お友達から始めましょう的な? 04
一週間後――
紆余曲折はあったものの、一応はつつがなく女子校生活を送っているこの俺、塔宮棗生だった。
「……よし。寝てるな」
邑璃が自分のベッドで気持ちよさそうに寝息を立てているのを確認してから、俺はなるべく音を立てない様に外出着へと着替える。
本日は日曜日。
時刻は朝の五時。
邑璃が起き出さない内に何とか寮を抜け出さなければならない。
「……いや……別に逃げ出すとか、そういうわけじゃないんだけどさ」
あまりにこそこそしているのでまるでこの場から逃げ出す算段でも立てているような感じだが、そういうわけではない。
しかし考えても見て欲しい。
今日は休日。
部屋では邑璃にまとわりつかれ、学校では他の女子に神経をすり減らし、一週間を乗り切ったのだ。
初めての休日くらい、誰とも関わらずに一人でのんびりしたいと思うのは、ごくごく当たり前の心境ではないだろうか。
「そ~っと……そぉ~っと……」
そろりそろりと出口へと向かう。
絶対に邑璃を起こさないように。
「ふう……」
ひとまず、部屋からは脱出成功。
邑璃が起きた気配はない。
寮内の通路は薄暗いままだ。早朝の廊下の灯りは壁下にある非常灯のみで、それなりに静謐な空気を醸し出している。
一階に降りて管理人室を通り過ぎる。さすがに季武さんはまだ起きていないようだ。
しかし外出届は前日の内に(こっそりと)出しているので、このまま出て行っても問題はないだろう。
寮の外に出て、学園専用タクシーを呼びつける。
この敷地から徒歩で出ようとすれば、一時間近くは掛かってしまうだろう。貴重な休日の時間をそんな事で浪費する気はない。
「お待たせしました」
こんな早朝から呼び出されるとは思わなかったのか、運転手はあくび混じりで挨拶をしてきた。少しだけ迷惑そうな目をしていた。
「市街地までお願いします」
塔宮家専用ブラックカードを提示しながらそう言うと、運転手はさっきまでの迷惑そうな態度から一転して、びしっと背筋を正してしまった。
「か、かしこまりました!」
「………………」
その、あからさますぎる態度の豹変に苦笑いを浮かべながら、後部座席の背もたれに寄りかかる。
やっぱり、塔宮グループの社員にとってこのカードは絶大な威力を発揮するものらしい。
無制限クレジットというよりは、簡易身分証明みたいな感じになってるなあ。
市街地の公園までタクシーを走らせてから、俺は公衆トイレの前でキョロキョロとあたりを窺った。
時刻は六時前。
朝のジョギングやら犬の散歩やら、公園の周りにはぽつぽつと人がいるが、それでも昼間よりは遥かに人通りが少ない。
今のところ、誰もトイレには注意を払っていないようだ。
その事を確認してから、俺は男子トイレへとすばやく身体を滑り込ませた。
「………………」
って。何で俺が公園の男子トイレに入るのにここまで気を使わなければならないんだ!
……答えは決まっている。
今の俺は女装しているからだ。
女だからだ!
黒髪ロングのウィッグに清楚な白のワンピース。そんな姿で男子トイレにはいるところを見られたならば、何を言われるか分かったものではない。
「まあ、いいや。さっさと着替えてしまおう」
スポーツバッグを持ったまま個室に入り、男物の服に着替える。
「はあ。やっとすっきりした!」
男子トイレの個室から出てきた直後にそんな台詞を言うと激しく誤解を招きそうだが、もちろんそういう意味での『すっきり』ではない!
女装から解放されて、本来の男の姿に戻れたゆえの『すっきり』だ。
ウィッグを外し、ワンピースからブラウンのズボンと黒のジャケット。メンズのトレーナー。
どこからどう見ても男だ。
女装グッズはスポーツバッグの中にしまい込んである。
今度は何の気兼ねもなく男子トイレから出ていって、昇り始めた朝日を浴びてから伸びをする。
「ん~。さて、今日はどうするかな……」
一人でダラダラしてもいいし、友達を呼んで遊び倒してもいい。
男同士気兼ねなく、馬鹿話とかに花を咲かせるのも悪くない。
そう思って携帯電話を取り出し、友達の番号を呼び出そうとすると……
「もがっ!?」
いきなり背後から何かで口を覆われた。
「もがもがもが!?」
しかも数人がかりで身体の動きまで拘束されている。
「もがー!!」
トドメに公園の脇に横付けされた黒塗り高級車に無理矢理連行されてしまう。
「もがもがもがーーーーーっっ!!!!」
そしてそのまま黒塗り高級車に押し込められて、公園から遠ざかってしまう。
女子校に放り込まれてから、初めての休日。
初めての自由時間。
そんな儚い夢は、この段階で粉々に砕け散ってしまった。




