チンピラかよ
四日目。
例によって、例のごとく、ブレン・ブルーのすぐ近くの平原で、ラビットボールを狩る。
ルースの気合が入っていた。
なんとか、午前中には、レベルアップしたいみたい。
ほどよく弱らせたラビットボールをルースに差し出し、ルースがそれを殴りまくる。
見た感じ、そんなに弱いパンチにみえないんだけどなあ。
いや、それどころか結構、強いパンチに見えるけど。
ラビットボールのとどめをさしたルースが、呼吸を整えている間に、テキパキと寄ってきたラビットボールを狩っていく。
オラオラ、おらにはお金が必要なんだ。
それにしても、ラビットボールって繁殖力すごいよね。
初日から、かなりの数を狩っているのに、ぜんぜん少なくなってる気がしないもの。
そうこうしているうちにルースのレベルが上がった。
「やった。上がったよ。【強さ】が2になった。【攻撃力】も【防御力】も2ずつ上がったよ」
相変わらず、上がり方がなんというか、しょぼい。
こんなに頑張ってるのに。
私のステータスを分けてあげたいよ。
でもルースは大喜びしてる。
無邪気な笑顔が、なんか刺さるんです、胸に。
お弁当を食べて、午後もラビットボール倒しに精を出す。
ルースの【攻撃力】が上がったせいか、ラビットボールを倒すのが早くなった。
疲労の回復も早い。
「よし、今日中に、もう1レベル上げるぞ」
ルースはやる気まんまんだ。
よし、それなら私もいっぱい狩るぞ。
お金をためて、ルースに装備させる魔法道具を買うんだ。
私は、ラビットボールをいっぱい狩った。
日が暮れてもルースと一緒に草原で戦い続けた。
この日の成果は、600体。いや、我ながら良く倒した。
もう、このあたり一帯が血で真っ赤だよ。
でも、18万エネルの稼ぎ。
私にラビットボールハントの才能があったなんて。
結局、ルースは二度目のレベルアップをしなかったけど、私がレベルアップした。
【レベル】6。
基本能力値も現状能力値もぐいぐい上がる。
【攻撃力】が1000オーバーしちゃったぞ。
【HP】なんて5000越え。
治癒師だよね、私。
いや、ひょっとして、私のステータス・ウィンドウが壊れてるとかじゃないか。
やっぱり、誰かに相談した方がいいのかなあ。
そんなことを考えていた矢先、私たちは暴漢にあった。
というか、いちおう知り合いだ。
ギルドへの帰り道、ちょっと近道をしようと路地に入ったら、見知った三人組に待ち伏せされていたのだ。
「おっ、来た来た。待ってたぜ、ガキども」
戦士の男が言った。
金属鎧で腰に剣。赤いツンツン頭に見覚えがある。ルースの胸倉をつかんで、あろうことか殴ろうとしたクズだ。
両脇に、私がボコボコに殴った治癒師の女と、魔法使いの男が立ってる。
「魔法板」
魔法使いの男が叫んで杖をかざす。
杖頭が緑色に光り、その光が、びよーんと伸びて、私たちの頭を越えて、後ろに落ちた。
振り返ると、緑色の半透明の板が路地を塞いでいた。
「へっ、これで逃げられねえぜ」
戦士の男がボキボキと指を鳴らす。
「たっぷり、お礼をしてやるからよ」
「いいんですかあ。ギルドのすぐそばですよ」
言いながらも、私はルースの前に出た。
ルース、下手な攻撃受けたら死んじゃうからね。
けれど、ルースが私を押しのけて、前に立った。
「彼女は見逃してもらえませんか」
はあ?
いや、このあいだそいつらをボコボコにしたの私だよ。
見逃すわけないじゃん。
でも、そんなことを言ってくれるルースが、素敵すぎて。
マジで涙が出そうだった。
「見逃すわけないじゃん。楽しみにしてろよ。殺してくれってお願いするくらい、ボロボロにしてやるからさ」
治癒師女が言って舌なめずりをする。
「フラワ、俺が注意を引くから、その隙に逃げるんだ」
ルースが振り向かずに小声で言った。
ルースには私のステータスが馬鹿高いことを話していないからなあ。
ステータス・ウィンドウの異常じゃなければだけど。
「体の骨をさ。全部、砕いてやるんだ。それで治すの。何度も、何度もね」
治癒師女が言って、戦士と魔法使いが顔を引きつらせた。
引いてるよ、引いてるよ。
ルースが剣を抜いた。
戦士が、おいおい、抜くなよ、という顔で同じく剣を抜く。
「いいかい? なんとか、魔法板をよじ登って逃げるんだ」
ルースがまた小声で言った。
ルースが雄たけびをあげた。そのまま、戦士たちに突進していく。
路地いっぱいに広がるような大きな横なぎの一撃。
もちろん、そんな大振りが当たるわけがない。
連中は一歩、後ろに下がって軽々かわす。
ルースはさらに大振りで牽制する。
やっぱり変だ。
ルースの剣筋、そんなにひどくない。
これで【攻撃力】が一桁なんて、そんなのおかしい。
戦士がルースの剣を受けた。
ルースが弾き飛ばされる。
「ブンブン、振り回すんじゃねえよ。危ねえじゃねえか」
「ケント、遠慮しないで斬っちゃって。ちゃんと私が治すからさ」
治癒師がたきつける。
「万一、殺しちゃっても、そいつなら大丈夫よ。ルーシフォス・バックネットだもん」
なによそれ。
ルースなら殺しても許されるって、こと?
ルースがなにしたっていうのよ。
戦士の斬撃がルースを襲う。
ルースの【HP】は30以下なんだぞ。
そんなの喰らったら、死んじゃうかもしれないんだから。
ガキっと音がした。
良かった。ステータス・ウィンドウが壊れてるわけじゃなかったみたい。
つまり私の【防御力】700は本物だってことだ。
戦士が呆然とルースの前に立った私を見る。
そりゃあそうだよね。
剣を頭で受けてるんだもの。
しかも、平気そうにしている。
実際に、まったく痛くありませ~ん。
「か弱い女の子の頭に剣を振り下ろすとか、最低ですね」
言いながら、頭頂部に乗っかっている刃をつかむ。
ポキンっとね。
軽くへし折ってやりましたよ。
「ば、化け物か。お前」
「この間、後ろからメイスでぶん殴っちゃって、ごめんなさい。でも、これでおあいこですよね」
ひっ、と怯む戦士。
私は、ずいっと踏み込むと、デコピンを戦士の鎧にお見舞いした。
戦士が数メートル、吹っ飛んだ。
普段、力が強いって感じでもないから、攻撃の意志があるときに、【攻撃力】の数字がが繁栄されるみたい。
あれ、でも【強さ】も高いから、普段でも力を出そうと思えば出せるのかな。あとで、検証しておこう。
「衝撃玉」
治癒師女が叫んで、片手を前にかざす。その手が薄紫色に輝いた。
トン、と体になにかが当たったような、気がする。
直後に、髪の毛と服が、ふぁさ~、と後ろになびいた。
「ロイ、あんたも魔法使ってよ」
治癒師女が怒鳴る。
「え、ええと、複数魔法矢」
魔法使いの杖頭がまた緑色に光った。
緑色の光が何本もの矢の形になって飛んできた。
いけない。一本でも当たった、ルースが死んじゃうかもしれない。
そう思った瞬間、矢のスピードがゆっくりになった。
たぶん、【敏捷性】850のおかげだ。
私は、振り返ると、呆然としているルースに抱き着いた。そのまま押し倒す。
攻撃じゃない、攻撃じゃない、といい聞かせる。
ほら、もし【攻撃力】の補正がかかったら、絶対、即死だよ、ルース。
ルースの上に覆いかぶさる。
私たちの上を十本近くの緑色の光の矢が通り過ぎていった。
ルースは、まだ呆然としている。頭が状況に追いついていないみたい。
私は素早く起き上がると、魔法使いに向かって突進した。
人に向かって、あんな魔法を使って。
やっていいことと、悪いことの区別もつかないの?
怒りのまま、メイスを振り下ろそうとしたけど、寸前で、思いとどまった。
いかん、いかん。たぶん殺してしまう。
寸止めして、軽くコツンと額を叩く。
ダメだぞ。
魔法使いは、額から血をビシュっと吹き出しながら、吹っ飛んでいった。
大丈夫だよね、死んでないよね。
「ひっ、な、なんなのよ、あんた」
治癒師女が顔を引きつらせて、後ずさる。
「私、ただの新人冒険者ですよ。ビッチのあなたと違って、キスもまだしたことのない、正真正銘、純情な乙女です」
治癒師女が後ろを向いて、脱兎のごとく逃げ出した。
逃がすか。
【敏捷性】850をなめんな。
一陣の風のように路地を駆け、治癒師女に追いつくと、肩をむんずとつかむ。
治癒師女が悲鳴をあげる。
「痛い、痛い、骨が折れたあ」
「お前、私の骨、全部折ろとしてただろうがよ」
ドスを効かせて言った後、はっと正気づいた。いけない、乙女はこんな話し方しちゃ、ダメだわ。
「お姉さん、あれだけ殴ったのに、ぜんぜん懲りてませんよね。私、ちょっとムッとしちゃいました。えいっ」
左肩をつかんだまま右肩にデコピンする。
治癒師女が絶叫した。
「でも、一番、プンプンなのは、ルースを殺しても大丈夫って言ったこと」
あっ、思いだしたら、また腹が立ってきた。
殺しちゃおうかな、もう、殺しちゃおうかな。
この状況なら罪にならないよね。
こっちは魔法まで打たれてるんだもんね。
ひいいいっ、治癒師女が泣きだした。
「ご、ごめんなさい。許してください。許してください。殺さないでください」
あっ、殺気が漏れてたのかな。
オナラと殺気はスカして出しなさいって、パンダヒル家の家訓を破ってしまった。
「今回だけですよ。次は私も自分を抑える自信ありませんからね」
手を離すと、治癒師女は、くずおれた。
◇◇◇
冒険者ギルドで、先輩パーティに襲われたことを報告する。
一応、ちゃんと言っておかないとね。
あとで、事実をねじまげられても困るし。
ルースは、あれからひと言も話さない。
ちょっと、いや、かなり気まずい。
私は、わざと明るく振る舞うも、完全に空回りしてる感じ。もちろん、路地でのことには一切触れなかった。
夕食を食べてる最中も、ルースは暗い顔で黙っていた。
「ルース、ごめんね」
観念して、核心に触れることにした。
「私のステータス、なんだか知らないけど、すごく上昇率が高くて。そのこと、言えなくて。ごめん」
きっとものすごく惨めな気持ちになったんじゃないかな。
しばらくの沈黙。
ルースがフォークを置いた。
下を向いたままつぶやく。
「悔しいな」
えっ、と私は聞き返した。
ルースが顔を上げた。
ぜんぜん惨めったらしい顔じゃなかった。
何かを強く決意したような、まっすぐな目で私を見返す。
「フラワを守るどころか、守ってもらって。俺、悔しかった。だから、絶対に今度は守れるようになる。強くなるよ、必ず」
ルースの瞳に、魂が吸い込まれていくような気がした。
やっぱり、君の魅力はステータスなんかじゃ、絶対に測りきれないよ。




