空中自由采配
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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フォレストに続いて、トーマスに見つかってしまった。前世、とにかく隠れて誰にも気づかれないよう敵を倒すゲームをしていたし、ノーマルモードをクリアして、クリア特典として開放されるハードモードもゲームクリアしたけど、現実は上手くいかない。思えば隠れるより、見つけるほうが得意だった気がする。自分の隠密行動能力の無さを猛省しながら壁伝いに歩いていると、ふいに身体が浮いた。
「おじょうさま、なにしてるの、かくれんぼしてるんじゃないの……?」
「そ、ソルさん……」
ソルさんは私の身体をいともたやすく持ち上げている。まるで、小さい子を大人が高い高いするみたいに。駄目だ。私はかくれんぼの才能がないどころじゃない。かくれんぼをしてはいけない、いや、鬼以外してはいけない人間だった。鬼ごっこを提案すべきだったのでは。それも駄目だ。私は足が遅い。ぐるぐる悩んでいると、ソルさんは「なにか……なやみごと?」と首を傾げた。
「いや今まさに、ソルさんに見つかったことについて……悩んでおり……」
「俺に見つかったら、だめ? 俺に見られるの、いやだった?」
ソルさんは悲しそうにする。誤解を招く言い方をしてしまった。かくれんぼどころか私は意思疎通すらままならない。駄目だ。
「い、いえ、かくれんぼの最中なので」
「かくれんぼで見られるとだめなの?」
ソルさんは今後は目を丸くした。この感じ……もしかして……、
「ソルさん、かくれんぼってどうやるかご存知ですか?」
「かくれんぼ……したことないから、わからない……」
どうやらソルさんはかくれんぼを知らぬままかくれんぼに参加していたらしい。
「あの、私が隠れる役割で、ソルさんや使用人の皆さんは、私を見つける役割の遊びなんですよ」
「ああ、じゃあ、御嬢様…みーっけ」
彼はそう言って口角を上げ、そのまま歩き出す。
「そ、ソルさんどこへ行くんですか」
「御嬢様を……お部屋に……運ぶ」
「あの、大変恐れ入りますが……お待ちいただけないでしょうか」
「なんで」
「かくれんぼ……続けたくて」
「隠れるの楽しい? どうせ、見つかるのに」
「あの……楽しさよりも、皆さんに動いていて頂きたいというか……私のせいというのは重々承知なのですが、皆さんに、健やかな生活を送ってほしく……」
「すこやか」
「はい。適度に動いたり、外に出たり……元気でいて欲しいんです」
「元気でいてほしいのは……御嬢様に対して、みんなが思っていることじゃないかなぁ」
「ソルさん……」
「みんな……御嬢様が大切だから……御嬢様は、自分のこと大切にしないけど」
「……」
自分のことを大切にしない。よく、言われる。もっと自分の身体を大切にしてほしいと。
そこまで自分をないがしろにしているつもりはないし、危険な目に遭うことは、周りのひとの安全を脅かすことだからなるべく避けたい。
でも、もし、自分と他の人、どちらかが痛い目にあうのだとしたら、自分が痛い目にあうほうがいい。自分が傷ついて誰かの人生が好転するなら、そちらのほうがいい。私は今、一人じゃないから。心配をかけてしまうけど、一人きりで苦しむことは辛い。
「まぁ、御嬢様がしたいことをすればいいと思うけどね」
「え」
「俺、頭おかしいって、言われてたけど……治らないし、同じように御嬢様も治らない」
ソルさんはのんびり笑う。彼は元々、国の中心からやや外れた地方の村の出身で、そこで迫害を受けていた。その心の傷なのか、元々かは分からないけど、差別を受け酷い言葉を浴びせられていた。その件について、両親は彼の話し方や思考、行動の速度について言及していた。
彼は私より年上だけど、話し方や動きはかなりゆっくりだ。私はのんびりするのが好きな人、と感じていたけど、「平均と比べ能力が劣っている、子供のまま時が止まっている」と判断する人もいる。
「だから、大丈夫だよ、御嬢様。御嬢様のことは、俺が守ってあげる。したいこと、全部、叶えてあげるから……俺から離れないで、守れなく、ならないように」
ソルさんが私を抱える力を強める。よほど心配をかけてしまったらしい。胸が痛くなりながら、私は「離れませんよ」と彼の肩に触れた。
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