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71話 偽りの仮面

神様サバイバル12日目

朝。


警察署のロビーには、大勢の警察官と風俗嬢達が集まっていた。


昨夜の神の発表。

「疲れ」の消滅。

そして、防衛キーワードの裏設定。


誰もが不安を抱えながら、壇上へ視線を向けている。


やがて。

静かに拍手が起こった。

その中心を歩いてきたのは。

花魁夜。


今日も完璧だった。

艶のある黒髪。

一切の乱れがない化粧。

誰もが見惚れる美貌。


その姿だけで、この場の空気が変わる。

夜は壇上へ立つと、ゆっくり全員を見渡した。


「おはようございます」


よく通る声。

ざわついていた空気が、一瞬で静まる。


「昨夜、神から新たな情報が公開されました」


「まずは疲れが消えたことについて」


夜は言葉を選びながら続ける。


「疲れないからといって、身体が壊れないわけではありません」


「痛覚もありません」


「全力で走り続ければ筋肉は切れます」


「骨も折れます」


「それでも私達は痛みにも疲労にも気付けません」


会場がざわつく。


「だからこそ」


「昨日まで以上に、自分自身を管理してください」


全員が真剣な表情で頷いた。

夜は続ける。


「そして防衛キーワードです」


「魂レベル30以上の方は、消滅ワード以外にも設定できます」


「ですが」


「警察署では既に”電気”など、生活を支えてくださっている方がいます」


「能力は、個人ではなく皆のために使ってください」


拍手が起こる。

夜は微笑み返した。


「最後に」


表情が引き締まる。


「先日起きた神愛教による殺害事件」


空気が一気に重くなる。


「警備はさらに強化します」


「潜入捜査も開始します」


「私達は屈しません」


夜は真っ直ぐ前を見た。


「法律は消えました」


「だからといって、人が人を裁いていい理由にはなりません」


「恐怖に支配される必要もありません」


「ここは、私が守ります」


静寂。


そして。

割れんばかりの拍手。


「夜さん!!」


「さすがだ!!」


「ついていきます!」


歓声が警察署中へ響き渡る。

夢見はその姿を見ながら、嬉しそうに微笑んだ。


「夜ちゃん……」


昔よりずっと。

強くなった。

そう思った。


その時だった。

一人の女性スタッフが水の入ったグラスを持って壇上へ上がる。


「夜さん、お水です」


「ありがとう」


夜は優しく微笑んだ。


「そこへ置いておいて」


女性スタッフは夜を見つめる。


「あっ」


「夜さん」


「髪にゴミが付いてますよ」


夜は少し照れ笑いを浮かべる。


「え?」


「ほんと?」


「取ってくれる?」


「もちろんです」


女性スタッフがゆっくりと手を伸ばす。

夢見は何気なくその様子を見ていた。


次の瞬間。

女性スタッフの指先が。


髪ではなく。

頬へ触れた。

夢見の瞳が見開かれる。


「夜ちゃん!!」


警察署中へ響き渡る叫び。


「敵ですぅ!!」


夜が反応する。


だが。

コンマ一秒。

遅かった。


ベリッ――。


乾いた音が響く。

何かが剥がれた。

床へ落ちる。


それは。

人の皮膚ではなかった。

特殊メイク。

誰も理解できなかった。


静寂。

時間が止まる。


夜の顔から。

美しい仮面が剥がれ落ちる。


そこにあったのは。

誰も見たことのない。

夜の本当の顔。


「……え?」


一人が呟く。


「夜さん……?」


もう一人。


「顔……違う……」


ざわめきが広がる。


「え?」


「どういうこと?」


「騙されてたの?」


「嘘だったの?」


「夜さん……その顔……」


夜は息を呑んだ。

身体が震える。

反射的に両手で顔を隠した。


見ないで。

お願い。

見ないで。

心の中で何度も叫ぶ。


だが。

誰も視線を逸らさない。

女性スタッフは剥がした特殊メイクを足元へ投げ捨てた。


そして。

しゃがみ込み。

顔を隠して震える夜を見下ろす。

冷たい笑みを浮かべながら。


「嘘は、いつか剥がれる」


一拍。


「やっぱりブスだったんだね」


夜の肩が大きく震えた。

女性スタッフは踵を返す。


騒然となる人混みを掻き分けながら歩いていく。

振り返ることもなく。


「裁きは近日中に行います」


「どうぞ、お楽しみに」


その姿はすぐに人混みへ消えた。

誰も追えなかった。

夢見は我に返る。


「夜ちゃん!!」


壇上へ駆け上がる。

不知火も続いた。


夜はその場に膝をついていた。

両手で顔を隠したまま。

小刻みに震えている。


夢見はそっと肩へ触れる。


「夜ちゃん……」


返事はない。


「大丈夫です」


「私はいますからぁ」


その瞬間。

震える手が。

ゆっくりと夢見の手を掴んだ。


力なく。

今にも消えてしまいそうな手だった。


夜は俯いたまま。

震える声を漏らす。


「ねぇ……羽衣……」


嗚咽混じりの声。


「助けて……」


夢見の笑顔が消えた。

その瞳に宿ったのは。

静かな怒りだった。

誰にも気付かれないほど小さく。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

9日目 “ 約束”

10日目 “ アルコール”

11日目 “ 血の繋がり”

12日目 “ 疲れ”

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