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第1話:ついてない王子

【場面】

帝都からアグネシア王国首都リーシアンへの帰り道


【登場人物】

ケイン・アグネシア

モートン

メイベル

マーカム、デュラン、ボイド…セリフなし、イメージ映像のみ

ウォルター・アグネシア…セリフなし、イメージ映像のみ


【その他】

「」は声に出したセリフ、()は心の声です。

ト書き1つ=1コマを想定して書いていますが、必要に応じて分割してください。コマ割りや間の取り方は製作者様の判断にお任せします。


ト書き1

夜の町。爆発する火薬庫を遠くから描写。


ト書き2

町の中。火の手が上がる火薬庫をバックに、ベルグートの騎兵部隊が走る。


ト書き3

コルテオ鉱山の守備隊詰所。隊長に兵士が報告する。

隊長

「賊は何者だ! どこから入り込んだ!」

兵士

「そ……それが! 国境付近で――」


ト書き4

怯える兵士の顔。

兵士

「一角獣の軍旗を持った集団を見たという者がおります!」


ト書き5

青ざめる隊長の顔。

隊長

「ベ……ベルグートが……動いた?」


ト書き6

場面の変更。整備された街道を、数騎の護衛に囲まれた一台の馬車が進む。天気は快晴で、鳥の鳴き声が気持ちよく響いている。


ト書き7

馬車の中、朗らかな表情のケインが頬杖をつき、開口部から外の景色を眺めている。


ト書き8

ケインの向かいに座るモートン、苛ついた様子で、小さく咳払いする。

モートン

「ケイン様。あと一時間もすればリーシアンに到着します。その前に一度、話をまとめておいた方がよろしいかと」


ト書き9

ケイン、きょとんとした顔で振り返る。

ケイン

「話? 何の?」

モートン

「とぼけても無駄ですぞ」


ト書き10

モートン、わざとらしく溜息をつく。

モートン

「我々が帝都まで出向いた理由……忘れたわけではないでしょう」


ト書き11

ケイン、笑顔で頬を掻く。

ケイン

「やっぱり、考えないとダメ?」

モートン

「当然です。殿下は病床の陛下より、アグネシア王国の全権を任されているのですから」


ト書き12

ケイン、両手で顔を覆い、上を向く。

ケイン

「まったく……ついてないね」

モートン

「ツキの問題ではありませんぞ」


ト書き13

イメージ映像。鉱山の火薬庫から火の手が上がっている。

モートン

「陛下が倒れた翌日に、ベルグート王国はコルテオ鉱山で武力行使に出た」


ト書き14

モートンの顔のアップ。眉間に皺を寄せている。

モートン

「奴らが機を窺っていたのは明らかです」


ト書き15

ケイン、手を下ろしてモートンに目を向ける。

ケイン

「で、うちの軍が動いたらすぐに、皇帝陛下に代表戦での決着を申し出た、と」

モートン

「ええ。帝国としても、属国同士が争って消耗するのは避けたいところです。我々はまんまと罠にはめられたわけですな」


ト書き16

ケイン、再び外に目を向ける。

ケイン

「代表戦……確かに、合理的ではあるよね」

モートン

「帝国が四百年の長きに渡って存続している理由の一つですからな」


ト書き17

文字のみ。

ナレーション

「代表戦とは」


ト書き18

イメージ映像。軍隊の大規模な衝突。

ナレーション

「帝国内の諸国が対立し、双方が大規模な軍事作戦に出れば、帝国にとって大きな損失となる」


ト書き19

イメージ映像。五人の戦士のバストアップ。王族(マントを羽織った男)を中心に、剣士、女戦士、槍術士、格闘士。

ナレーション

「それを防ぐため、双方が五人ずつの代表者を選抜して戦う」


ト書き20

イメージ映像。二人の剣士が鍔迫り合いをしている。

ナレーション

「剣士」


ト書き21

イメージ映像。格闘士の上段蹴りを、もう一人の格闘士が防御している。

ナレーション

「格闘士」


ト書き22

イメージ映像。短刀を両手に持った小柄な女戦士が、長剣を構えた長身の女戦士に向かっていく。

ナレーション

「女戦士」


ト書き23

イメージ映像。二人の槍術士が槍を構えて向かい合っている。一人は頭上で槍を回転させている。

ナレーション

「槍術士」


ト書き24

イメージ映像。マントと派手な装飾のついた鎧を身に纏った二人の男が、剣を構えて対峙している。

ナレーション

「王族」


ト書き25

イメージ映像。返り血を浴びた五人(王族、剣士、女戦士、格闘士、槍術士)の周囲に、倒れた敵五人。

ナレーション

「これら五戦の結果を持って、勝利した国が交渉を優位に進める」


ト書き26

イメージ映像。帝国内の地図。ベルグート王国とアグネシア王国の勢力の差が分かるように。

ナレーション

「そして一年後、コルテオ鉱山の所有権を巡って、軍事大国ベルグートと小国アグネシアが代表戦を行う」


ト書き27

イメージ映像。ベルグート王国の紋章(一角獣と剣)と、アグネシア王国の紋章(羽の生えた獅子)。

ナレーション

「選ばれし五人の精鋭が、国家の威信をかけて激突する!」


ト書き28

モートン、窓の外を見つめるケインに話しかけるが、ケインが話を遮る。

モートン

「殿下。そうやってボーっとしてても、問題は――」

ケイン

「とりあえず――」


ト書き29

ケイン、モートンに目を向ける。

ケイン

「俺の考えを話していい?」


ト書き30

モートン、虚をつかれて僅かにうろたえる。

モートン

「も、もちろんです。お聞かせください」


ト書き31

ケイン、にっと笑う。

ケイン

「まず、五人のうちの三人、剣士、格闘士、槍術士は軍から出てもらう」


ト書き32

イメージ映像。マーカム、デュラン、ボイドの三人のバストアップ。

モートン

「そうなると……マーカム、デュラン、ボイドの三人でしょうな」

ケイン

「その三人には一年間、他の仕事はさせない。強くなることに専念してもらう」


ト書き33

ケイン、悪戯っぽい笑顔で話を続ける。

ケイン

「それから、王族枠は叔父さん」


ト書き34

イメージ映像。ウォルターのバストアップ。

モートン

「……と言いますと、ウォルター殿下ですか」


ト書き35

イメージ映像。上半身裸のウォルターが、大きなバーベルを持ち上げている。

ケイン

「うん。なんといっても力自慢だし」


ト書き36

イメージ映像。整列した兵士たちの前で、力強く演説するウォルター。

ケイン

「いっつも『騎士とはかくあるべき!』みたいなこと言ってるからさ」

モートン

「確かに、うってつけの人材ではありますな」


ト書き37

ケイン、けらけらと笑う。モートン、諫めつつも笑いが漏れる。

ケイン

「ていうか、こういうときに頑張ってもらわないと、ただの乱暴者だし」

モートン

「殿下。声が大きいですぞ」


ト書き38

ケイン、腕を組んで考え込む。

ケイン

「あと……問題は女戦士か。うちの軍に女性はいないからね」

モートン

「それはベルグートも同じでしょう」


ト書き39

ケイン、小さく溜息をつく。

ケイン

「女性が戦うの、あんまり好きじゃないんだよな」

モートン

「私情はお捨てください。こうなった以上、決めるしかありません」


ト書き40

ケイン、再び外をに目を向け、呟く。

ケイン

「兄上だったら、どうしてただろうな……」


ト書き41

モートン、ケインを睨む。

モートン

「殿下。国を捨てたルーン様のことを考えなさるな。あなたは立派に勤めを果たしております。大事なのはそれだけです」

ケイン

「わ、分かってるよ」


ト書き42

ケイン、手に持ったブローチに目を落とす。中にはルーンから貰った『清廉の輝石』の半分が入っている。

ケイン

(兄さん……)


ト書き43

ケインの回想開始。ケインの母(女王)の葬儀。城の前に、町の人々が集まっている。


ト書き44

十歳のケイン、葬儀の後、自室のベッドに顔を埋めて泣いている。

ケイン

「母さん……どうして……」


ト書き45

ケインの部屋に、十五歳のルーンが入ってくる。

ルーン

「おい、ケイン。まだ泣いてんのか?」


ト書き46

ケイン、体を起こし、部屋の入口近くにいるルーンに目を向ける。

ケイン

「に、兄さん……」


ト書き47

ルーン、にいっと笑う。

ルーン

「いくら泣いたって、母さんは帰ってこねえぞ」


ト書き48

ケイン、両手で顔を押さえ、再び泣き始める。

ケイン

「兄さんは……悲しくないの?」


ト書き49

ルーン、ケインのベッドの隣に移動する。

ルーン

「悲しいに決まってるだろ。けどな……」


ト書き50

ルーン、ケインの肩に手を置く。

ルーン

「俺たちが悲しんでたら、母さんが自分を責めちまう」


ト書き51

ルーン、ケインに笑顔を向ける。

ルーン

「だから、無理してでも笑ってないといけねえんだよ」


ト書き52

ケイン、呆然とした表情でルーンの顔を見る。

ルーン

「まあ、十歳のお前には難しいだろうから――」


ト書き53

ルーン、懐から青い宝石(清廉の輝石)を取り出す。

ケイン

「それって――」

ルーン

「見てろよ」


ト書き54

ルーン、ポケットから小さなハンマーを取り出す。

ケイン

「母さんから頂いた……」


ト書き55

ルーン、ハンマーで宝石を半分に叩き割る。

ケイン

「ええっ!」


ト書き56

ルーン、半分に割れた宝石の片方をケインに見せる。

ルーン

「ほら、半分やるよ」


ト書き57

ケイン、震える手で宝石を受け取る。

ルーン

「お前、ついてるぜ」


ト書き58

ルーンの顔のアップ。満面の笑みをケインに向ける。

ルーン

「母さんだけじゃなくて、俺からも祝福されたんだからな」


ト書き59

回想終了。ケイン、馬車の開口部から遠くを見つめる。

ケイン

(アグネシアの王族の男子が十四歳になったとき、母親から贈られる、『清廉の輝石』……)


ト書き60

ケインの顔のアップ。朗らかな表情。

ケイン

(母さんからは貰えなかったけど――)

モートン

「殿下。リーシアンの門が見えてきましたぞ」


ト書き61

モートン、馬車の開口部から顔を出し、双眼鏡でリーシアンの門を見ている。その後ろからケインが顔を出す。

ケイン

「変わった様子は?」

モートン

「特にありませんな。伝令を送っておりますので、大筋は伝わっているはずですが……」


ト書き62

ケイン、モートンから双眼鏡を借りる。

ケイン

「モートン、貸して」

モートン

「はあ。どうぞ」


ト書き63

ケイン、双眼鏡を使ってリーシアンの町に目を向ける。

ケイン

(いや……)

モートン

「何か気になることが?」


ト書き64

ケイン、モートンに笑顔を向ける。

ケイン

「いつも通りだね」

ケイン

(昼食時なのに、煙が上がってない)


ト書き65

ケイン、椅子に腰を下ろし、双眼鏡をモートンに返す。

ケイン

「じゃあ、城に着いたら軍の三人と叔父さんを招集するよ」

ケイン

(町の中で何かあったんだ)


ト書き66

モートン、笑顔で双眼鏡を受けとる。

モートン

「そうしましょう。ベルグートも既に動き始めているでしょうしな」


ト書き67

ケインたちを乗せた馬車がリーシアンの門に到着。


ト書き68

ケイン、立ち上がる。

ケイン

「門番の兵士たちを労ってくるよ」

モートン

「お、お待ちください。何やら様子が変ですぞ」


ト書き69

ケインとモートン、馬車の開口部から外の様子をうかがう。メイベルが門番の兵士と話をしている。

ケイン

「あれは……えっと、誰だっけ?」

モートン

「内務大臣のメイベル殿です。いい加減覚えてください」


ト書き70

ケインとモートン視点。話を切り上げたメイベルが歩いて馬車に近付いてくる。

ケイン

「こっち来るよ」

モートン

「何事でしょうな」


ト書き71

メイベル、馬車の開口部に顔を突っ込んでくる。興奮のあまり、眼鏡がずれ落ちている。

メイベル

「殿下! モートン殿! 一大事でございます!」

ケイン・モートン

「うわっ!」


ト書き72

馬車の開口部に顔を突っ込んだメイベルが話し続ける。

モートン

「メ、メイベル殿! 話は城内で――」

メイベル

「そんな悠長なことを言ってる場合ではないのです!」


ト書き73

ケインとモートン、顔を見合わせる。メイベルは構わず話し続ける。

メイベル

「代表戦、いかがなさるおつもりですか!」


ト書き74

ケイン、くすっと笑う。

ケイン

「そのことなら心配ないよ。とりあえず軍から……えっと……」

モートン

「マーカム、デュラン、ボイドの三人に話をしようと――」


ト書き75

モートンの言葉を遮り、メイベルが絶叫。

メイベル

「その三人はもうおりませんぞ!」


ト書き76

ケインとモートン、きょとんとした表情で顔を見合わせる。


ト書き77

ケイン、メイベルに目を向ける。

ケイン

「何で?」

メイベル

「暗殺されたのです! 昨夜! 三人とも!」


ト書き78

モートン、口をぽかんと開けて固まる。

モートン

「あ……暗殺?」

メイベル

「マーカムは背後から矢を射られ! デュランは酒に毒を盛られ! ボイドは複数人に囲まれて! ほぼ同時刻です!」


ト書き79

ケイン、深々と椅子に座り、溜息をつく。

ケイン

「ベルグートの連中、思ったより早かったね……」

モートン

「で、ではウォルター様は? 無事なのですか?」


ト書き80

メイベル、肩を震わせながら、懐から一通の手紙を取り出す。

メイベル

「殿下は昨夜、旅に出ると言って出かけてしまわれました。これを、ケイン様にと……」


ト書き81

ケイン、手紙を受け取る。

ケイン

「叔父さんが、俺に?」


ト書き82

手紙を受け取ったケイン、広げて読み始める。

モートン

「な……何と?」


ト書き83

ケイン、手紙を折り畳みながら話す。

ケイン

「急に海が見たくなったんだってさ」


ト書き84

モートン、ぽかんとした表情でケインを見る。

モートン

「あ……あのウォルター様が、逃げた?」


ト書き85

ケイン、くすくすと笑う。

ケイン

「決めつけるのは良くないけど……そういうことだろうね」


ト書き86

モートン、震えながらケインに目を向ける。

モートン

「で……殿下。これは、大変なことになりましたぞ」


ト書き87

ケイン、座った姿勢のまま、ぐうっと伸びをする。

ケイン

「うーん。みたいだね」


ト書き88

モートン、大声で喚く。

モートン

「ほ、本当に分かっているのですか! 代表戦は一年後だというのに、すべてが白紙になったのですぞ!」


ト書き89

ケイン、懐から、清廉の輝石が収められたブローチを取り出す。

ケイン

「大丈夫だよ」


ト書き90

モートンとメイベル、無言でケインを見つめる。

ケイン

「俺はさ――」


ト書き91

ケイン、にこやかに笑う。

ケイン

「母さんと兄さんに祝福されてるから」


ト書き92

文字のみ。

ナレーション

「代表戦まで、あと365日」

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