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迫る試練

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


用務員室で手を作成した次の日。


目の前の問題を、一問ずつ解いていく。

今は二限目、自習時間だ。生徒たちは各々テスト勉強をしており、

私自身も勿論テスト勉強をしている。


そう、テストだ、テストが来る。


主に、生徒の実力をはかる試験。

これで成績が決まると言っても過言では無い。

いい点が取れなければ、最悪留年である。恐ろしい。


本来、学生の本分は勉強である。

人に水をかけたり、崖から突き落としたり、

階段から突き落としたり、谷底へ突き落としたり、

集団で囲むことでは無い。

勉強に励むことが学校に通う意義の一つであり、

日頃の成果を現すのがテストである。

何も日々誰かを虐げ、階段から落とそうと画策する場では無い。

つまるところテストが近い。もう来月の中旬には学期末試験だ。

一か月を切っている。


そんな学期末試験前には、しっかり恋愛イベントがある。

今回は正規のイベントだ。捏造したものでは無く、

絶対に失敗できないイベントでもある。


大体の流れは全ルート似たようなもので、

「アリスと一緒に勉強する」これだけだ。


場所は図書館だったり学校だったり様々だが、

アリスに会い勉強し一緒に帰るだけのほのぼのとしたイベントで、

波乱万丈のような流れは一切ない。また恋愛要素も薄く、

見た感じただ学生で勉強に励む、というものだ。


レイド、ロベルトルートでは、彼らはそれぞれアリスの勉強を教え、

アリスの学力が上がりつつ、親密度も徐々に上がる。


先生のルートは、アリスが先生に質問し、

「何なら補習してやるぞ」と二人きりの補習授業をする。


エリクルートでは、レイドに勉強を教わるアリスが、

ミスティアの策略でレイドと引き離され、

アリスが一人で勉強している最中、「一緒にサボるぞ」とエリクが現れ、

エリクを怒るという流れだ。


ミスティアの策略というのは、学級長であるレイド・ノクターの仕事を増やし、

アリスをトイレに閉じ込めている間にレイド・ノクターを帰らせる、とかだった気がする。


今回は、校外学習の時に懸念していた、間接的な連鎖……、

「アリスが落ちたところに私が出くわし、

 結果的に私が落としたことになったらどうしよう」

みたいな心配をしなくて気が楽だ。


ただ一つ気になるのは、エリクとジェシー先生の存在である。

確かゲームでのエリクは「適当に頑張ればいいや」といった様相で、

可もなく不可もない成績。挙句の果てには、自身の成績について、

「女教師と遊んでやればいいだけだろ」と教師を誘惑し、

成績を上げてもらう犯行計画を宣う始末であった。

いいわけがない。むしろどう考えればそれがいいことになるんだと言わんばかりの発言である。


一方で現在のエリクは成績がいい。普通に良い。

学年五位以内に常に入っている。

漆黒に近い髪、艶めく褐色の肌、端正な顔立ち、実用的な筋肉に身を包んでいる肉体。

そんな何処からどう見ても美青年である彼の脳内には、不健全な思考回路ではなく、

しっかりと勉学が詰め込まれているのだ。ゲームと違って。

エリクはしっかりと勉学に励んでいる。少なくとも現状、

「成績が悪いからちょっと女教師と遊んでくる」とかは言わない。

人として極めて健全だと思う。だからエリクとのイベントが発生したとして怒りようがない。


そして先生はというと、テスト期間に向けて既に放課後の補習授業を展開しているのだ。

受講者もそこそこいて人気らしく、一日の定員がしっかり決まっていて、

先着二十人まで、いつも定員オーバーで争奪戦のようになっているらしい。

勿論成績の悪い生徒が優遇されるが、アリスが優遇される成績かと言えば微妙というか、

かなりはじかれるだろう成績なのだ。


こうなるとレイド・ノクターとロベルト・ワイズの一騎打ちの状況になるが、

レイド・ノクターにはルキット様がいるし、

出来れば若干様子がおかしいロベルト・ワイズと勉強してくれればいいなあと思う。

誤解により人を罵ったと言う傷で、かなり心にきているようだし。

反省も必要だと思うが、だからといって学校を辞め国を出る、

楽しんではいけないなんて発想は明らかに度が過ぎている。

言われた相手が心底傷付いてそれを望んでいるなら当然とも思うが、

言われた相手である私は「何かしたかも」とは思っても後は「一体何なんだろう」くらいにしか思っていない。

どう考えても言われた相手の被害と見合っていない。彼はアリスセラピーを受たほうがいい。

やっぱり退学しますなんてされたら本当に気が狂う。


しかしながら、最終的に誰と添い遂げるか、

誰と勉強するかはアリスが選ぶこと。

誰に勉強を教わるかなんて、私は関与できない。

出来ればロベルト・ワイズと勉強してくれますように、と祈るばかり。


なのだが。



「ミスティア様、あの、ここの問題どうやって解けばいいのでしょうか……」


アリスが私にノートを差し出し申し訳なさそうに尋ねてくる。

アリスが差す問題は、応用問題に応用問題を重ねたような問題で、

おそらくテストの範囲では無い。この問題が出題されることは無いか、

教師が気まぐれで最終問題として出すような難易度だろう。


「ここ組み合わせます、序盤はこの公式を使って、

 途中からこっちに切り替えます」


切り替えのタイミングも追加で補足すると、アリスの顔がぱっと明るくなる。


「わ! ありがとうございます! ミスティア様!」

「お疲れ様です」


アリスが嬉々として問題を解き始める。

今回の自習は立ち歩き可、勉強に関することなら私語可というもので、

アリスとの会話もメモでは無く、音声言語である。苦しい、怖い。


というか何でアリスは私に聞くんだろうか。

席移動もありで、言ってしまえば友達同士、

机を囲んで勉強をしているクラスメイトの方が多い。

しかしアリスは微動だにしない。


思えば今までアリスからありとあらゆる質問を受け続けて来た。

そして私はそれに答え続けて来た。


勉強はメロやフォレストに教えてもらっているけれど、

めちゃくちゃ楽しいし、メロもフォレストもめちゃくちゃにおだててくれる。

だからめちゃくちゃ調子に乗って勉強する。それに教え方がめちゃくちゃに上手い。

だからアリスの質問に答えることが出来る。何だろう、前にもこんなことあったな。


別に尋ねられること自体は勉強になるし、

教えるのが嫌なわけでは無い。


無いけども、他にいっぱいいるじゃないかとは思う。

エリクは無理でもレイド・ノクターに、ロベルト・ワイズ。

自習見張り要員として教卓にはジェシー先生がいる。

いっぱいいる。選び放題。

だというのに何故よりによってアリスは自らミスティアという大凶を引きに行くんだ。

何でわざわざ数多ある選択肢から地雷掘り当てて喜ぶ。

おかしいよ。ちょっとおかしいよこの子。何で。


「ミスティア嬢、あの、ここ教えてもらっていいかな」


顔を上げると、クラスメイトが数人横に立っている。

クラスメイトが差す問題は、さっき解いたばかりの問題だ。

書き込まれた途中式は正しく、少し伝えるだけで理解してもらえるだろう。


「ここは引っ掛け問題で……、

 ああこの考え方とてもいいですね、この考え方で、

 式を順に当てはめるんです」

「ありがとうミスティア嬢!」

「いえ、また気になったことがあればいつでも」


一人のクラスメイトに教えると、他のクラスメイトも納得したように頷き、

自分の席に戻り始める。

その姿をぼんやりと見届け、気づいた。

そうか。これか。こうして聞かれたことに答え続けているから、

アリスが質問してくるのか……?

レイド・ノクターは学年一位、あっちに聞いた方が合理的だろう、

人望故に大人気で近づけないとか……? とレイド・ノクターの方を見ると、

彼はルキット嬢にマンツーマンで教えている。どことなくレイド・ノクターの雰囲気が暗く、

スパルタっぽい。だからか。レイド・ノクターはスパルタっぽいから聞きにくいのか。

っていうか、あんなだったっけ? あんな暗い雰囲気で勉強を教える人間だっただろうか?


観察していると、レイド・ノクターが、ふらりと立ち上がる。

うっかり目を合うことがないようにまた問題集に視線を落とすと、

徐々に足音が大きくなっていく気がする。

いや、そんなことはないはず、気のせいだ。


「ミスティア」


気のせいじゃなかった。怖い。顔があげられない。

もうレイド・ノクターはすぐそばにいる。

この自習空間の教室内でスパルタモードレイド・ノクターに何を言われるのか分からない。

怖い。怖すぎる。学年一位のレイド・ノクターが私に問題の質問をするわけがない。

得体が知れない。怖い。


「はい」

「ルキット嬢に図書館で勉強しようと誘われているんだけど一緒に行かない?」

「……は?」


あまりの衝撃に顔を上げると、レイド・ノクターがささやかすぎる微笑みを浮かべている。

八割虚無、二割社会に適応する為に発動されたなけなしの笑いに見える。


え、なんて言った? 「図書館に、行かない?」って言った?

何で? その前の人物名違くない? アリスじゃない?

何でミスティアとか言っちゃってんの? 噛んだにも度が過ぎてない?



「良ければアリス嬢もどう?」

「えっ! 私ですか?」

「うん」


レイド・ノクターがアリスに声をかける。

いや「も」ってなんだよ。アリスを最初から誘ってくれよ。

……ん? これはもしかしてアリスを直接誘い辛いから、

ワンクッション置いた? イベントが、発生したと言うこと?

それならば、このまま適当に黙っていて、

後で私は勉強一人派だからと言えばいい。何だ簡単じゃ……。




「私は、ミスティア様がいらっしゃるのなら……

 是非とも参加したいです……」


そう言って、隣の席のアリスが、こちらを見ながら優しく微笑んだ。




何で?



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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「一方で現在のエリクは成績がいい。普通に良い。学年五位以内に常に入っている。」ちゃんと勉強してて偉すぎる!ミスティアちゃんがいるもんね!! 「わ! ありがとうございます! ミスティア様!」〜会話もメモ…
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