表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/58

チンピラかよ

 四日目。

 例によって、例のごとく、ブレン・ブルーのすぐ近くの平原で、ラビットボールを狩る。

 

 ルースの気合が入っていた。

 なんとか、午前中には、レベルアップしたいみたい。


 ほどよく弱らせたラビットボールをルースに差し出し、ルースがそれを殴りまくる。

 見た感じ、そんなに弱いパンチにみえないんだけどなあ。

 いや、それどころか結構、強いパンチに見えるけど。


 ラビットボールのとどめをさしたルースが、呼吸を整えている間に、テキパキと寄ってきたラビットボールを狩っていく。

 オラオラ、おらにはお金が必要なんだ。


 それにしても、ラビットボールって繁殖力すごいよね。

 初日から、かなりの数を狩っているのに、ぜんぜん少なくなってる気がしないもの。


 そうこうしているうちにルースのレベルが上がった。


「やった。上がったよ。【強さ】が2になった。【攻撃力】も【防御力】も2ずつ上がったよ」


 相変わらず、上がり方がなんというか、しょぼい。

 こんなに頑張ってるのに。

 私のステータスを分けてあげたいよ。


 でもルースは大喜びしてる。

 無邪気な笑顔が、なんか刺さるんです、胸に。


 お弁当を食べて、午後もラビットボール倒しに精を出す。

 ルースの【攻撃力】が上がったせいか、ラビットボールを倒すのが早くなった。

 疲労の回復も早い。

 

「よし、今日中に、もう1レベル上げるぞ」

 ルースはやる気まんまんだ。


 よし、それなら私もいっぱい狩るぞ。

 お金をためて、ルースに装備させる魔法道具を買うんだ。


 私は、ラビットボールをいっぱい狩った。

 日が暮れてもルースと一緒に草原で戦い続けた。


 この日の成果は、600体。いや、我ながら良く倒した。

 もう、このあたり一帯が血で真っ赤だよ。

 でも、18万エネルの稼ぎ。

 私にラビットボールハントの才能があったなんて。


 結局、ルースは二度目のレベルアップをしなかったけど、私がレベルアップした。


【レベル】6。

 基本能力値も現状能力値もぐいぐい上がる。

【攻撃力】が1000オーバーしちゃったぞ。

【HP】なんて5000越え。

 治癒師ヒーラーだよね、私。

 

 いや、ひょっとして、私のステータス・ウィンドウが壊れてるとかじゃないか。

 やっぱり、誰かに相談した方がいいのかなあ。


 そんなことを考えていた矢先、私たちは暴漢にあった。

 というか、いちおう知り合いだ。

 ギルドへの帰り道、ちょっと近道をしようと路地に入ったら、見知った三人組に待ち伏せされていたのだ。


「おっ、来た来た。待ってたぜ、ガキども」

 戦士の男が言った。


 金属鎧で腰に剣。赤いツンツン頭に見覚えがある。ルースの胸倉をつかんで、あろうことか殴ろうとしたクズだ。


 両脇に、私がボコボコに殴った治癒師ヒーラーの女と、魔法使いの男が立ってる。


魔法板マジックボード

 魔法使いの男が叫んで杖をかざす。


 杖頭が緑色に光り、その光が、びよーんと伸びて、私たちの頭を越えて、後ろに落ちた。

 振り返ると、緑色の半透明の板が路地を塞いでいた。


「へっ、これで逃げられねえぜ」

 戦士の男がボキボキと指を鳴らす。

「たっぷり、お礼をしてやるからよ」


「いいんですかあ。ギルドのすぐそばですよ」

 言いながらも、私はルースの前に出た。


 ルース、下手な攻撃受けたら死んじゃうからね。

 けれど、ルースが私を押しのけて、前に立った。


「彼女は見逃してもらえませんか」


 はあ?

 いや、このあいだそいつらをボコボコにしたの私だよ。

 見逃すわけないじゃん。


 でも、そんなことを言ってくれるルースが、素敵すぎて。

 マジで涙が出そうだった。

 

「見逃すわけないじゃん。楽しみにしてろよ。殺してくれってお願いするくらい、ボロボロにしてやるからさ」

 治癒師ヒーラー女が言って舌なめずりをする。


「フラワ、俺が注意を引くから、その隙に逃げるんだ」

 ルースが振り向かずに小声で言った。


 ルースには私のステータスが馬鹿高いことを話していないからなあ。

 ステータス・ウィンドウの異常じゃなければだけど。


「体の骨をさ。全部、砕いてやるんだ。それで治すの。何度も、何度もね」


 治癒師ヒーラー女が言って、戦士と魔法使いが顔を引きつらせた。

 引いてるよ、引いてるよ。


 ルースが剣を抜いた。

 戦士が、おいおい、抜くなよ、という顔で同じく剣を抜く。

 

「いいかい? なんとか、魔法板マジックボードをよじ登って逃げるんだ」

 ルースがまた小声で言った。


 ルースが雄たけびをあげた。そのまま、戦士たちに突進していく。

 路地いっぱいに広がるような大きな横なぎの一撃。


 もちろん、そんな大振りが当たるわけがない。

 連中は一歩、後ろに下がって軽々かわす。


 ルースはさらに大振りで牽制けんせいする。

 やっぱり変だ。

 ルースの剣筋、そんなにひどくない。

 これで【攻撃力】が一桁なんて、そんなのおかしい。


 戦士がルースの剣を受けた。

 ルースが弾き飛ばされる。


「ブンブン、振り回すんじゃねえよ。危ねえじゃねえか」


「ケント、遠慮しないで斬っちゃって。ちゃんと私が治すからさ」

 治癒師ヒーラーがたきつける。

「万一、殺しちゃっても、そいつなら大丈夫よ。ルーシフォス・バックネットだもん」


 なによそれ。

 ルースなら殺しても許されるって、こと?

 ルースがなにしたっていうのよ。


 戦士の斬撃がルースを襲う。

 ルースの【HP】は30以下なんだぞ。

 そんなの喰らったら、死んじゃうかもしれないんだから。


 ガキっと音がした。

 良かった。ステータス・ウィンドウが壊れてるわけじゃなかったみたい。

 つまり私の【防御力】700は本物だってことだ。


 戦士が呆然とルースの前に立った私を見る。


 そりゃあそうだよね。

 剣を頭で受けてるんだもの。

 しかも、平気そうにしている。

 実際に、まったく痛くありませ~ん。


「か弱い女の子の頭に剣を振り下ろすとか、最低ですね」

 言いながら、頭頂部に乗っかっている刃をつかむ。


 ポキンっとね。

 軽くへし折ってやりましたよ。


「ば、化け物か。お前」


「この間、後ろからメイスでぶん殴っちゃって、ごめんなさい。でも、これでおあいこですよね」


 ひっ、とひるむ戦士。

 私は、ずいっと踏み込むと、デコピンを戦士の鎧にお見舞いした。


 戦士が数メートル、吹っ飛んだ。

 普段、力が強いって感じでもないから、攻撃の意志があるときに、【攻撃力】の数字がが繁栄されるみたい。


 あれ、でも【強さ】も高いから、普段でも力を出そうと思えば出せるのかな。あとで、検証しておこう。


衝撃玉ブラスト・ボール


 治癒師ヒーラー女が叫んで、片手を前にかざす。その手が薄紫色に輝いた。

 トン、と体になにかが当たったような、気がする。

 直後に、髪の毛と服が、ふぁさ~、と後ろになびいた。


「ロイ、あんたも魔法使ってよ」

 治癒師ヒーラー女が怒鳴る。


「え、ええと、複数魔法矢マジック・アローズ

 魔法使いの杖頭がまた緑色に光った。


 緑色の光が何本もの矢の形になって飛んできた。

 いけない。一本でも当たった、ルースが死んじゃうかもしれない。


 そう思った瞬間、矢のスピードがゆっくりになった。

 たぶん、【敏捷性】850のおかげだ。

 

 私は、振り返ると、呆然としているルースに抱き着いた。そのまま押し倒す。

 攻撃じゃない、攻撃じゃない、といい聞かせる。

 ほら、もし【攻撃力】の補正がかかったら、絶対、即死だよ、ルース。


 ルースの上におおいかぶさる。

 私たちの上を十本近くの緑色の光の矢が通り過ぎていった。


 ルースは、まだ呆然としている。頭が状況に追いついていないみたい。

 

 私は素早く起き上がると、魔法使いに向かって突進した。

 人に向かって、あんな魔法を使って。

 やっていいことと、悪いことの区別もつかないの?


 怒りのまま、メイスを振り下ろそうとしたけど、寸前で、思いとどまった。

 いかん、いかん。たぶん殺してしまう。

 寸止めして、軽くコツンと額を叩く。

 ダメだぞ。


 魔法使いは、額から血をビシュっと吹き出しながら、吹っ飛んでいった。

 大丈夫だよね、死んでないよね。


「ひっ、な、なんなのよ、あんた」

 治癒師ヒーラー女が顔を引きつらせて、後ずさる。


「私、ただの新人冒険者ですよ。ビッチのあなたと違って、キスもまだしたことのない、正真正銘、純情な乙女です」


 治癒師ヒーラー女が後ろを向いて、脱兎のごとく逃げ出した。

 逃がすか。

【敏捷性】850をなめんな。


 一陣の風のように路地を駆け、治癒師ヒーラー女に追いつくと、肩をむんずとつかむ。


 治癒師ヒーラー女が悲鳴をあげる。

「痛い、痛い、骨が折れたあ」


「お前、私の骨、全部折ろとしてただろうがよ」

 ドスを効かせて言った後、はっと正気づいた。いけない、乙女はこんな話し方しちゃ、ダメだわ。

「お姉さん、あれだけ殴ったのに、ぜんぜん懲りてませんよね。私、ちょっとムッとしちゃいました。えいっ」


 左肩をつかんだまま右肩にデコピンする。

 治癒師ヒーラー女が絶叫した。


「でも、一番、プンプンなのは、ルースを殺しても大丈夫って言ったこと」


 あっ、思いだしたら、また腹が立ってきた。

 殺しちゃおうかな、もう、殺しちゃおうかな。

 この状況なら罪にならないよね。

 こっちは魔法まで打たれてるんだもんね。


 ひいいいっ、治癒師ヒーラー女が泣きだした。

「ご、ごめんなさい。許してください。許してください。殺さないでください」


 あっ、殺気が漏れてたのかな。

 オナラと殺気はスカして出しなさいって、パンダヒル家の家訓を破ってしまった。


「今回だけですよ。次は私も自分を抑える自信ありませんからね」


 手を離すと、治癒師ヒーラー女は、くずおれた。




◇◇◇




 冒険者ギルドで、先輩パーティに襲われたことを報告する。

 一応、ちゃんと言っておかないとね。

 あとで、事実をねじまげられても困るし。


 ルースは、あれからひと言も話さない。

 ちょっと、いや、かなり気まずい。

 私は、わざと明るく振る舞うも、完全に空回りしてる感じ。もちろん、路地でのことには一切触れなかった。

 

 夕食を食べてる最中も、ルースは暗い顔で黙っていた。


「ルース、ごめんね」

 観念して、核心に触れることにした。

「私のステータス、なんだか知らないけど、すごく上昇率が高くて。そのこと、言えなくて。ごめん」


 きっとものすごく惨めな気持ちになったんじゃないかな。


 しばらくの沈黙。

 ルースがフォークを置いた。

 下を向いたままつぶやく。

「悔しいな」


 えっ、と私は聞き返した。


 ルースが顔を上げた。

 ぜんぜん惨めったらしい顔じゃなかった。

 何かを強く決意したような、まっすぐな目で私を見返す。


「フラワを守るどころか、守ってもらって。俺、悔しかった。だから、絶対に今度は守れるようになる。強くなるよ、必ず」


 ルースの瞳に、魂が吸い込まれていくような気がした。

 やっぱり、君の魅力はステータスなんかじゃ、絶対に測りきれないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ