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 自分が勇者だって知ったのは、五歳の時。

 夢を見たんだ。いや、夢なのかな。ただの夢っていうには、少し違うと思うんだ。


 フワフワした地面。霧がかかったみたい、白っぽい空気。

 そんなところに立ってた。


 どこだろうここ。寝てたはずなのになあ。

 そんなことを思いながら、しばらく、ぼ~としてたら、いきなり、強い光が現れた。

 

 もう、目を閉じても、顔を背けても無駄ってくらいの強い光。

 頭がジンジンするくらいの強い光。


 まぶしい。まぶしいよ。

 両手で顔をおおって、うずくまっていたら、光は弱くなった。


「こんにちは、ルーシフォス・バックネット」

 声がした。透き通るような綺麗な声。


 目を開けると、女の人が立っていた。

 すごい綺麗な人。いや、それじゃあ、全然、収まらないな。

 そう、神々しいくらい美しい人、かな。


 腰までの長い銀髪はキラキラと輝いていて、肌なんて白すぎて白磁みたいで。そして、黄金の瞳は、目を合わせたら、心が消し飛んでしまうんじゃないかってくらいの強さを秘めていた。


「こ、こんにちは」

 ともかく、挨拶。


「私はルシディア。光と闇を司る神です」


 えっ、神様?

 神様なんですか?

 いきなりそんなことを言われても、と思うかもしれないけど、目の前の女性は、それをすんなり納得させるくらいの存在感があった。


「こんにちは、ルシディア様」


「はい、こんにちは」

 ニコニコと笑顔で言った。

「思った通り、とても良い子ですね」


 神様がいったい何の用だろう、とドキドキした。

 昨日、お父さんのカップを割っちゃったことを怒られるのかな、なんて考えたりね。


「『勇者ルディアスの冒険』は知っていますね」


「は、はい。お母さんがお話してくれます」


「あれは500年ほど昔のできごとです。要するに実際にあったできごとだということです」


「じゃあ、勇者も魔王も本当にいたんだ」

 つい、大きな声がでた。


「はい。勇者ルディアスも、魔王バベラスも実在しました。フィクションではありません」


「フィクション?」


「まあ、それはおいといて。はるか昔から、500年に一度、魔王がこの世界に現れます。そして、魔王を倒すことができる勇者も。魔王と勇者の戦いは500年ごとに繰り返されているのです。テーブルの上に、水の入ったコップがたくさんあるとします。それらを何度も何度も別のコップに入れ替え無くてはなりません。すると、少しずつ、本当に少しずつこぼれるんですよ、水が。そんなことを繰り返すうちに、いつのまにやらテーブルは水浸しに。拭こうにも、コップがたくさんありすぎて、うまく拭けません。そこで、ちょっと考えました。テーブルに傾斜をつけて、まん中をへこませて、勝手に水がまん中に集まるようにしたんでです。ようするに、その溜まった水が魔王で、その水を吸い取るのが勇者ということなのですが」


「よくわからないです」


「そうですか。五歳児ですからね。私も、あなたが、もう少し成長してからお話したかったのですが、下が早くしろとうるさくて」


「下ですか?」


「特に、ロベリアンネがねえ。私だっていろいろと忙しいのですけど」


 はあ、とため息をつく神様。


「神様も大変なんですね」


「はい、大変ですよ。親の心、子知らずというところでしょうかね」

 また、ため息。


「それで、神様が、ぼくになんの用なんでしょうか?」


「そうでしたね。そろそろ本題に入りましょう。あまり長く接触していると、揺り返しが起こりますからね。500年ごとに勇者と魔王が現れ、戦う。世界を支配しようとする魔王とそれを阻止するため、魔王を倒す勇者。ここまではわかりましたね」


「はい」


「まあ、500年ごととは言いましたけど、実際には、結構、誤差がありましてね。今回は50年近く誤差が出てしまいました。おかげで、いろいろ予定が狂って、本当に参りましたよ。まあ、それは良いとして。つい五年前に、その時が来ました。魔王が誕生したのです」


「魔王が。それじゃあ、勇者は?」


「はい、勇者も時を同じくして誕生しました。そして彼は、今、私の目の前にいます」


 キョロキョロしてみたけど、ほかに誰もいなかった。


「もしかして、ぼくのことですか?」


「はい。ルーシフォス・バックネット、あなたが勇者です。魔王を倒す宿命を背負った勇者です」


「でも、ぼく、強くないです」


「勇者の力は強すぎますからね。必要な時にしか出せないようになっています」


「ぼくが負けたらどうなるんですか?」


「別にどうもなりませんよ。魔王も魔王の眷属も繁殖能力がありませんから。100年程度は人間をしいたげるかもしれませんが、結局、また人間が繁栄します」


しいたげるって、いじめるってことですか?」


「そうですね。魔王は破壊の権化ですから、殺して、壊して、殺して壊して、まあその繰り返しです」


「ぼくの家族や村の人たちも?」


「勇者の関係者は、徹底的に消されるでしょうね。村どころか、国ごと消滅させられるかもしれません」


 両親や村の人の顔が思い浮かんだ。

 彼らが黒っぽい巨人に捕まって、痛めつけられるイメージも。


「ぼく、負けません。絶対に」


「はい。頑張ってください」


「どうしたら、勝てますか」


「さあ、どうでしょう。私にもわかりません。ただ、自分が勇者であるということは、秘密にしなくてはいけませんよ。魔王に狙われますからね」


「お父さんやお母さんにも?」


「はい。彼らの身を案じるならば秘密にした方が良いでしょう」


「わかりました。秘密にします」


「素直で良い子ですね。さすが、私が目をつけただけのことはあります。では、そういうことで、よろしくお願いしますね」


 パッと暗くなった。

 まるでランプの火を消したみたいに。

 

 気が付いたら、天井を見上げてた。

 カーテンの隙間から差し込む月明りに照らされた、いつもの見慣れた部屋。


 自分の手の平を見て、ぼく、勇者なんだ、って思った。

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