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星々の答え  作者: 周斗紫奏
第二章 現能を持てる者たち
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オタクさん?

「おー! よくきたねえ!」


 商談相手と思われる人に跪かれてるシエルさんに元気に言われ、思わず一瞬硬直した。よくきたね、じゃない。どう反応すればいいんですかそれは。


「あ、はあ、まあ、はい……? ……どういう状況ですか、これ」

「え? あー、これ?」


 そこまで云うとシエルさんは「うーん」と唸りだし、なにかを思いつた表情をすると、急に真顔になった。


「そう、あれは私がヘリから飛び降りたあとのこと――」

「まさかの語り口調。ていうか今飛び降りたって言いました? え、ちょっと??」



 ◇◆◆◆◆



 私、シエル。私についてのもろもろうんぬんどうたらこうたらの説明は省かせてもらうとして、ヘリから降りた後の話をしようと思う。

 ヘリから降り、垂れ下がっていた縄梯子へと移動し、そしてそれに片足と片手をかけ、高らかに言葉を発した後、急にヘリコプターが消滅した。そう、消滅したのである。いや、消滅という表現は少し不適切かもしれない。一応言っておくけれど、これはいつものこと。

 ヘリは無人運転でいわゆる車庫に戻るが、操縦者がヘリ内から転移させられた時点で音と姿が見えなくなり、存在そのものがないかのように触れられなくなるのだ。

 例外として触れる人も一応いるっちゃいるが。

 そんなこんなで毎回私は無言でなにも言わずに落とされるのである。操縦者と乗客をヘリ内から転移させるためのボタンは操縦席と助手席の間にあり、どちらが押しても問題ないシステムになっている。大方いつもどおり彰亜が押したのだろう。まったく、どうせ聞こえないけど一言言ってほしいものである。

 落下しながらいつもと同じことを考る。そして源委亭の第七階層あたりまで落ちた瞬間、()()()()()()真横に跳んだ。


「あ」

「あ」


 跳んだ先にはて……シオンがいたが、気にせずに突っ込んだ。バルコニーにいたシオンの頭に、跳んできた体制のままで不本意ながらも蹴りをかますと、彼は部屋の真ん中辺りまで吹っ飛び、気絶した。


「あちゃー」


 当の私はバルコニーに着地していた。そっからシオンの安否を確認するため部屋に入り、彼をペチペチと叩いた。


「おーい、死んだ? 死んだ?」


 反応はないが息はあった。どうやら眠っているようだ。今更ながら彼の髪が黒くなっているのに気づき、一人で納得していると、後ろから「あの……」と声が聞こえた。

 見ると、全く見知らぬ男性がこちらを向いていた。ここにいるってことは現能力者ではあるんだろうけど……誰だろ? 新入りくんにはさっき会ったし……。


「あの、えっと、その、商談をしにきた榎本堺支と申します」

「あ? あー……」


 そういえば商談もどぎをするとかなんとか言ってたな……。忘れてた。蹴ったのがシオンで良かった。


「それで、えっと、その……シエルさん、ですか……?」


 ……。


「そうさ! 私がシエルさんだ! なんだい? なにか聞きたいことでも?」

「ふぁっ、本物……!」


 聞き返して見せればその榎本とかいう男性が私の前で崩れ落ちた。大した驚きはない。表に出るようになってからこういうのは結構慣れていた。それこそ最初は平静をつくろうのに少しばかり苦労したが、やはり慣れとは素晴らしい。今では心の底からこう回答できる。


「いやあ、分かってるじゃないの君! そうだ! 我に跪き褒め称えもてなし給え!」


 腕を組みながら仁王立ちしてそう言い放つと、榎本は私に「ははーっ」といいながら跪いた。ノリがいい人で素敵。


「そういえばなぜこちらに……?」

「シオンが見えたから立ち寄ったのさ。邪魔したね」

「いえ! まさか本日シエルさんと会えるだなんて……光悦の至りです……!!」


 榎本を前に不敵な笑みで笑っていると、テーブルにおいてあるものが目についた。机に乗っていた、本人曰く「鰹節と青海苔のお好み焼きソース和え」を見て、少しばかり虚無った。


「まったく……鰹節と青海苔のお好み焼きソース和えを出す時はたこ焼きにかけたうえで取り外しなさいって言ったのに……。あのちょっとの暖かさのあるほうが美味しいに決まってるじゃない」

「え……? そこ……?」


 テーブルに視線を向けて突っ込むと、後ろからツッコミが入った。なにか私は今突っ込まれることを言ったのだろうか。


「あれ……?」


 下から再び声が上がった。「なにかな?」と問えば、私とシオンを交互に見つめた後、言葉を発した。


「あ、いえ……。いや、シエルさんとシオンさんて――」


 彼がなにかを聞きかけたときに、コンコン、とノック音が聞こえた。誰かは想像がつくし「いいよー」といったのだが、その途端話を遮ってしまったことに気づいて多少の罪悪感が――



 ◇◇◆◆◆



「――というわけさ」

「はあ、そう、なるほど……」


 シエルさんの突然始まった語りを聞き終え、曖昧に返事を返す。分かったような分からなかったような。

 そこで、あ、と一つ思い当たったものがあった。


「だから和菓子……」

「正解です」


 先ほど部屋に来る前に休憩室によったとき、彰亜さんが和菓子と緑茶を用意してたため今更では、と思ったがそういうことだったのか……。


「で、結局話し合いどこまで進んでたの?」

「あ、それが」

「大方、現能者引き抜きの件で止まっていたのでしょう。あの方は現能力不保持者の中でもサポート面に長けている方なので引き抜かれると榎本さんも困るでしょうし」


 シエルさんの問いに、榎本さんが答えようとする前に彰亜さんが憶測だけでそう言ってみせた。まさかと思って榎本さんの方を見てみると、こくこくと頷いており、どうやら彰亜さんの言ったことはあっているらしい。


「部屋に盗聴器でも仕掛けてたんですか……?」

「いえ、商談の内容は少し聞いていたので、それをもとにこんなに時間がかかっているということはここが原因だろうな、と思ったところを言ったまでです」


 榎本さんの問いに答えた彰亜さんの言い分に納得しつつも唖然としていると、シエルさんに、ちょんちょんと肩を叩かれた。


「多分組織内で一番頭いいの彰亜だから、この化けも……の以上の化け物はいないから安心して」

「一瞬言葉を止めた意味とは」

「しょうがないでしょ。他にこの化け物に対する代名詞が思いつかなかったんだもの」

「思考回路覗き見野郎とか」

「いいけど長くない? それにシオンと区別つかなくない?」

「たしかにそうですね……。ではここはシンプルに変態とか」

「え、いいかもしれない」

「シエルさん、空さん、黙りましょうか」

「アッ、はい……」


 忘れかけていた彰亜さんに笑みを向けられ我に返った。殺気……とまではいかないが気迫がすごいんだよなこの人……。


「それで、どうします? シオンはここまで来るともう、一回寝たら暫く起きませんよ」

「私達だけで商談してもいいけどー」

「シエルさんがやるくらいならそれなら僕だけでやりますよ」

「いや、彰亜が一番だめでしょ。見るからに怪しさ満点じゃん」

「そういいますがね、シエルさんは商談という行為すらできないでしょう」

「君には私がゴリラにでも見えているのかな? もしそうなら覚えておくと良いよ。私は柔軟な思考回路を持ち尚且つ夜桜彰亜という人間よりは素晴らしい聖なる生命体さ」

「はて、僕の眼の前に映るのは思考回路が一般人とは大いにズレてしまって取り返しのつかない脳みそと化した哀れな者だけですね。ゴリラにも僕より素晴らしい人間にも見えません」

「あの、榎本さん困っちゃうので、穏便に、穏便に」


 怪しさ満点、という点は否定しないんだな、と思いつつやんわりと止めに入ると、揃って二人がこちらを見た。あー、嫌な予感。それもかなり。


「では空君に進行していただきましょうか」

「いっそのことそうしちゃうかあ、よし、それでいこう」

「ほらやっぱり」


 僕、社会経験無いんですけど。ありがたくも親の遺産で生活させていただいていた身のため社会経験無いんですけど。


「いえ、いえ、その必要はありません」


 ふと右斜め前に目を向けると、ふらりと榎本さんが立ち上がっていた。そうして一つ深呼吸をして、シエルさんを見て、もう一度深呼吸をしたところで「よし」といって僕の方を向いた。


「もう素晴らしい出会いをいただいたので大丈夫です。遅くはなると思いますが、新人本人にも聞いて、話がまとまり次第こちらに送ります。その際こちらに所属しているということは隠したほうがいいですか? もしくは関係を断つべきでしょうか」

「多分契約用紙に"あくまで表向きはシエルが所属している子会社のようなものを支援している"で世間に公表する感じだろうから、別に隠さなくていいんじゃ? 友好の関係も含めて社員を送ったみたいにすれば」

「は、はい!」


 なんか急に話がまとまった。話の内容はさっぱりだけど。良かったと素直に喜んでいいものか……。

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