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敵襲

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/



お疲れ様会から一夜明け、朝のホームルーム。

教卓の前に立ち、二つに結った胡桃色の髪を揺らしながらぺこり、と礼をする少女。

長いまつげ、小動物を思わせる瞳。小ぶりな鼻、桃色の唇。

魔法少女にいそうだ。ライトノベルであれば、

どこにでもいる平凡を強く主張しながらも全く以て平凡では無い、

平凡認識が明らかに常軌を逸しているタイプの自称平凡主人公を慕う妹として君臨し、

人気投票で幼馴染系献身ヒロインを食ってしまうような美少女を彷彿とさせる美少女である。


「えっと、転入してきました、

 ヘレン・ルキットと申します、よろしくお願いします」


「ってことだ。座席は……一番後ろの、そこだ」


ジェシー先生が淡々と座席を指し示すのは、

昨日までは用意されていなかった、窓際最後列に、一人分追加された座席。

先生の指示のもと、ヘレン・ルキットはそこへ向かって、そっと席につく。

ひとつひとつの所作も愛くるしく、可憐。


転入生ヘレン・ルキット。

彼女は昨日、愛おしそうにレイド・ノクターの名を呼んだ美少女である。


昨日、昼休憩の鐘が鳴ると、ヘレン・ルキットは入学手続きがあると去っていった。

教室への道すがらレイド・ノクターから聞いた説明によれば、

時折家族で向かう旅先の、親戚の知人主催の茶会での顔見知りらしい。

「ああ、お知り合いなんですね」と返事をしたら、

「違うよ、家族で向かう旅先の、

 親戚の知人主催の茶会での顔見知りなんだけど」

と、謎のこだわりを発揮していた。



思えば、大型連休明け、

レイド・ノクターから旅行のお土産が届いた際同封された手紙に、

「今年もフレイム家の茶会に参加した」とか、

「次は婚約者として紹介したいから一緒に行こう」とか、

アリスと添い遂げフレイム家へアリスを紹介する時、

若干気まずくなるとしか思えない誘いが書かれていた。

絶対行かない。


「彼女はあんな感じだったけど、

 特別親しくした覚えは無いからね」


彼は教室へ戻る間際、そう私に語った。

流石レイド・ノクター。おそらく婚約者である私に、

不貞はしていないと伝えたいのだろうと思う。

「お前と違ってな」という副音声ならぬ意思をひしひしと感じたけれど、

私も断じてしていない。


アリスと目が合わないように配慮しつつ、ヘレン・ルキットの様子を伺う。

すると丁度彼女はこちらを向いており、私を睨みつけていた。


睨む。


それは主に敵に対し威嚇する時に実行する手段である。


しかし、私は敵認定されるような行いを彼女にした覚えはない。

別に彼女の故郷の村を焼いた覚えもなければ、

彼女の親族や友人、知人の仇でも無い。


ただ、思い当たらないことがないわけでもない。

昨日の、レイド・ノクターを見つめる瞳。甘えたような声。

そして、現在、私を睨む鬼のような形相。


……そこから導き出される答えはただひとつ、


彼女はレイド・ノクターに想いがあるということだ。




……最高だ。最高の気持ち。

神はいた。私を見捨ててはいなかった!


だってもうこれ絶対あれだ。

会えて嬉しいと笑っていたり、

終始レイド・ノクターに視線が注がれていたり、

私に対し何者かの仇を見る如く睨みつけているのも、

多分、おそらく、いや絶対嫉妬だ。

ただ隣を歩いていただけの私を憎悪してしまうほど、

レイド・ノクターのことが! 好きだからに! 違いない!


体育祭は、行事としては成功したが、恋愛イベントは大失敗に終わった。

しかし、レイド・ノクターとアリスは、会話をしている。

お互いにかは分からないが、少なくともレイド・ノクターはアリスに興味津々。

それは元々、恋愛イベントなんて無くとも、

ある程度は仲良くなれるということだ。


では何故、弟狂いが悪化したか。

それは、きゅんらぶの進度には到底追いついていないからだろう。

きゅんらぶでは、五月の校外学習手前のあたりで校内を一緒に散歩していたり、

教室で二人で会話をしたりしていた。しかし今や六月に相当する時期だ。

一か月も遅れている。バレンタインデーのチョコレートの準備をし始める時期に、

お年玉を配るレベルの遅延状況。

進展したと言えど、今はお互い興味をもっているだけ、恋愛に発展してはいない。

いわば友達以上恋人未満の状態である。


そこで。ヘレン・ルキットがレイド・ノクターに接近すれば、

ライバル関係としてアリスといい感じにレイド・ノクターを取り合い、

勝手に色々恋愛イベントが起こり進展するだろう。

「嫉妬」「独占欲」という感情は、過ぎるのもいけないが無いのも良くないらしい。

私がレイド・ノクターに近付きアリスに嫉妬させ、

アリスのレイド・ノクターへの恋熱を覚醒させるということは、不可能である。

アリスの前に立ち、レイド・ノクターに近付くことは、

ゲームミスティアそのままの行動であり、

処刑台に自分からギロチン片手に飛び込んでいくのと同義であるし、

ゲームミスティアの様にレイド・ノクターの手に触れたり、

レイド・ノクターに胸を押し付けるなどの過剰接触行為をして訴えられたら死ぬ。


そして以前うっかり腕が軽く触れるようにぶつかった際、

暗い顔で自分の腕を見るレイド・ノクターのあの目は忘れられない。怖い。

何かもう、鋭く光り雑菌が付着していないか入念にチェックをするように凝視していた。

別に泥がついていないし、本当に不意の教室移動の時にだ。

弟に変態幼児狂いの細菌を絶対付着させたくないという強い心意気を感じる。

それに反して、ヘレン・ルキットがレイド・ノクターの手に触れた際、

彼は柔らかく微笑んだ。悪い感情は抱いていないだろう。


レイド・ノクターは一刻の猶予も無いのだ。

ヘレン・ルキットか、アリスか。どちらかと恋を進展させ、

一刻も早く弟狂いの悪化を止めないと、

ザルドくんの周囲が焼野原にされかねないし、ザルドくん自身の身も危ない。


レイド・ノクターが、昨日発した言葉は常軌を逸している。

「ある程度自由にさせるには、周りを整備しないといけないって」

「逃がさない為だよ、他の誰でもない……」


どう考えてもザルドくん周囲の人間の排除、監禁宣言である。

怖すぎる。どう考えても犯行予告だ。

しかも名前を言わず犯罪として告発し辛いポイントをついているあたり確信犯。

怖すぎる。レイド・ノクターの知能と権力を使えば、

思い通りにならない人間も物もないだろう。

怖い。そしてそんな結末を迎えさせてしまえば、

彼の輝かしく幸せな未来は真っ逆さま、地獄に堕ちてしまう。

彼は優しく誠実だ。正義の心を持っている。そんな人が、地獄に堕ちていいものか。

私の不用意な発言のせいで弟狂いになったのだ。

そんな未来、絶対に阻止せなければならない。幸せになってもらいたい。

助けてくれたことだって、狼藉を許してもらったことだって何度もある。

迷惑をかけた分。尽力しなければ。


現在、レイド・ノクターがその心の闇のまま行動しないのは、

彼自身が誠実で真面目な人柄だからだ。

いわば強靭な彼の精神力で彼の狂気を留めている状態。

それが無くなった瞬間速攻で彼は動く。皆死ぬ。そしてそれがいつかは分からない。

明日かもしれない。明後日かもしれない。ただ分かることは、

このままいけば確実に闇があふれ出し、周囲は更地に、ザルドくんは行方不明、

レイド・ノクターは人の道を外れる。


よって、レイド・ノクターを慕うであろう彼女の存在は、

希望であり、光であり、神からの「見捨ててないよ、はよ弟狂い治せ」という贈り物だ。


正直彼女はきゅんらぶの登場人物にはいないし、

さっぱり誰だか分からないし、

転校とかあるの? という疑問もあるが、

おそらくミスティアがシナリオの裏側で蹴落としたのだろう。


ミスティアはきゅんらぶシナリオ終盤、

「レイド様に近付く愚か者には自分の立ち位置を分からせてやったわ」

「そして、貴女だけよ、最後まで私の邪魔をした者は、忌々しい!」

とアリスに己の犯行を自供していた。

ヘレン・ルキットさんはミスティアに消された令嬢である可能性が高い。


ありがとうヘレン・ルキットさん。いや、ルキット様。

もう本当に、この状況、なんとかしてください。

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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― 新着の感想 ―
「「お前と違ってな」という副音声」悲しいww思ってないのよww。 「……最高だ。最高の気持ち。神はいた。私を見捨ててはいなかった!」ああwww!! 「そして以前うっかり腕が軽く触れるようにぶつかった際…
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