43話 幸せってのは
神様サバイバル8日目
ホームセンター。
静かだった。
つい数分前まで、
銃声と悲鳴が響いていた場所とは思えないほど。
火薬の匂い。
血の匂い。
崩れた棚。
割れたガラス。
朝日だけが、
何事もなかったように差し込んでいた。
黒闇は、
ゆっくりと立ち上がった。
不知火が、
ふと違和感に気づく。
「あ……」
自分の腕。
以前、黒闇達に撃たれた傷。
傷口が塞がっていた。
皮膚が閉じている。
「……そうか」
不知火は小さく呟いた。
痛感は、
もう消えている。
だから気づかなかった。
自分の身体の異変に。
黒闇を見る。
白髪。
深く刻まれた皺。
数分前まで、
30歳だった男。
今はもう、
50歳ほどに見える。
不知火は、
自分の頬を触った。
確認はできない。
鏡はもうない。
だが。
自分も、
少し老けたのだろう。
神様通話。
寿命。
本当に削られている。
頭では理解していた。
でも。
目の前で見ると、
現実感が違った。
黒闇が歩き出す。
ふらつきながら。
血を流しすぎたのか、
足取りは重い。
「おい」
不知火が呼び止める。
黒闇が止まった。
「一緒にこないか」
黒闇は振り返らない。
不知火は続けた。
「お前一人じゃ——」
そこで。
黒闇の視線が、
ゆっくりと横へ流れた。
華。
そして母親。
二人とも、
怯えた目で黒闇を見ていた。
助けられたはずなのに。
それでも怖い。
銃を持ち。
人を殺した男。
黒闇は少しだけ黙った。
そして。
「……やめておく」
低い声。
「おれは怖がられる方が似合ってる」
自嘲気味だった。
不知火は、
何も言えなかった。
黒闇が辺りを見る。
倒れた部下たち。
血。
死体。
三十人。
全滅。
誰も動かない。
ホームセンターも、
もう長くは持たない。
黒闇破滅。
その名前で抑え込んでいた均衡が崩れた。
噂はすぐ広がる。
物資を狙う人間。
暴徒。
略奪。
ここは、
もう終わりだった。
黒闇は一人歩き出す。
途中。
ピエロの前で止まった。
白塗り。
返り血。
風船。
無言の男。
黒闇は少しだけ笑った。
「……ほんとに大事なもんってのは」
朝焼けを見る。
崩れた世界。
静かな空。
「案外、ただの日常なのかもな」
ピエロは何も答えない。
ただ、
華を見ていた。
黒闇は去った。
誰も止めなかった。
◇
不知火たちも、
古民家へ戻ることにした。
ピエロ。
華。
華の母親もついてくる。
帰り道。
誰もあまり喋らなかった。
黒闇のこと。
神様通話。
家族。
色々ありすぎた。
空気が重かった。
的場だけが時折、
ダイナマイトの袋を見ていた。
数十分後。
古民家。
不知火が玄関を開ける。
違和感。
空気。
荒れている。
床に散らばった物。
倒れた椅子。
「……っ」
的場が反応した。
不知火と同時に、
中へ飛び込む。
そこにいたのは。
床に倒れる医楽。
顔から血。
意識がない。
「おじいちゃん!」
夢見が必死に呼びかけている。
震える声。
半泣きだった。
その横。
廃人。
鼻血を流し、
俯いている。
肩が震えていた。
「おい!!」
不知火が駆け寄る。
「何があった!?」
夢見が顔を上げる。
目が赤い。
泣いた跡。
「……楓ちゃんが……」
震える声で、
話し始めた。
◇
一時間前。
楓は落ち着かなかった。
「遅くない?」
「大丈夫かな……」
そわそわしながら、
何度も外を見る。
夢見も不安そうだった。
「黒闇って人……怖そうでしたしねぇ……」
医楽は酒を飲んでいる。
コップを揺らしながら、
静かに。
廃人はぶつぶつ呟いていた。
「いや〜……これもありか……?」
「防衛キーワード……」
「いやでも、概念系なら——」
そのとき。
ガラッ。
玄関が開いた。
楓が顔を明るくする。
「あっ、早かったわね!」
ぱたぱたと玄関へ向かう。
直後。
「きゃぁぁぁ!!」
悲鳴。
夢見の肩が跳ねた。
廃人が慌てて、
モデルガンを掴む。
二人が向かう。
玄関。
囚人服。
男が三人。
楓が捕まっていた。
腕を捻られ、
押さえつけられている。
「おぉ?」
一人が笑う。
「なんだ大家族か?」
楓が抵抗する。
「ちょっと離しなさいよ!!」
男が笑った。
「わりぃなお嬢ちゃん」
「命令は、酒、女、飯なんだ」
「一緒に来てもらおうか」
廃人が震えながら、
モデルガンを向ける。
手が震えている。
男が目を細めた。
「おいガキ」
「そのおもちゃ、誰に向けてんだ?」
廃人が固まる。
喉が鳴る。
夢見も動けない。
怖い。
本物の暴力。
本物の悪意。
そのとき。
奥から医楽が出てきた。
酒。
そして。
木の実。
山菜。
松茸。
先日、
みんなで集めた食料。
それを囚人たちへ投げた。
「酒と食料はやる」
低い声。
囚人がにやつく。
「へへっ」
「物分かりのいいじいさんで運がよかったな」
廃人を見ながら笑う。
廃人は悔しそうに歯を食いしばった。
夢見は、
飛んでいった松茸を見て。
「あっ……松茸……」
と小さく呟いた。
一人の囚人が袋に詰める。
「じゃあな」
立ち去ろうとした。
そのとき。
「待て」
医楽だった。
囚人たちが振り返る。
「はぁ?」
医楽が言う。
「酒と食料はやると言った」
静かな声。
「だが」
右手に医療用メス。
鈍く光る。
「楓はやらん」
楓の目が揺れる。
「医楽……」
夢見も廃人も固まる。
囚人たちは笑った。
「じいさん無理すんな笑」
一人が前に出る。
次の瞬間。
医楽が動いた。
速い。
メスが走る。
男の腕が切れる。
「っ!!」
血。
「うおっ!?切れ味やべぇ!!」
だが。
医楽は老人だった。
右腕を掴まれる。
頭突き。
ゴッ。
視界が揺れる。
倒れる。
馬乗り。
殴打。
首を締められる。
「医楽!!」
廃人が飛び込む。
殴られる。
吹っ飛ぶ。
鼻血。
床へ。
楓が叫ぶ。
「やめて!!」
涙声。
「わかったから!!」
「大人しくついていくから!!」
囚人たちが笑う。
「最初からそうしろよ」
楓は唇を噛む。
夢見は動けない。
悔しい。
怖い。
どうしようもない。
そして。
楓を連れて去っていった。
◇
現在。
不知火の拳が震えていた。
静かな怒り。
的場の目も変わっている。
夢見が俯く。
「ごめんなさい……」
「私……何も……」
不知火が立ち上がる。
「どっちに行った」
低い声。
廃人が震える声で言う。
「刑務所……」
◇
その頃。
刑務所。
所長室。
楓は椅子に座らされていた。
手は縛られていない。
だが。
逃げられる空気ではない。
目の前。
巨大な男。
囚人の王。
金剛堕落。
金剛が楓を見て、
にやりと笑う。
「へぇ……」
「随分若ぇ女が来たな」
楓の背筋に、
冷たいものが走った
消滅ワード
1日目 “法律 ”
2日目 “ 電気”
3日目 “ 罪悪感”
4日目 “ 鍵”
5日目 “ 痛覚”
6日目 “ 肉”
7日目 “ 地図”
8日目 “ 鏡”




