81話 私はオモチャじゃないですよ?
柚季さんに謝られてから、私は必死にどこで柚季さんに出会ったか思い出そうと頑張った。何と言うか、こうして思い出す努力をしないと、謝ってくださった柚季さんに申し訳ない。
そう言えば…柚季さんが私にお茶を出してくれた時、少しだけ柚季さんから香ってきた匂い…今思えば、あの匂いに記憶が刺激された様な。
私の身の回りの男性だと、香水の匂い、整髪料の匂い、消臭除菌が出来るスプレーの匂い、たまに湿布薬の匂い、消毒液の匂いとかだからなぁ。柚季さんから香ってきた、どこか甘い感じがする華やかな匂いは、特に男性相手だとそう何度も出会う匂いではなかったし…それを糸口にすれば、何か思い出すかもしれない。
「戻るのが遅くなってすまない。」
「い、いえ。」
カルマートさんが来るまでの間だけ、柚季さんとどこで出会ったか考えよう!!と頭の中で決めたタイミングで、カルマートさんが応接室に戻ってきた。…うん、私の間の悪さは今に始まった事でもないし。許容範囲、許容範囲。ちょっと情けなくて落ち込んできたけど、まぁ自業自得だし。切り替えていこう、私。
「…その雰囲気だと、始は夜風さんにちゃんと謝れたみたいだね。良かったよ。」
「主のお陰です。…お仕事の方は大丈夫なんですか?」
「力は尽くしたよ。どうなるかは分からないけどね。」
「そうですか。…お茶淹れますね。」
お、おお…何か、いかにもなくらい出来る女主人と執事って感じだ。いや、正に二人はそんな関係なんだろうけど…あまりにも非日常な光景だったから、野次馬みたいな気持ちになってしまった。
あ〜、お付きの人と一緒に入った入居者さんの生活を見ていたら、こんな感じのやり取りあるのかな?友人でもない人に話し掛けられても迷惑かなって、ルナさん以外の人とはあんまり交流してないんだよねぇ…。
柚季さんが、淹れたお茶をカルマートさんの前に置いて、カルマートさんは自然な優雅な動作で一口紅茶を飲む…はぁ、様になってる。
私がまた野次馬みたいな気持ちになっていたら、カルマートさんは口を開いた。…ここまでの一連の動作が絵になり過ぎて、可能なら自分で自分の顔を叩きたい気分になってきた。正気に戻れって感じに。
「さて、話なんだけど…夜風さん。あの少女が社会に出る時の外部サポートの担当になってくれないか?」
「……外部サポート、と言うのは何ですか?」
カルマートさんの今までの言葉が頭の中を駆け抜けて、さっきのカルマートさんの言葉でストンと私の中に落ち着いたんだけど…外部サポート、と言う言葉がイマイチ分からなかった。
私はその道のプロではない。サポートするのにだって、限界があると思うのだが。
「定期的に面談しにくるとか…ほら、学校の先生が不登校の子にする様なイメージと言えば伝わり易いかな?」
「あ、はい。」
わぁ、分かりやすい。『私』の時はお世話になった様なならなかった様な感じだけど、何故だかイメージがすんなり出来た。
「夜風さんはギルド職員だし、今までの功績もあるし、彼女も気を許しているみたいだし…後見人として、ちょうど良いからね。」
ん?何だか新しい言葉が聞こえたぞ?…これってまさか、後見人と書いて外部サポートって読むパターン?まだ成人もしてない私が、後見人?
「受けるからにはしっかり勤めていく所存です。…しかしあえて言わせていただきますが、私に後見人の任は荷が重すぎると思うのですが。」
「うん、そうだね。でもまぁ、これも何かの縁と思って…ね?」
カルマートさんが、そう言いながらすがる様な困った様な笑顔を向けてきた。でも、背負ってるオーラはどこかどす黒くて…もう何か、カルマートさんの笑顔が悪魔の微笑みにしか見えなくなってきた。向けられたら冷や汗が止まらなくなる系の笑顔はアカンて…。
「ぷっ、ふははっ…すまない、すまない。夜風さんを見ていたら、何だか苛めてみたい気持ちになってしまってね…ははっ。良いリアクション、ありがとう!!」
「は、ははは…そうですか。」
あ〜、何か学生時代を思い出したなぁ。はは、ははは……ふぅ、何かガッツリしたモノをヤケ食いしたい気分だ。




