┗見ている者 彩度の断片
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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枠を組みながら、彼女を想う。
もうすぐ、もうすぐ彼女に会いに行ける。だから早く、早くしなければと思うけど、
中々そう簡単には出来ない。昔から、僕は何をするのも遅かった。
全然器用じゃなくて、何も出来ない。得意なことは何かと聞かれても、答えられない。
目立つ短所はいくらでもあるけど、長所は何も無い。
好きなものはあるけど、得意だなんて言えない。
枠を一度机に置いて、窓を空け外の景色を見下ろす。
下に彼女がいたら良かったけれど、そこには誰もいない。
ただ、人が行きかっているだけだ。
「ミスティア、きみはいま、どこにいるの」
目を閉じて、彼女を思い描く。
彼女は、変わらず女神のように美しい。
毎日、毎日彼女のことを考え、想いを告げる間に、
僕はふと、疑問を感じることがあった。
……どうして彼女は僕を見てくれないのだろう。
僕はこんなに彼女を見ているのに。彼女はちっとも僕を見てくれない。
見るのはいつも僕じゃない。笑いかけるのはいつも僕じゃない。
僕ばかりが、彼女を見ている。
初めはそれでいいと思った。僕とは釣り合わないし、
住む世界だって違う。だけど最初に彼女が話しかけて来た。
最初に僕を見つけたのは彼女の方だ。
ずっと日陰にいた僕を見つけたのは、彼女だ。彼女が僕を見つけた。
これは、とても不公平なことだと思う。
僕はいつも彼女を見て、彼女の事を考えているのに。
枠を取る手に力が入り、軋む。
……おかしい。彼女はおかしい。もしかして、妬かせようとしている?
ノクターの子息は転入してきた令嬢にかかりきりなのに、
どうして君は奴のことばかり気にする?
ハイムの子息と楽しそうに話す? ネイン家の令嬢と仲良くする?
ネイン家の令嬢には兄がいる。もしかして、兄と何かあるの?
僕はこんなにも君を想っているのに。
僕ばかり君を好きで、想いを贈っているのに、
君は僕には何もしてくれない。
どうしたらいいんだろう? どうしたら、君は僕を見る?
叩き付けるように黙々と腕を動かしていると、ノックの音ではっとする。
僕の部屋の、扉が開いた。
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