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悪役令息ですが攻略対象の様子が異常すぎる②

※あとがきはありません。


本日攻略対象異常ウェブ版の連載開始8周年です。8年前から応援してくださっている皆様も、新規の皆様も、ありがとうございます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


 貴族学園に入学して2か月。


 体育祭が間近に迫っているが、僕はクラスから浮いていた。


 理由は簡単。僕がゲームのシナリオ怖さに掃除用具を見つめ続ける学園生活を過ごしているから。だってミスティ・アーレンは女子生徒に酷いことをする。女の子に近づきたくないのだ。男子トイレは女の子が入ってこないので、安住の地だ。


 ただしそれは、主人公がいなければという前提のもと。


 トイレにいても不自然じゃないよう、僕は美化委員に立候補した。


 美化委員というのは、定期的に集まって普段掃除しないところを掃除したり、学内のインテリアに関して審議する委員会だ。小物や家具、レイアウト好きの生徒が集まりがちで、掃除に対しては消極的な委員が多い。


 僕は違う。


 男子トイレの掃除しかしたくない。


 自主的に貴族学校内の全男子トイレの衛生維持に尽力しているが、最近アリスと遭遇するようになった。善意による手伝いの申し出まで発生していて、胃が痛い。


「ミスティ様って綺麗好きなんですね……」


 そして今日もまた、アリスが男子トイレにやってきた。「お、お、お手伝いとか……」と聞かれたので、「大丈夫です。ありがとうございます」と断れば、アリスは戸惑いつつも「でも……いや、生きがいを奪われることは、きついですよね……」と神妙な面持ちで納得した。


 トイレ掃除は生きがいというより、生きるために必要な逃亡手段のひとつだけど……。そして綺麗好きかという質問には答えられなかった。だってゲームでミスティはアリスに対して「害虫駆除ってやつ、俺は綺麗好きだから」と暴力を振るっていたので。地獄質問だった。


「ミスティくん、ここにいたんだね」


 鬱々としながら清掃していれば、フィーナ先輩がやってきた。ネイン家の令息だ。ネイン家は女系一族で当主は必ず女の子とされており、婿を求めている。


 だからかフィーナ先輩はヴィクナーさんという妹がいるが、僕のことをその妹と結婚させようとしてくる。僕なんかと結婚しても幸せになれるはずがないのに。


 すべては僕がフィーナ先輩を火傷事件……フィーナ先輩が熱湯を浴びせられるという襲撃事件に関わったことが原因で、なんでか僕を勇敢な人間だと誤解しているからだ。さらに生徒会に推薦しようとしている。あまりに買いかぶりすぎだ。


「こうして熱心にトイレ掃除する美化委員なんて中々いないし、やっぱり生徒会に入ってこの学園そのものを掃除していこうよ。学園の頂点に立ってさ」


 しかも誘い方が怖い。フィーナ先輩の言い方は全部、物語の中でめちゃめちゃ怖いことをしている策謀みたいな言語だし、そこに悪役のミスティの悪いなにかが作用したらと思うと気が気ではない。ミスティなんか一番権力握っちゃいけないんだから。


「相変わらずだな、お前……あ」


 そしてトイレにさらに人が入って来た。ルキット・ヘレンくんだ。ヘレン家の令息である。転校生だ。胡桃色の髪で少女漫画の本棚にいそうな顔をしている。前世の頃、テレビで「腹黒系王子様」「実はドS」みたいな設定の少女漫画の映画のCMを見たことがあるけど、そういうので見た気がする。彼はオシャレが好きで、休み時間になると鏡を見にトイレに来るのだ。


 最近はこの四人でトイレに集まっている。普通に偶然だけど。ただなんか……四人で示し合わせている感じがして気まずい。女子同士でトイレに行くのは前世で見たことがあるけど、男子で集まることなんてほとんどなかったし。というか普通に四人も集まってたらほかの人はトイレに来づらいのではないか。


 僕は思案の果て、さっさとトイレ掃除を終わらせ、手洗いを後にする。



「やっほー、ミスティ」


 がば、と肩を組まれた。ぞっとして振り返ると黒髪ショートの女の子──クラリスがいた。ゲームのサポートキャラだが、三角関係や泥沼を愛する怖い子だ。何か怖いって自分が略奪するのが好きなんじゃなくて略奪する人間や略奪される人間を見るのが好きな子。


「ありがとうございます。失礼します。失礼します。失礼します」


 僕はクラリスに会釈をして去る。しかしクラリスは「逃げないでよー」と僕の腕に自分の腕を絡ませてきた。


「仲良くしようよ。私たちの仲でしょ」

「意味が分かりません。失礼します」


 クラリスは怖いので接点を持たないようにしていたのに、普通に朝教室に突撃されて以降、こうして休み時間一人でいると現れるようになった。それからずっと僕は怖い思いをしている。


「あ、あそこに理事長がいる、ほら、中庭」


 クラリスは窓を示す。なるべく見ないようにした。


「関係が無いので」

「へぇ?」


 クラリスは口角を上げた。一瞬嫌な予感がして確認する。


 でも、中庭にいたのは普通に、教師っぽい女の人だった。女の人がヴィクナーさんと話をしている。


「あれ、理事長っておじさんでは」

「間違えちゃった、あの人は次期理事長だよ」

「はぁ」


 メロと同じ銀髪だけど……こちらは肩甲骨辺りで切りそろえられたウェーブセミロングヘアだ。ヴィクナーさんは一つ結びをしていて、フィーナ先輩と同じ髪色だ。


「なんか思い出さない?」


 クラリスは聞いてくるけれど、特に思い出すことなんて無い。というかクラリスはゲームのシナリオのことを知らないはずだけど……ゲームの話をしているのか現実の話をしているのか分からない。


「思い出さないですけど」

「そっかぁ、思い出せるといいね、ミスティ」


 クラリスは笑う。その笑顔は……傍目に見ればすごく純粋なものに感じるだろうけど、僕は心の底から恐ろしかった。


 



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