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聖地巡礼レポート

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


「今日は本当最高だったあああああああ!」


夜、ベッドの上でごろごろ転がる。


今日、シーク先生の馬車に乗って、ミスティア様の御屋敷に向ったのだ。

ほんの数時間前まで、私はミスティア様と同じ空間にいて、

ミスティア様の御屋敷に「いた」

そしてミスティア様も「いた」

実在してた。いやしてるけど。

今も緊張でどうにかなりそうだ。どうしよう。

身体がうずく。飛び跳ねて走り回りそう。


本当に、今でも信じられない。奇跡が起きていた。


奇跡の始まりは、ミスティア様がご家庭の事情で突如休みはじめ、

「ミスティア様は貴族だ。仕方ないよね」と理性で割り切ったふりをしながら、

本能と心は死に、

ただただ辛くしんどく苦しい日々を過ごし限界を完全に越え、

推しのいない世界の辛さに心をこわしそうになっていた昨日。


シーク先生に呼び出され、

一緒にミスティア様の御屋敷に行ってほしいと言われた。


どうして私なのかと尋ねると、

先生は私がミスティア様のお友達であると勘違いしていた。

ミスティア様は家庭の事情を全うする為邁進なさった結果大変お疲れになっていて

そういう時は同性の友達と気兼ねなく話す方がいいと先生は話していた。

私がミスティア様のお友達なんて恐れ多い、ただのオタクと推し。住む世界が違う。

次元が奇跡的に一致しただけで、全然違う存在。オタクと推しだ。

そこら辺は私はしっかりと弁えてる。厄介なオタクじゃない。

アイドルとファン。そこには越えてはいけない壁がある。

こちらは輝きを見させて頂いている立場。

線引きを越えた求めをしてはいけない。

そこら辺に関しては、私は厳しいオタクだ。


だから私は家に帰り、一人のオタク、

ファンとして捧げもののクッキーを急遽焼き、

御屋敷では最大限の活力を発揮できるようその夜はすぐに寝た。

緊張で眠れないのを気合で寝た。推しへの愛の強さだ。


そして今日という日を迎え、私はミスティア様の御屋敷に向かったのだ。

シーク先生の馬車に乗ると、何故かルキット様も乗っていた。

ルキット様はよくミスティア様に対して良くない態度を取っていた。


ただのオタクとファンである私とミスティア様の関係を友達だと勘違いし、

さらにミスティア様に何かしそうなルキット様を連れて行こうとするなんて、

シーク先生の目は節穴! 許すまじ! と思っていると、

ルキット様は、ミスティア様の分のノートを取って、

それを渡したいから同行を先生にお願いしたらしかった。


紛れも無い、推し変。

あれだけレイド様推しだったルキット様をミスティア様は沼に沈めた。

本当にすごい。でもミスティア様の沼深いから仕方ないよね。

分かる分かる。私も最初はまさかこんな深いと思ってなかった。

気付いたら頭の先まで浸かっていたんだもの。


シーク先生の目は節穴じゃなかった。



私もミスティア様の分のノートを取っていたけれど、

ルキット様が取ったのは板書の分だけ。

私は先生の発した言葉全てを書き溜めていた。


だからルキット様は板書ノート。

私は先生の発言ノート、それぞれ分担して渡すことにした。

ミスティア様推しの先輩としてもあるし、

同担拒否はしない派だから。


そして馬車を降りると、そこは夢の世界だった。

ミスティア様の御屋敷の門。門がもうまず素敵だった。

そこに立つ門番さんは、少年っぽい人と、恰幅のいい男の人。

二人とも黒に限りなく近い赤を基調とした専用っぽい制服を着ていた。

ミスティア様もきっとお似合いだろう。

ミスティア様がこのコスチュームに身を包んだ絵、死ぬほど欲しい。

絶対最高のはず。最高じゃないはずが無い。絵心が欲しい。

絵師さんの肉を食べれば絵が上手くなるなんて話を聞いたことがあるけれど、

いくらでも食べる。美術室にあった絵はいつの間にか無くなってしまったから、

自給自足しなきゃいけないし。


先生がその二人と話をして、門の中に通されると、

さらに夢の世界が広がった。


ミスティア様の御屋敷は、お城みたいだった。

黒ベースの御屋敷で左右に塔の様なものがあって。

お城を黒くしたような御屋敷。

屋根も壁も黒なのに、同じ黒じゃない。

ミスティア様の雰囲気にぴったりだった。

ソロ曲のステージ感がある。

このお屋敷をバックに歌ってくれたら嬉しい。


外だけじゃない、中も最高に素敵だった。

中も外と同じ、黒を基調としてるけど、

さらに金と赤が加わっていた。

金や赤が入ることで、黒がより際立つ。

特に赤はミスティア様の瞳の色。赤と黒の組み合わせは最高だ。

この組み合わせをミスティア様遺産として無形文化財登録してほしい。国で。


そして屋敷を入ってすぐの中央には赤くて大きな階段があった。

とてもとても大きな階段で、二階をぐるりと囲むようにしてある階段。


ここからミスティア様が歌を歌いながら登場したら最高だなと思いながら見ていると、

線の細そうな、冷たそうな印象の執事の方が現れ客間まで案内してくれた。

「家令」だと言っていたから、

執事の中でもとても偉い人なのだと思う。よく分からないけれど。


客間には、ミスティア様のお母様がいらっしゃった。

ミスティア様のお母様はミスティア様にそっくりで、

ミスティア様よりやや吊り目がちだけど、

年齢を重ねたミスティア様のようだった。

推しをこの世に産み出してくださった、いわば神。

国で栄誉を与えてほしい。納税したいと思ったけれど、

私のお小遣いなんて微々たるもの。ただただ心より深く感謝をささげた。

心の中で。


ミスティア様のお母様が話すには、

ミスティア様の調子は徐々に良くなっているらしい。

そんなに疲れるようなことってどんなことしたんだろう。

先生とミスティア様のお母様が話をしているのを聞きながら、

ルキット様の方を見ると、彼女は静かに、何かを憂うようにじっと目を伏せていた。


ミスティア様、元気かな。

元気に生きていてくれれば、もうそれだけでいい。

そしてそのお姿をほんのちょっと拝見できれば、

もう何でもいいです。ああ、推しが見たい。でも認知されたくない。

遠目からでいいんだよなあ。淡い夢のような記憶の世界には、

毎月発売される写実的な本で、近況を知る仕組みがあった。

それがあればいいのに……。


ミスティア様の近況を知る仕組みについて思いを馳せていると、

ミスティア様のお母様が先生と話を終え、

席を立ち、家令の人に何か指示をし、扉を空けさせる。

何だか女王様と騎士みたいだと思っていると、

開かれた扉のすぐのところに、ミスティア様が立っていた。


ミスティア様は、ゴシック調の黒いワンピースを着ていて、

その上から白いカーディガンを羽織っていた。

どこか儚げで、最高としか言えない。

あのワンピースを作った人も、カーディガンを作った人も、

自分が作った服をミスティア様が身につけたと知ったら本望だと思う。作ってくれた人にもお礼が言いたい。

そしてこのミスティア様を拝見する機会を与えてくれたシーク先生に深い感謝を心の中で伝える。

流石にこの場で「ありがとうございます!」とお礼を言って、

周りの見えていない厄介オタクだと思われたくない。

私はしっかり弁えているオタク。

推しにも推しの関係者にも迷惑はかけないし、

かけるなんて絶対嫌だ。論外だ論外。


そう弁えていたはずなのに、ミスティア様のお母様の世界で一番最高のご提案、

ミスティア様がガイドするミスティア様御屋敷ツアーで、

ミスティア様が普段生活し、生きている部屋を訪れた時、私は失敗した。


ミスティア様の部屋は、白と黒を基調とした部屋で、

豪華さや華美さよりも落ち着きを重視した部屋だ。

無機質な感じを思わせる雰囲気があるけれど、

いくつか人を小さくしたぬいぐるみが置かれていたり、

花を加工した標本が置かれていたり、

刺繍のタペストリーが飾られたり、ギャップを感じた。

推せる。機能性を意識しつつぬいぐるみを置くとか、もう何なの。

好き。推せる要素しかない。ぬいぐるみに話しかけたりするのかな?

それとも投げたりしてる? どっちでもいい。最高でーす!


本棚を見ると、冒険譚だったり、騎士の物語や、魔法の物語が多かった。

あとは詩集だったり、辞典だったり。

思えば無料につられて学校の図書館に行った時、

ミスティア様が騎士の戦いの話を読んでいるところを私はずっと見ていた。

儚げで高潔な雰囲気を纏いながら騎士の戦いの物語を笑みを浮かべ読むミスティア様、

マジ尊すぎです最高本当にありがとうございました!

喜びの舞ファンタスティックと思っていたけれど、

ここに来て畳み掛けるようにしっとりとした詩集が飛び出して、

ギャップ責めしてくるとは思わなかった。

ありがとうございます。


教養の高さの再認識、そうなんだよ。

ミスティア様教養があるの。なのに冒険談とか、

少年みたいなチョイスしたり、かと思えば医学書とか経済についての本読んでたり、

すごいんだよね、ギャップが。それでいて文学少女っぽいのに、

度胸があるとかね。もう推せないわけないよね。

沼が深い。もう出れなくなってもいいです。

周囲の人を引きずり込むことに徹します。

頑張ります!


そうしてミスティア様の怒涛の沼攻めに完敗しながらミスティア様の椅子を眺めた。

ミスティア様が毎日座っている椅子。


今見ている椅子が今から百年後くらいに、

博物館で展示されたりしているのかな……、

偉大なる輝きの象徴の椅子として、みたいな感じで……、とじっと椅子眺めると、

疲れたと思われたのかミスティア様に座ることを勧められた。


断れば良かったのに座ると、想いが爆発した。

ファンミで接触が許されたオタクの顔をしていた。

興奮して普段死んでる語彙力がさらに死に、

完全に興奮を前面に出してしまった。


私は自分のことを厄介オタクではないと思っていたけれど、厄介オタクだった。完全に。

本当に失敗した。つらい。

ミスティア様に厄介オタクだと認知され出禁になったらどうしよう。


それからのことは、あまり良く覚えていない。

私が前住んでいたところで起きた疫病の話をした。


何かヘルジーンだかテルジーンだかフィルジーンの家が、

とてつもなく危なかったみたいな話を母がしたのは覚えていたけれど、

名前も曖昧、どんな家かも知らない。

これ以上失敗したくなかったから黙った。


ミスティア様の様子を窺うと、疫病の話が気になっていたらしい、

私を気味悪がることなく、御屋敷の案内をしてくださった。

ミスティア様の記憶から、私がにやにやしながら椅子に座ったり、

興奮する姿が消えますように、と祈りを捧げ、

御庭や御屋敷の書庫を巡り、また失敗してしまった。


ミスティア様が本当に、

見えていないように通り過ぎた廊下が気になって聞いてみると、

行ってはいけない場所だったのだ。本当に、大失敗だ。


ミスティア様は、何故そこが行ってはいけない場所か分からないらしい。

ミスティア様は気になったらしく、その廊下へ一歩、一歩と歩みを進めると、

突然執事の人が現れた。

客間に居た執事の人とより随分若い、シーク先生と同い年くらいの男の人。

やや吊り目がちの瞳はちょっと蛇っぽい感じ。

少し妖しい雰囲気があったけれど、

ミスティア様と話をする時はその雰囲気が一気に柔らかくなった。


私は瞬時に理解した。



執事の人は、同担拒否勢なのだということを。



あの目は絶対にそうだった。

私が同担だと瞬時に理解し、威嚇してきたのだ。

私は同担拒否勢じゃないけれど、同担拒否勢を否定したりしない。

確かに解釈違い問題があるし、住み分けは大切だ。

だから非同担拒否として一歩引き、推しとのやり取りを見ていると、

執事の人は熱心にミスティア様に部屋に近付かないでとお願いをしていた。


そのまま流れで客間に戻ることになり、

シーク先生が職員会議があるということで帰ることになった。


何と、推しのお見送り付き。

そこで馬車に置き忘れていたミスティア様への捧げもの、

クッキーを渡すことが出来た。

クッキーを渡した瞬間、何だか物凄い殺気を感じて周りを確認したけれど、

特に誰も見当たらなかった。


けれど私にはわかる。

ミスティア様の御屋敷には、同担拒否勢がまだいる。

きっとどこか遠くから見ていたのだと思う。


ミスティア様に仕えてからミスティア様推しになったのか、

ミスティア様推しだから屋敷に仕えたのか分からないけれど、

正直に言ってめちゃくちゃ羨ましい。

ミスティア様に仕えてお金を貰えるとか、実質時給価値が島と同じ。

人生の福利厚生が手厚い。最高か。羨まし過ぎる。

ミスティア様に仕えて貰ったお給料をミスティア様に貢ぐ。

理想的な循環だと思う。

けれど私には、一生懸命女手一つで私を育ててくれたお母さんがいる。

しっかりとお母さんを支え、家計を助けて、ミスティア様を応援したい。


私はミスティア様の御屋敷ツアーを終え、

推しへの愛を再認識し、明日から頑張る気力をフル充電し帰宅した。










「でもなんかおかしい気がする……」


ベッドで転がるのをやめ、今日の出来事を思い出す。


シーク先生と、ミスティア様。



今までシーク先生は、何を考えているか分からないような、

ちょっと怖い先生だと思っていた。

けれど、ミスティア様とお話をする先生は、

雰囲気も柔らかくて、すごく気心の知れた相手と話をしているようだった。

ミスティア様は、普通に先生と接してる感じだったけど。


「もしかして先生もミスティア様推しだったりして……?」


そんなわけないか。先生だし。

生徒と先生だしね。


「よし、今日のレポート書こ、記録に残そ」


私はミスティア様の御屋敷、御屋敷での会話、会った人、

全て忘れないようにベッドから立ち上がると、

机の引き出しからミスティア様ノートを引っ張り出し、広げた。








●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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