第三十話 発見と接触
ようやく、接触しました。お楽しみください。
1941年12月12日、ハワイ南西約600海里に1機の双発機が飛んでいた。
航空戦艦大和から発進した九八早警2号機である。
搭乗しているのは、機長の広瀬 結城大尉と副機長の綾峯 哲中尉他三名の合計5人であった。
広瀬「綾峯、どうだ反応は?」
綾峯「まだ無いですね・・・」
昨日から、間を置かず監視を行っているが未だに太平洋艦隊を捕捉出来ずにいた。
広瀬「そうか、何かあったら・・・」
綾峯「待ってください!」
突然綾峯中尉が叫ぶ。
綾峯「レーダーに反応、南西150㎞、小型艦複数・・・来ました、来ましたよ!輪形陣です!」
広瀬「本当か!!」
アメリカ海軍が作り出した最強の陣形と言われているのが、輪形陣である。対潜・対空能力に優れている駆逐艦を艦隊の周囲に配置、主力艦を内側に配置する完璧な陣形である。
綾峯「真珠湾に報告しますか?」
広瀬「いや、一度この目で確かめたい。燃料は大丈夫か?」
綾峯「大丈夫です。」
広瀬「よし、このまま行くぞ!」
広瀬機はそのまま太平洋艦隊へと向かった。
それから約6分後、ようやく後半分の所に来た時、ブザーが鳴った。
綾峯「逆探に反応、探知されました!」
広瀬「慌てるな!敵機が来まで時間はある。総員戦闘準備!」
狼狽える事無く、広瀬機は進んだ。
さて、驚いたのは太平洋艦隊側であった。突然レーダーに機影が現れた為、旗艦ペンシルバニア艦橋は大騒ぎになった。
ペンシルバニア 艦橋
キンメル
「敵機に間違い無いのだな?」
レーダー観測員
「はい、単機ですが周辺に我が軍の飛行場は有りません。よって、これは偵察機では無いかと・・・」
キンメル
「こんな所まで飛んで来るとは・・・」
開戦前から、日本軍の航空機技術はイタリア空軍並、即ち三流と考えられていた。しかし、やってくる敵機は双発機、おそらくハワイからやってきた陸上機だろう。航続距離は半端ではない。やはり、日本は思っていた以上に強いと考えたキンメルだった。
エンタープライズ
艦橋
こちらは別の意味で大騒ぎだった。ハルゼー中将が、日本軍機撃墜の為迎撃機5機を僅か3分以内に上げろと言う、無茶な指令を出したのが原因だった。
ハルゼー
「急がせろ!ジャップ共の紙飛行機を撃墜しろ!!」
小さいがジャップに一矢報いる事ができる、ハルゼーは早くも撃墜を確信していた。
逆探に反応があってから、更に10分。レーダーの反応は既に艦隊の陣容を映し出していたが、広瀬機は飛び続けた。自らの目で敵を見てみたい、広瀬大尉だけでなく全員がそう思っていた。
綾峯「対空電探に反応有り、敵機です!左下方10時の方向!距離凡そ20!!」
広瀬「右旋回!!」
広瀬機は右旋回を行った。
九八早警に搭載されているのは、主に敵艦隊を早期に発見出来る九七式空対艦電探で、対空用の九五式空対空電探は約20㎞が限界だった。
綾峯「敵機接近中!!」
搭乗員1「機長!9時の方向に敵艦隊!!」
広瀬「よし、高性能撮影機撮影開始!」
搭乗員1「ヨーソロー。」
この九八早警のもう1つの特長は、下方180度撮影可能の九八式撮影機が搭載されている事だ。高度4,000mからでも、艦形が判る程高性能な撮影機である。
搭乗員1「撮影完了!」
広瀬「真珠湾に報告!『我敵艦隊ヲ発見ス。位置ハ真珠湾ヨリ南西へ約700海里。』以上だ。至急真珠湾へ帰投する!全員、酸素マスク着用の後、高度10,000mまで上昇する!!」
そのまま広瀬機は高度10,000mまで上昇した。
太平洋艦隊 迎撃機隊
隊長
「馬鹿な・・・信じられん。」
発見した敵機の形にも驚いたが、高度10,000mを超えて尚時速550㎞を維持していた事に一番驚いた。
お椀の様な物を背負った敵機は、右旋回をした後直ぐに上昇、追い付こうといたら上昇限界に達してそれ以上追撃は不可能だった。
隊長
「糞!全機エンタープライズに帰還する。」
最早どうする事も出来ない迎撃機隊は帰還していった。
エンタープライズ
艦橋
ハルゼー
「何だと!迎撃に失敗したとは、どういう事だ!!」
ハルゼーの怒号が艦橋に響き渡る。
参謀
「隊長の話だと、敵機は高度10,000mまで上昇、速度を保ったままハワイ方面に向かったと・・・」
ハルゼー
「高度10,000m?!我が国でも未だに完成していない高々度機をジャップは作ったと言うのか!?」
技術大国のドイツでさえ、それ程の高度を飛べる機体は無い。つまり、日本は独自に高々度機を開発したのだ。
ハルゼー
「おのれ、ジャップめ。真珠湾を貴様らの墓場にしてやる。その墓場を粉微塵にしてやる!!」
怒りに顔を歪ませ、ハルゼーは既にいなくなった敵機の方向を向いて悪態を付いたのだった。
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