69話 そうゆうこと
神様サバイバル11日目
【人類残り40%】
夜はゆっくりと不知火の隣へ腰を下ろした。
柔らかな香りがする。
近い。
思った以上に近い。
不知火は思わず背筋を伸ばした。
夜はそんな様子を見て小さく笑う。
「緊張してるの?」
「していない」
即答だった。
「ふふっ」
夜は楽しそうだった。
「夢見のこと」
不知火が口を開く。
「聞いてもいいか?」
夜は頷いた。
「いいわよ」
「なぜ疎遠になったんだ?」
少しの沈黙。
夜は天井を見上げた。
そして。
ぽつりと呟く。
「嫉妬……でしょうね」
「私はずっと羽衣が羨ましかった」
不知火は黙って聞く。
「私は必死だった」
「メイクを覚えて、話し方を覚えて」
「立ち振る舞いを覚えて、やっと今の私になった」
夜は自嘲気味に笑う。
「でも羽衣は違う」
「何もしなくても綺麗」
「何もしなくても人が集まる」
「しかも本人はそれを嫌がってる」
不知火は少しだけ理解できた。
夢見らしい。
「だから離れたのか」
「えぇ」
夜は頷く。
「最低よね」
「まぁな」
「否定してくれないの?」
「嘘になる」
夜はまた笑った。
しばらく沈黙が続く。
やがて夜が立ち上がった。
「さて」
両手を広げる。
「せっかくプラチナチケットを手に入れたんだから」
「そろそろ始めましょうか」
不知火が固まる。
夜は浴衣へ手を掛けた。
「ま、待て」
「なに?」
「いや、その……」
夜は楽しそうに微笑む。
「ねぇ」
「期待して来たんでしょう?」
ゆっくり距離を詰める。
「シルバーでも」
「ゴールドでもなく」
「私を」
耳元。
吐息がかかる。
不知火の顔が真っ赤になった。
夜は反応を観察する。
数秒。
そして首を傾げた。
「あら?」
「思ったより反応が薄いわね」
不知火は必死だった。
理性が。
倫理教師が。
全力で仕事をしていた。
夜は顎へ指を添える。
「なるほど、そうゆうこと」
「そうゆうこと?」
夜は意味深に笑った。
「裸じゃ駄目なのね」
「は?」
「安心して、ここには色々あるわ」
指を折る。
「チャイナドレス、婦警、魔法少女」
「ナース、女子高生」
その瞬間だった。
不知火の眉が僅かに動く。
本当に僅かだった。
だが。
夜は見逃さなかった。
「ふ〜ん」
数分後。
制服姿の夜が現れる。
完璧だった。
夜は満足そうに笑う。
不知火は天井を見た。
終わった。
一時間後。
プレイルームの扉が開く。
出てきた不知火はどこか艶やかだった。
ぼーっとしている。
首元には薄っすらとキスマーク。
受付嬢が深々と頭を下げる。
「ご利用ありがとうございましたぁ」
不知火は無言だった。
男性エリアへ戻る。
すると。
警察官達がすぐに気付く。
「おっ!」
「兄ちゃん帰ってきた!」
「どうだった!?」
「夜さん最高だったろ!?」
「100枚の価値あったよな!?」
皆が騒ぐ。
だが。
不知火は何も答えない。
そのまま雑魚寝部屋へ向かう。
布団へ倒れ込む。
天井を見る。
そして。
静かに目を閉じた。
一方。
夢見は女性エリアにいた。
エステ。
マッサージ。
温かいお茶。
極楽だった。
「幸せですぅ〜」
そのまま。
夢の世界へ旅立っていた。
夜は署長室へ戻る。
静かな部屋。
椅子へ腰を下ろす。
ふと。
机の上に紙が置かれていることに気付いた。
夜の表情が曇る。
恐る恐る手に取る。
そこには。
【ほんとはブスなんだろ?】
短い文章。
それだけだった。
夜の呼吸が止まる。
数秒。
紙を握り潰す。
ぐしゃっ。
そしてゴミ箱へ投げ捨てた。
だが。
言葉は頭から消えない。
夜は両手を握り締め、
震えていた。
場所は変わる。
神愛教本部。
薄暗い部屋。
跪く信者。
その前に一人の男が座っていた。
「総帥」
「ご報告を」
信者が頭を下げる。
「警察署を支配する風俗嬢、花魁夜」
「特殊メイクによって顔を偽っております」
「聖なる裁きの判断を」
静寂。
やがて。
男が口元を歪めた。
呪崎黄泉。
神愛教総帥。
「ほぉ」
楽しそうだった。
「それは見逃せませんねぇ」
暗闇の中。
呪崎だけが笑っていた。
・不知火焔(25歳)寿命15年使用
・水無月楓(16歳)
・音棘廃人(14歳)
・的場射檻(23歳)
・医楽世捨(62歳)
・盗丸頼斗(33歳)
・黒闇破滅(30歳)寿命20年使用
・花魁夜(27歳)
・金剛堕落(32歳)
・天涯帝(40歳)
・夢見羽衣(25歳)




