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波は続く

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


午前の授業終了の鐘が鳴り、鞄からランチボックスを取り出す。


体育祭が終わり、二日が経過した。

昨日は一般生徒は休みだが、体育祭実行委員と各種委員会、運動部は全員片付けに回り、

無休であった為、正直疲れは残っている。わりと、いや、かなり。

しかし片付けも終え、今期の体育祭実行委員会は解散した。

私の委員としての任期も終了だ。気は抜けたし、楽だ。


ちなみに一学年の優勝は私のクラスだった。

あらゆる走競技において、クラス選抜も個人競技も何もかもトップの、

絶対王者レイド・ノクターの存在は大きいが、

彼は何十人もいる集団の一人である。

「レイド・ノクターがいるからいいや」と思わず、

レイド・ノクター含めみんな頑張った、

その結果が報われたということだ。良かった良かった。


さらに、優勝の立役者はなにもレイド・ノクターだけでは無い。

女子の部門では、あらゆる競技で、

アリスは一位を取り活躍したのである。


後に確認すると、借り物競走に出場したのは、アリスたっての希望だったらしい。

走るのは得意。クラスに迷惑をかけたから得点に報いたいと志願し変えてもらったと、

クラスメイト達が話をしているのを勝手に盗み聞いた。











さて、今日も今日とて別棟ランチだ。

ランチボックスを片手に立ち上がり、扉に手をかける。


「あの! ミスティア様」


あと一歩で廊下に出るタイミングで、アリスから声がかかる。

振り返るとやはり私を呼んでいるらしい。私を見ている。

何だろう、一限目の歴史の授業で彼女に教科書を見せて以降関わってはいないはず。

声をかけられる覚えは無い。


「はい、私です」

「実は昨日学級長が、体育祭のお疲れ様会をしようって、

 それで今日クラス皆で昼食を取ろうって話になっていまして、

 ミスティア様に是非……」


「だから、体育祭実行委員であるミスティアは参加しなきゃ駄目だよね?」


アリスの言葉にかぶせるように、レイド・ノクターがアリスとは逆側に立つ。

恐怖のあまり胃から何かがこみあげてくるのをお腹をさすり抑える。

無理だ、全然想定してなかった。しかも断れない。

これはレイド・ノクター個人の誘いじゃなくて、クラス行事だ。

しかも体育祭関連。しかも私は元体育祭実行委員。関わりが強すぎる。


打ち上げなんて考えもしなかった。 何にも準備してない。

何も武器が無い。丸腰だ。思考も、装備も。


「もうランチボックスは持っているね。

 行こうか、ほら、皆移動し始めてるよ」


レイド・ノクターの言葉に周囲を見渡すと、

確かに各自ランチボックスを持ち、

さながら移動教室のように移動を開始している。


「学食の座席はしっかり予約してあるんだ」


そう言って「はよ廊下出ろ」とでも言わんばかりに、

レイド・ノクターは促してくる。

恐る恐る、一歩を踏み出し、廊下に出る。

本当に床なのか不安に思うほど、感覚が無い。

地面は平らだが、死刑台に一歩一歩上っている感覚すら芽生えてくる。

そのまま私は、レイド・ノクターとアリスに挟まれ、学食に向かった。
















学校の学食の扉にしては大きすぎる門をくぐると、

学校の学食にしては異常な景色が広がった。


壁は至る所に絵画が設置され、いかにも高級そうな額で額装されている。

床は落ち着いた色合いでありながら完全に「主張しすぎない高い感じ」のそれ。

窓は上部がステンドグラスになっており、光が差すことで極彩色の光を生み出していた。

中央にはピアノが設置され、多分ピアニストであろう人物が曲を奏でている。

四方八方豪華。流石貴族学校。普通の学校の食堂の範囲を越えているどころか、

高級なレストランをも凌駕している。狂ってる。


「こっちだよミスティア」


周囲を観察していると、レイド・ノクターがこちらに呼びかける。

彼の方に目を向けると、丁度机と椅子が長々と並べられ、クラスメイトが着席していた。

机には予約席と書かれているし、個々で注文したであろう食事ものっている。


「ミスティアはここの席だから、入って」


言われるがまま席に座る。端の席だ。

挟まれるより落ち着く席だなと考えていると、

極めて自然な流れでレイド・ノクターが隣に座った。

嘘でしょ、立ち上がろうとすると、腕を掴まれた。


「席、そこだから」


逃げられない。追い詰められている。

そして確かに、座席は埋まっている。いなくなることが出来ない。

向かいには、アリスがいる。目が合ってしまった。

アリスはぺこりと一礼してきた為、礼を返す。

駄目だ、この席は死ぬ。殺される。運命に殺される。



「あの私この席」

「よし、皆座ったね、では、

 ミスティアから一言もらってから食べ始めようか」

「え、うそ」


レイド・ノクターの突然の無茶ぶりによって、

クラスメイトの視線がこちらに集中する。

本気か? 何この無茶ぶり、恨みか? 何か恨みがあるのか?

しかしレイド・ノクターには、恨まれて当然のことをいくつかしている……。

とりあえず、何か言わねば……。


「えっと、こ、この度は、クラス旗の作成、希望が半分以上通らない選手決めなど、

 沢山の困難を強いてしまい申し訳ございません。あの、本当、

 何だコイツは、とか、沢山思ったと思いますが、えーと、

 み、皆さまのおかげで、無事終えることが出来ました。

 ありがとうございます、クラスメイトの皆さんに、

 大きな怪我が無くてすごく良かったです」


立ち上がり、話して、一礼して着席すると、

拍手と共に、生ぬるい微笑みのような空気が流れる。何だこの空気は。

無茶ぶりしたんだから何とかしてくれよとレイド・ノクターを見ると、

彼は何だか呆れたような、懐かしむようなよく分からない笑みを浮かべている。

そして前方の拍手の大きさが凄い。恐る恐る前を向くと、

アリスが満面の笑みで拍手している。え、何だ一体。



「じゃあ、食べようか」


レイド・ノクターの言葉で、各々食事をはじめる。

流石レイド・ノクター、一瞬で食事会が開始された。


ランチボックスの包み広げ、

フォークとスプーンを取り出して、ふと考える。


……この場で腕にフォークを刺せば逃げられるだろうか。


いや、そんなことをしたらクラスメイトたちに、

「初めての体育祭、そしてその打ち上げで委員が己の腕をフォークで刺した」

というトラウマ級の思い出を与えてしまう。出来ない。


……昼食を食べ終えたら、委員会の所用があるといい感じに抜けよう。

念の為水筒が間違いを起こしてアリスにかかったりしないよう、

ぎゅっと閉じてある蓋をさらに閉める。


「そう言えばアリス嬢は借り物でミスティアを借りていたけれど、

 お題は何だったの?」


レイド・ノクターの言葉に、沈んでいた気持ちが一気に浮上する。

え、今、アリス嬢って言った? アリスに話しかけた。


「尊敬する方、です」


アリスが、緊張しながらも、嬉々とした微笑みをレイド・ノクターに浮かべる。

レイド・ノクターが、アリスに、話しかけ……た?

……アリスが、アリスが笑っている?


あれだけ、接点無く、交流が無かったのに。

恋愛イベントだって、大失敗したのに!?


これは、もしかして、見ていない間に、仲良くなった……?

これ、もしかして俗に言う、フラグというやつでは?

フラグが! 立っているのでは? 


いや、完全にフラグが立っている。進展している。

レイド・ノクターとアリスが、

何故か互いを見ずにこちらを見ているのは、気になるけれど。

おそらく意識してレイド・ノクターが見れないとか、そんな感じだと思う。

大きな一歩だ。これ、完全に気になる異性に昇格しているのでは?


これ、昇格しているのでは!


ああ、心に希望が満ちて来た。

確実に、二人の仲が進展している。

これは、絶対にいい流れだ。いい流れでしかない。

レイド・ノクター、何か体育祭中大分様子がおかしかったけど、

恋は人を狂わせるってやつだったんだ。いけるいける。


ああ、段々、料理長のお昼ご飯、味がしてきた。

このオムレツ美味しい、美味しいよ料理長。味がする。味がするよ!

本当に美味しい。ありがとう料理長。

私は、元気です!















どうしてこうなったんだろうか。

お疲れ様会が解散され、廊下を歩く。

足音は、二人分。私と、レイド・ノクターだ。


「体育祭、終わったね」

「そうですね……」


あれからさりげなく途中解散をしようとすると、

クラスに馴染めない私を気遣うレイド・ノクターに話を振られ、

結局最後まで残ることになった。

解散の際、さりげなく一人で消えようとすると、

「お疲れ様会は教室に帰るまでだから」とさらに気遣われ、

食堂を出るまではクラス皆が居たはずだが、

いつの間にか廊下を二人で歩いている。怖い。

さりげなくトイレに行こうにも、トイレはこの廊下を渡った先の先。

それまでは二人で歩かなければならない。逃げられない。怖い。

「ミスティアはレイド・ノクターについて歩くもの」

という強制力が働いているとしか思えない。

己の運命を呪いながら歩いていると、ふとレイド・ノクターが立ち止まる。


「……僕さ、体育祭を終えて、気づいたことがあるんだ」

「はい?」


振り返ると、レイド・ノクターは白けたような、

どことなく思い詰めた表情をしていて、澄み渡る瞳は、昏く濁っているように感じる。

あれ、この表情は。でも、どうして? アリスとは、進展したはずじゃないのか。

なのに、どうして。この表情は、間違いなくザルドくんの地雷を踏みぬいた時の……。


「ある程度自由にさせるには、周りを整備しないといけないって」

「何の話ですか」

「逃がさない為だよ、他の誰でもない……」


レイド・ノクターが、何かを言いかけると同時に、

ドサッっと何か重たいものが落ちる音がする。


何だと音のする方向に目を向けると、学校指定の鞄が落ちており、

鞄の傍には、淡い胡桃色の髪の美少女が立っていた。

別のクラスの生徒だろうか。

二つに結われ、毛先は緩く巻かれた髪は、その愛らしい顔立ちと相まり、

無欠の美少女としか言いようがない。

蜂蜜色の瞳は蜜を含んだ如く輝き、

「私、実は変身して悪と戦ってます、魔法使えます」と言われたら、

「なるほど」と頷いてしまうような、そんな魔法的少女だ。


「レイド様……」


少女は、その愛らしい唇で、愛おしい人の名を呼ぶように言葉を紡ぐ。


え、待て、レイド様って言った?

レイド・ノクターの方を振り向くと、彼は大きく目を見開いていた。


「君は……」

「そうです!! ヘレンです!

 ああ、なんということでしょう……、

 レイド様にまたお会いできるなんて……!」

「どうして、君がここに? それにどうしてここの制服を?」

「私、父の都合で、明日からこの学校に通いますの……」

「へえ、そうなんだ」


レイド・ノクターが、わずかに視線を逸らした後、

頷くように笑った。


「また、会える日を、ずっとお待ちしていました……。

 夢みたいです……レイド様……!」


少女は、レイド・ノクターの笑みに応えるよう彼の手を取り、

満開の花のように微笑んだ。

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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ヘレンちゃん〜!!!来ましたわね!!
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