第十九話 一時の安泰と日米艦魂の会談
占領後のハワイと2人の艦魂がガチンコ勝負をします。
1941年12月7日午後2時34分、真・八八艦隊並びに第一独立機動艦隊はハワイオアフ島真珠湾(日本側、正式に命名)に全艦隊が入港した。
今作戦で損傷したのは、陸軍特設輸送艦『魔王』の中破のみだった。それでも損傷は損傷だった。
しかし、ハワイ周辺の艦隊は全て降伏したため全員は一時の安泰を感じていた。
同時刻オアフ島真珠湾
望月(さて、困ったな・・・)
目の前の状況を見て心の中で呟いた。
誰でも虎とライオンの喧嘩(実際にはほぼ有り得ない)を見れば逃げ出したくなるように、2人の戦姫の戦い(言い争っているだけだが)は凄まじく逃げ出したくもなると言う事だ。
この状況を説明するには時間を少し戻さなければなるまい。
同日午後1時26分、大和以下4隻は、フォード島対岸の空母ワスプ東部に接岸した。
現在の最高司令長官、ワスプの艦魂に出会う為であった。全員正装に着替えてワスプに転移した。
空母ワスプ 艦橋
未だに煙を上げている甲板の横の艦橋に彼女は、否、彼女達は居た。
制服はズタズタになっていたが、出血は無く、寧ろ怨めしくこちらを見る目からするにある程度の体力を回復しているようだ。
大和「大日本帝國海軍、真・八八艦隊旗艦の大和大将であります。」
礼儀正しく敬礼する大和に対して、ワスプも立ち上がった。
ワスプ
「アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊所属のワスプ中将、敗軍の将よ。」
自虐的に笑みを浮かべたワスプだったが、彼女の背後に隠れている少女(恐らく艦魂だろう)を庇っているようだ。
ワスプ
「其方の男性は?どうやら艦魂(私達)が見えるようですけれど?」
自分を指されて、望月も敬礼した。
望月「大日本帝國海軍、真・八八艦隊大和副艦長及び戦略参謀長の望月隼大佐であります。」
ワスプ
「ふぅん、で?日本の艦魂達がどう言ったご用件で?まさか、一緒にお茶会なんて事では無いでしょう?」
ワスプにも、相手がどう言った目的で来ているかぐらい分かっている筈だ。此方から言うのを待っているのだ。
大和「率直に申し上げます。」
一歩前に出て大和は言った。
大和「降伏して頂きたい。」
ワスプは顔を下げて、直ぐに上げた。
ワスプ
「残念だけど、それは出来ないわ。」
すると武蔵が乗り出した。
武蔵「何故だ!既にハワイ周辺は日本軍が制圧している。降伏しなければ自沈される事だって・・・」
ワスプ
「じゃあ聞くけど」
武蔵の話を遮ってワスプは言った。
ワスプ
「貴方達の停泊地のトラック諸島をアメリカ軍が制圧したからと言って、貴方達は降伏するの?」
武蔵「うっ・・・」
痛いところを突かれた。そうだ、日本だけでなくアメリカの艦魂だって好きで降伏する奴などいる訳がない。例え圧倒的な戦力を向けられても、自分なら最後まで戦い、そして果てるだろう。
ワスプ
「でしょう?それと同じ。私はね、大西洋から此方へ来てから、此処から出たことは無かった。言ってみれば私の故郷みたいなものなの。それをあっさり引き渡せと言われても、はいそうですかと承認できるものでは無いの。例え私1人になっても、最後まで此処を守るわ。」
こうなってはどうしようもない、全員が困っている時だった。
「あら。そんなに悲壮感漂う事を言うなんて、貴女らしく無いわね。」
全員が声の方を向く。するとそこには・・・
「お久し振りね、ワスプ中将。」
ワスプ
「・・・えぇ、久し振りね。扶桑大佐。」
綺麗な唐笠を背中に携え、朱色の簪がチャームポイントの強襲揚陸戦艦の扶桑が立っていた。
扶桑「今私は少将なの。それよりも本当に久し振りね。彼此2年ぶりでは無いかしら?」
ワスプ
「・・・日米合同演習大会以来だから、2年ぶりね。」
扶桑「2年も経つと、人も艦魂も変わってしまうのね。残念だわ。」
ワスプ
「・・・・・」
扶桑「昔の貴女ならこう言った筈よ。『死は贖罪にはならない』ってね。」
ワスプ
「・・・確かにそうね。死は贖罪にはならない。でも、仲間を守る為なら私は死んでもいい。」
扶桑「・・・戯言ね。」
ワスプを含めた全員が驚く。普段大人しい扶桑が恐ろしい事を口走ったからだ。
扶桑「何が仲間を守るよ。それでも貴女中将なの?仲間を守ろうと思うなら、死んでしまったら意味が無いじゃない。そんな事も忘れてしまったの!!」
これにはワスプも反撃した。
ワスプ
「仲間の命より自分の命を取るような者にはなりたくない!飛行甲板を損傷して、航空機は全滅、味方の到着はまだ後、降伏以外に無いけれど敗軍の将は責任を償わなければならないのよ!!」
扶桑「じゃあ、貴女の後ろにいる彼女はどうするの?まさか、彼女を置いていくつもりなの?それこそ無責任よ!彼女を守ろうとは思わないの?貴女を慕っている艦魂達はどうなるのよ!!」
ワスプ
「私が居なくても、彼女達ならやってくれるわ!責任は私に有るのよ、拘束するなり撃沈するなり、好きにすればいいでしょう!!」
こんなやり取りを延々1時間強していた。
望月(本当にどうすればいい?迂闊に手を出せば、武蔵の二の舞だ。)
隣でノックアウトしている武蔵を見ながら考えた。
武蔵は2人を止めようと勇敢に飛び込んだが、2人の同時攻撃(顔面ストレート)を食らい、気絶してしまった(約20分前)。本当は仲がいいのではないだろうかと思うくらい息が合っていた。
それに、いつの間にか喧嘩の内容が変わってきていた。
扶桑「大体貴女は昔っからそう。お願いしてもいないのに勝手に先走って!あの時は、危うくポトマック川に突っ込む所だったのよ!」
ワスプ
「貴女だって、演習の時に持ってきたレモンの蜂蜜漬け、後で湿疹が出たのよ!何入れていたの!」
野球部のマネージャーかよ、というツッコミは無視して全員(武蔵を除く)は辟易としていた。
姉妹喧嘩よろしくの言い争いは止まる気配を見せないまま、静かに時間は過ぎていった。
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