135話 気を許しているんだなぁ。
トロバドールさんとの腹の探り合いは、トロバドールさんがあっさり諦めてくれたお陰で短く済んだ。…何だろう、私にはあまりこの人が抱えている闇みたいなモノを感じない。闇的なモノは、私自身が抱えやすいから割りと敏感に察しやすいんだけど…トロバドールさんからは、どことなく諦めと、何故か認めるみたいな気配が…いやうん、本当何故に。
「お嬢さん…お嬢さん。ぷふぅっ。」
「影の精霊、貴方がその腹立つ煽り笑顔で頬をパンパンにして笑いをこらえると言う事は…とんでもなく面倒な事になってます?」
「面倒か面倒やないか聞かれたら、お嬢さん的には多分面倒なんやろうけど…まぁ、所詮時間の問題やろうから微妙やね。ウチは楽しい。」
またまぁ、曖昧な表現をしつつ己の感情に素直なヤツだな…時間の問題って、何それ不吉な響き。
…うん、今はトロバドールさんのアレコレより、影の精霊からもたらされた疑問より、カルマートさんの事を考えよう。どうせ上二つは、今考えた所で最終的に『なるようになれ。話はそれからだ。』って、自分で結論を着けてしまうだろうし。と言うか自分でそう考えている辺りで、恐らくもう結論は出てるし。
軽く両頬をパチンと叩いて気合いを入れてから、私は依頼書片手にアレコレと準備に取り掛かった。今回は戦闘が絡む案件ではないみたいだし、それでなくても私の場合直ぐ終わるんだけど…最終確認は大事だと思うんだ。最終確認怠って困った経験あるから…確認しても忘れてしまった時は、目も当てられない気分になったけど。
過去の失敗を思い出してズゥンと落ち込みながら、今回は集合時間が早めだったので、さっき入ってきたばかりのギルドを足早に出た。
「庭…ですか。」
カルマートさんの家に着いて、執事の柚季さんに迎えられながら応接室に通されて、そこで待っていたカルマートさんから告げられた言葉に、私はパチリと目を瞬かせた。
いや、依頼書に行きたい所があるから着いてきて欲しい…って書かれていたから、てっきりあの女の子の所に行くのかと…それがまさか、庭に行きたいだなんて…呆気にも取られるわ。
「うむ、庭だ。当たり前ながら、君をわざわざ呼んでから向かうくらいだから、ただの庭じゃないよ。」
「…危険な庭、と言う事なんでしょうか。」
柚季さんが出してくれた紅茶を一口飲みながら、私は密かに覚悟を固める。私が必要となるなる…そこそこのランクの冒険者である事と、ギルド職員である事が求められる所となると、それなりの危険が伴う所ってイメージしか湧かないからだ。
カルマートさんの実力がどの程度なのか分からないけど…以前見た魔術の腕前からして、ただ者ではないのは確かだ。
「ううん、イレギュラーが起きない限りは危険はないと思うな。まぁ、通常でもある意味危険かもしれないけど、そこはほら、人が言う事に『絶対』はない、って事で一つ納得してくれないかな。」
「は、はぁ。」
中々に凄い事を言っている筈なのに、こうも茶目っ気たっぷりにそんな事を言われてしまうと、何だか気が抜けてしまう。
「すみません、夜風さん。あんな事を言っていますが、夜風さんにご迷惑は掛けないと思いますので…。」
「あ、いえ…すみません、そんなに顔に出ていましたか?」
溜め息を吐こうとしたタイミングで、柚季さんから声を掛けられて少し驚いた。私、表情を表に出さない事に関しては割りと定評があるんだけど…。
「いえ…でも、主からいきなりこんな事を言われたら、困惑するだろうと…すみません、差し出がましかったですね。」
「いえいえ…お気遣いをしていただいて、嬉しかったです。」
「むぅ、酷いなぁ!!始、夜風さんに素を見せたからって僕に当たりが強くないかなっ!?」
「そうでしょうか?…ほら、主。そろそろ準備をなさるんでしょう?」
ぷくぅっと頬を膨らませたカルマートさんをたしなめる柚季さん。…何だか、とても微笑ましい気持ちになるな。




