128話 同じ穴の何とやら。
さっさと私と先生のカップに紅茶を淹れて、私は一口紅茶を飲んでから、影の精霊の方向に体を向けた。…うん。紅茶を淹れてる過程で頭が切り替わったのか、今は凄く落ち着いてる。紅茶の香りのお陰かもしれない。
影の精霊はもったいぶった感じに咳払いをして、何故か胸を張った状態で話始めた。…話を聞く側の私が言えた口ではないんだろうが、話すにしても、もう少しどうにかならなかったのだろうか。
「お嬢さん、お嬢さん。ソレやと、結果的に言ってしもうとるでハァハァ。」
「ああ、話の腰を折ってしまったな。すまん。続けてくれ。」
しまった…いつものツッコミ癖が出てしまった。今はトロバドールさんがアルベロ先生をどう思っているか、だ。それを知った上で、私はどう立ち振る舞えば良いか考えなければ。
「このギャップも、お嬢さんがお嬢さんたる所以やなぁ…ウェッホン!!あの兄ちゃんは、昔先生さんに助けられた事があるってのは、先生さんが話したやん?」
ギャップと言う表現に、内心で軽く苦笑いをした。さっきまで面倒くさい思考をしていたヤツとは思えないとは、自分の事ながら思う。
その時、ふとした疑問が頭に浮かんだ。…こうして思うだけでもこの二人には筒抜けだろうし、それなら口に出してしまおう。
「アルベロ先生、トロバドールさんの事はうろ覚えだったのに、エピソードだけ良く覚えていましたね。」
「顔は覚えてねぇが…何だろな、スゲェしつこかった。」
うーん…アルベロ先生が『しつこい』と言っても、イマイチそのしつこさが伝わってこない。言葉に熱量がないと言うか…でも、あのアルベロ先生が記憶に残ってるって事は相当だったのだろう。
「兄ちゃんがそこまで先生さんにしつこくしたか…最初は妬み嫉みや怒りとかやったんやけど、次第にそれが憧れになって…最終的には崇拝に近い何かになっていっとるなぁ。」
助けられたのに妬み嫉みを抱くって所に、私は不思議でたまらなくなるんだけど…まぁ、その辺の心理描写はあまり興味がないから良いや。問題は現状だし。
にしても…アルベロ先生は最初は嫌いだったのに段々好きになっていったってパターン多いよね。好きって言うか、この場合は崇拝だから…何か拗らせてる感が凄いけど。
「力が強すぎると言うのも、考え物ですね。」
「夜風。お前それ、思いっきりブーメランしてね?」
アルベロ先生の指摘に、私は固まった。アルベロ先生程ではないが、私だって『力が強い』カテゴリーに当てはまる。当てはまってしまう。
…い、いや…まだ私はそんな…アルベロ先生みたいに、信者みたいな人は居ませんし。嫌われはしても、私至上主義みたいな人は現れていませんし…ま、まだ大丈夫。時間の問題かもしれないけど、まだ大丈夫。
「お嬢さんって、決して鈍い訳ではないんやろうけど、専門外やと割りに鈍いよなぁ。」
「藪から棒に何だよ。…えっと、トロバドールさんが私の事を睨んでいたって言うのは?」
「ああ、あの時のお嬢ちゃんとの会話を、表面上だけ受け取った結果やね。それでギルドの中でもそこそこの地位で、しかも自分は親しく出来なかった先生さんの近くに居るなんて…ハンカチギリィ…みたいな?」
いや、トロバドールさんに限ってハンカチギリィはないだろ。似合わなすぎだから。と言うか、今時ハンカチを噛んでギリィとする人なんて居ないだろ。…って、何本気でツッコミを入れてるんだか。普通に考えて言葉の綾だろうに…。
影の精霊の言葉を聞いて、気付いた事が一つある。そう言えば、事務部と武闘部ではあまり交流がないのか、武闘部での私の活躍は知られていないんだった。私はしょっちゅうどちらかの部署に居るから実感なかったけど。
「そう言えば、一部の先生からアルベロ先生はぐうたら野郎とか言われてましたね…。」
「え、事実じゃねぇか。」
まぁ、下手に実力を見せてしまうと追々面倒事に巻き込まれる訳だし、そう言う面がないわけではないから、訂正しない気持ちも分からなくないですが…モヤッとするなぁ。
アレ、これってもしかして…私もアルベロ先生を特別視してる事になるのだろうか。だって…これではまるで贔屓してるみたいだし。




