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除けるべき仇

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


「メロ、本当に一緒に行く?」


図書館での勉強会当日の朝、御者のソルが引く馬車の中でメロに問う。

今日のメロの装いはポンチョにワンピース、編み上げブーツの装いだ。可愛い。

私はワンピースの上に薄いカーディガンを羽織っている。



「勿論です。私はミスティア様の専属侍女、

 何があろうとお傍でミスティア様をお守り致します」


駄目だ。

精神的にまいっているからこれだけで泣いてしまいそうだ。

しかし今泣くと、私の抱えている料理長特製ランチボックス入りバスケットに、

それはもう雨のように涙がかかってしまうから耐えた。


しかし、本来ならば、メロを勉強会に連れて行く気は無かった。

今回は恋愛イベント、万が一アリスに何かが起こり、

メロが共犯として後々捕まる布石にならないよう、

護衛は外部に委託するつもり……というか、全て外部に委託はしていたのだ。

護衛も、御者も、昼食のランチボックスに至るまでも。


が、雇った護衛はことごとくメロが打ち負かした。

防災、防衛、護衛に妥協すると酷い目に遭うと言うのは定石だし、

下手な護衛を選ぶと両親が納得しない為、国でも有数の護衛を雇ったはずだが、

試合は私が学校に行っている間に屋敷で行われた為、私は見ていないが、

模擬試合を見ていた掃除婦長曰く「秒殺」だったらしい。

「あんなの雇っても肥料くらいにしかなりませんよ」とフォレストは言っていた。

人間が肥料になるなんて死んだ時くらいだし、よほど役に立たないと言いたいらしい。

ちゃんとした護衛を雇ったのに。どうして。


そして御者のソルさんは雇った御者を帰してしまった。

「いなくした」と謝られ、別の御者をと手配しようとしたら、

繁盛期らしく雇える御者も辻馬車も見つからなかった。


料理長は「俺が要らないなら、最後に食べてください」と大鍋に飛び込もうとしたことで、

現在、護衛はいつも通りメロ、御者はいつも通りのソルさん、

昼食はいつも通りの料理長といういつも通りの布陣になってしまっている。


だからもう、その三名を共犯に仕立て上げられたりされないように、

最悪、後の布石として危なくなりそうになったら大きい怪我をするなりして、

力技でアリバイをもぎ取っていこう。

死ななければ良い。投獄死罪されなければ安いものだ。

今日はもう、そう考えることにした。


屋敷を出る前、フォレストが言っていた。

「絶対生きて帰ってきてくださいね……」と。

そしてその後、

「まず絶対話しかけられても無視してくださいね、

 どんなに困っていてもです。

 外の人間は皆卑しい家畜だと思ってください。

 目も合わせないでください。声も聞かせないでください。

 絶対二階建て以上の建物の中では窓に近付かないでくださいね、

 あと池も駄目です。また落ちたら大変ですからね。

 図書館の中の人間は大体調べたので大丈夫ですけど、

 関わらないでくださいね!」

と続けて一息で言われた。家畜て。

図書館に行くの一つでここまで心配されると、

定期的に外に出た方がいい気がする。


「……危なくなったら絶対にメロは逃げてね」

「ミスティア様に害を為すものは、例え誰であろうと、何であろうと、

 全て私が排除しますのでご安心ください」


メロが平然と物騒なことを言う。忠誠心が強い。

冗談を言うタイプじゃないからより本気っぽく感じる。

メロと会話をしながら景色を眺めていると、ゆっくりと馬車が停止し、

御者のソルさんが扉を開いた。

メロに手を差し出すと、彼女は私の手を取る。


「じゃあ……行こうかメロ」

「はい、ミスティア様」
















メロと共に図書館の入り口に向かうと、

ロベルト・ワイズが護衛を伴い立っていた。


「おはようございます」

「ああ、君か……、おはよう」

「早いですね」

「いや……、そんなことはない」


まだレイド・ノクター、アリス、ルキット様はいないようだ。

とりあえず図書館でも観察しながら待っているかと、ぼんやり景色を眺める。


国立中央図書館。

中央というのは文字通り国の中心部にあるからだ。

国立東図書館、国立西図書館、国立南図書館、国立北図書館と、

国立の図書館は全部で五つ建てられて、それら一つ一つは途方も無く大きく広い。

そしてこの中央図書館が最も大きく、国内一の敷地面積だ。

見ている感じだと、前世時代でいう大学の平均的な大きさくらいだろうか。


蔵書も勿論国内随一、そして図書館内に併設された自習室も随一、

多目的施設も設けられ、国内で最も大きな食堂がある。

随一だらけだ。

そんな国立中央図書館は盛況そうでもなく、閑散としているわけでもなく。

「平均的な混み具合です」といった様子だ。元々の広さが異常だから、

おそらくこの街一帯の人間が、突如本に対する中毒症状に陥り駆けこんだとしても、

満員にはならないし、ごった返しもしないだろう。


「ミスティア様! ワイズ様、おはようございます」


アリスが大きな紙袋を抱えながらこちらに駆けてくる。

すると彼女はメロを見て足を止めた。


「あ、そちらの方は……」


アリスがメロを見る。

架空令嬢ティアミスの知人だと思っているのだろう。


「今日は私の護衛についてもらっています」


とりあえず、誤魔化す。

「今日は」というあたかもいつもと違うような言い方だが、

間違ってはいない。


「そうなんですね! おはようございます!」


アリスがメロに挨拶をすると、メロは礼を返した。


待ち合わせの時間までまだ二十分ある。

ロベルト・ワイズは時間に厳しいタイプで、

アリスはご都合イベント、「今日に限って」みたいな、

シナリオ都合の遅刻以外では早く来すぎるタイプであり、

この状況は想定内。


レイド・ノクターは待ち合わせの前に来るけど、

早過ぎない適度な時間を選び取る。

もうすぐ姿を現すだろう。

となるとルキット嬢が残るが、彼女も下準備はしっかりするように思う。

二人ともそう遅くない時間に来るんじゃないだろうか。


「まあ、レイド様。皆さま揃っていらっしゃいます」

「……うん」


そう思っている間に来た。

レイド・ノクターがルキット様を伴い現れる。

その二人の後ろにも護衛がついている。


「皆おはよう、早く来たつもりだったけれど、

 もう少し急ぐべきだったかな」


レイド・ノクターが苦笑した後、アリスの紙袋に目を向ける。


「アリス嬢のそれは勉強道具かな? 重そうだね、手伝おうか?」

「いえ、これは皆さんにクッキーを焼いてきたんです、

 お昼の時に、良ければ……」

「へえ、楽しみだなあ」


アリスが照れたように笑う。レイド・ノクターも嬉々としている。

アリスのクッキーが余程気に入ったのだろう。




「ん」


ふと何かの視線を感じて周囲を確認すると、

ルキット様が険しい顔をしていた。

彼女はこちらと目が合いすぐにいつもの可憐な表情に戻った。














「では早速、自習室に行こうか」


レイド・ノクター、ルキット様の二人を先頭にして、

邪魔にならないようロベルト、アリス、

後ろに私と二列で図書館に入り中にある自習室に向かう。

私の後ろにはメロ、ノクター、ルキット、ワイズの護衛がついている。

メロ以外の護衛は皆男の人だ。

メロの方を振り返ると、メロが穏やかに笑う。

絶対に共犯にしちゃいけない清らかな笑顔だ。

絶対にこの天使を守らなくてはいけない。


前に顔を向けると、自習室と書かれた大きな扉が見えてきた。

図書館に行ったことは何度かあるが、自習室は初めてだ。

扉を開き部屋に入ると、長机と椅子が並び、

そこには老若男女問わず本を読んだりレポートと格闘していた。


この広さ、平均的な学校の体育館二つ分はあるんじゃないだろうか。

壁には、白っぽいような、銀色っぽいような絵画が飾られている。

銀色か白色かよく分からない。


「この奥に個室があって、そこでは会話が許されているから、そこに行こう」


レイド・ノクターが小声でそう言って、奥の通路を指す。

通路を進み、扉を抜け、通路を進みを繰り返していくと、

部屋……というよりは広いホールに辿りついた。


長机と椅子が並んでいるのは同じだが、本棚も設置されていて、

参考書や勉強に関連する書籍が並んでいる。


「ここは私語は謹まなくていい部屋だから、

 分からないところは教え合えるよ、ああ、場所はここにしようか」


そう言ってレイド・ノクターが、部屋の最後方、隅の机を指す。

するとルキット様が「わたくし、レイド様の隣がいいです」と、

レイド・ノクターを端に座らせてから自分が隣に座る。



……なるべく離れて座ろう。


「どうぞ」


さりげなくアリスをレイド・ノクターの向かいに座るよう促し、

ロベルト・ワイズがアリスの隣に来るようロベルト・ワイズに声をかけようとすると、

何者かに服の裾を掴まれた。


「私、ミスティア様の隣がいいですっ!」


え、正気なの?


アリスは緊張しているのか、震えている。

隣で椅子が引かれる音がし目を向ければ、ロベルト・ワイズが隣に座っていた。

駄目だ、埋まった。アリスの隣に座るしかない。


恐る恐る席につくと、目の前にルキット様がいた。

それは別にいい。

ただ、左はアリス、右はロベルト・ワイズに挟まれている。

左斜め前は、レイド・ノクター。


何この状況。もう医者に運ばれたい。

そのうち胃に穴が空くから事前に医者に運ばれたい。

しかしヘレン・ルキットの素性を聞かない以上帰れない。



「ヘレンさんは、どういった経緯で入学されたのですか?」


アリスが「そういえば」と、ルキット様に問う。

本当に? 心が通じた?

読まれたのかとアリスの顔を見ると、アリスはルキット様の方を見ている。

ありがとうアリス! すごくいい質問!

それ今日絶対聞かなきゃいけなかった質問だ。

もう私それ聞いたら帰る。一刻も早く。


「縁のある侯爵家から、お父様に転属の命が下ったんですの」

「転属?」

「ええ、お父様もお母様も、勿論わたくしも戸惑いましたわ。

 本当なら、わたくし夏から隣国へ留学する予定でしたのに。

 けれどレイド様に出会えたので、わたくしは嬉しいのです」


そう言ってレイド・ノクターの袖をそっと握ろうとするが、

レイド・ノクターは腕をあげ、教材の確認を始めた。


……ルキット様が嘘をついているようには見えない。

じゃあ脅したのではない?

っていうか、侯爵の家からの転属の命でこっちに来たなら、

その侯爵の口添えで来たってこと? 

なら、何も問題無いんじゃ……。


席に座り、考えていると、徐々に心が落ち着き始め、

あることに気付いた。


ルキット様の素性。

別に私が調べなくても、レイド・ノクターは普通に知ってたのでは?


そもそもあの全知全能のレイド・ノクターが、

ルキット家について何も知らない訳が無い。

不自然な転校時期についても疑問を持つはずだし、

何で転校してきたの? とか普通に聞くだろう。

そこで不審な点を見つければ、彼は調べる。


……レイド・ノクターを守らねばと思ったけれど、

完全に要らぬお節介だったのでは……?


今日、来なくて良かったのでは……?


思えば、クラウスは「ヒントは普通に考えることだ」と言っていたし、

彼は私が勉強会に誘われていることを知っていた。

私が勉強会に行きたがらないことも、考えるまでも無くクラウスは分かっている。

だから、私にルキット様の転入についての話をしに来た……。

クラウスの言葉は真実の中に嘘、嘘の中に真実がある。

そして楽しい、面白い為なら何でもする。

その、絶対忘れてはいけない事実をすっかり忘れていた。


これ完全にはめられた。

周囲を見渡しクラウスの姿を確認するが、彼の姿は見えない。

しかし、彼は絶対にいる。こちらを見ているはずだ。

……絶対途中で抜けよう。ロベルト・ワイズに協力してもらおう。

昼前には抜けよう。

最悪、紙でも丸呑みして医者に運ばれるしかないと決意しながら、私は教科書を開いた。















「この騒動が起きて、革命が起きました」


そう言って、アリスの歴史の教科書の革命のページを指す。


固く決意してから二時間。

ただただ私はアリスに歴史を教えている。


アリスは、国語も、数学も、化学、生物も、しっかり基礎が出来、

応用問題も解ける。テストも八十点から百点まで見込める点数だ。

が、何故か歴史が壊滅的な状態だった。

このまま行けば、五十点取れるか取れないかだろう。

幼少期家庭教師がついていないことで、

国語や数学、化学、生物などで躓き、

歴史教科については何となく分かる状態の逆をいっている。

私だけでどうこうできないと、ロベルト・ワイズと二人がかりで教えている。

二人がかりで教えると言うことで、ロベルト・ワイズがヘレン側に座り直し、

ロベルト・ワイズの席にアリスが着席、アリスの左隣が私、アリスの前はロベルト・ワイズと、

アリスを囲むように座り直したのだ。


「この時の皇帝は、即位二日目に革命を起こされたんだ」

「では二日天下だったんですね」

「ああ、そうやって覚えるのがいいな」


ロベルト・ワイズがアリスに教えている間に、

私はアリスが解いた問題の採点をする。

ロベルト・ワイズがアリスに教えている時に私がアリスの採点をし、

アリスが私に勉強を教わっている間にロベルト・ワイズが問題を作る。

何だろうこの状況。本当何なんだろう。


本来ならば、メロがアリスに教える方が一番いいのだろうけど、

メロとアリスを関わらせたくない。


一方レイド・ノクターとルキット様は、仲睦まじい様子で勉学に励んでいる。

青春だ。そのまま弟狂い治してください。


「ワイズさんと、ミスティア様に教わったおかげですっごくよく分かります、

 ありがとうございます!」

「いや、俺は何も。彼女の教え方が上手いからだろう」


そう言って、ロベルト・ワイズが私の方を向く。


「いえ、私は、元々教えてくれる方が優秀なだけで、私は……」

「きっととても優秀な家庭教師を雇っていらっしゃるのでしょう?

 どんな方なのかしら?」


ルキット様が目をきらきらとさせながらこちらの話に入ってくる。

いや、貴女はぜひレイド・ノクターとお話しをしていてください。

貴女がこちらの話に加わると……。


「ミスティアは家庭教師は雇っていないよ」


レイド・ノクターがそう答える。

ロベルト・ワイズやアリスは驚いた顔をこちらに向けた。


「ミスティア様、独学で?」

「いえ、庭師と専属の侍女に教わっているので、

 家庭教師を雇っていないだけです」

「護衛中の彼女だよね?」


アリスの質問に答えると、レイド・ノクターがメロを示す。

やめてくれ、ティアミス・アイリーンの接点が破綻する。

アリスの方を向くと特に気にしていない様子だった。

それどころか、レイド・ノクターに顔を顰めている。

いや何その顔、え、何?

少なくともヒロインが攻略対象にする顔ではない。


「侍女と、護衛と、家庭教師も? アーレン家の大きさで?」

「はい、彼女はとても優秀なんです、本当にもう、最高の侍女です」

「すごいな……」


ロベルト・ワイズが感心したようにメロを見る。

メロが褒められると嬉しい。

アリスはいつの間にか穏やかな表情に戻っていた。

やっぱり気のせいだったのかもしれない。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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「勿論です。私はミスティア様の専属侍女、 何があろうとお傍でミスティア様をお守り致します〜駄目だ。精神的にまいっているからこれだけで泣いてしまいそうだ。」ミスティアちゃん視点だとずっと胃が痛い気が抜け…
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