塩加減。
うまい。うますぎる。こんなに旨い寿司が世の中にあるんだ!
握ってる奴はただの美少女マニアなのに!
「いやあ。こんな可愛いお嬢さんに褒めてもらえると嬉しくなっちゃうなあ! ほらほら海老もあるからどうぞどうぞ」
板前さんはご機嫌な様子で海老の握りを置いてくれる。
ちょい茹での海老がまた絶妙。
「……あれ?」
「ん? どうした棗生くん」
「いや。ウィッグがずれたみたいだ」
暴れながら無理矢理に女装させられたため、ウィッグの装着が中途半端だったらしい。半端にずれたままでは食べづらいのでそのまま脱いでしまおうとするのだが……
ひたっ!
「ひいっ!?」
脱いでしまう前に板前さんの長い包丁が俺の首筋に突きつけられた。
「そいつを取るな」
「………………………………」
眼がマジです。
怖いです!
包丁突きつけながらマジで睨んできてますよこの板前!
「オレは美少女に寿司を握ってやりたいんだよ。チビの小僧に時間外で握ってやる寿司なんざ一貫たりともねえんだよ。分かったか?」
「わ、わかりましたであります……」
こくこくと恐怖しながら頷く俺。
そうすることでようやく包丁は俺の首筋から離れてくれた。




