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39話 救い

神様サバイバル8日目

朝のホームセンター。


誰も動けなかった。

ピエロが踊っていた。


ムーンウォーク。

パントマイム。


見えない壁にぶつかり、

大げさによろけ、

帽子を取るような仕草をする。


滑稽だった。

場違いだった。


でも。

誰も笑えなかった。


その身体には、

びっしりとダイナマイトが巻かれていたからだ。


一本でも引火すれば、

ここにいる全員ただでは済まない。


黒闇の部下たちが息を呑む。


「イカれてる……」


「撃つな!!」


誰かが叫んだ。

そのときだった。


女子供の列の中から、

一人の少女が前に出た。


華。

母親が慌てる。


「華!!」


止めようとする。

だが華は止まらなかった。


じっと。

ピエロを見つめる。


そして。

小さく呟いた。


「……ピエロさん?」


空気が止まる。


不知火たちも、

黒闇の部下たちも、

一瞬だけ息を忘れた。


ピエロの動きが止まる。


ゆっくり。

小さく頷いた。

華が一歩前へ。


「なんでここにいるの?」


ピエロは紙を取り出した。

震える手で書く。


【助けにきた】


華が首を傾げる。


「どうして?」


ピエロの手が止まる。

書けない。


娘だから。

なんて。

書けるわけがなかった。


そのとき。

黒闇が前へ出た。


「そのガキはここを望んでる」


不知火が睨む。


「は?」


女子供の中から、

華の母親が前へ出る。


不知火の目が見開く。


「あなたは……」


以前、

黒闇の拠点にいた女だった。


怯えたような顔。


でも。

今日は少し違った。


「この人たちは悪くありません」


不知火が固まる。


「何……?」


黒闇が腕を組む。


「お前」


低い声。


「こいつら、どこから連れてきたと思ってる?」


「女子供を拉致してるんじゃないのか」


黒闇は鼻で笑った。


「拉致?」


一歩前へ。


「どこに返す?」


「酒飲んで嫁殴る父親の家か?」


不知火が黙る。

黒闇は続けた。


「子供の前で母親蹴る家か?」


「泣いても誰も助けねぇ家か?」


「それとも」


「見て見ぬふりする近所か?」


言葉が刺さる。

不知火の表情が揺れた。

華の母親が小さく言った。


「この人が助けてくれたんです」


「夫から……」


言葉が震える。


「ずっと、暴力を受けてました」


華が母親の服を握る。

不知火は言葉を失った。


黒闇が静かに言う。


「俺は攫ってるんじゃねぇ」


「救ってるんだ」


沈黙。


不知火の正義が、

少し揺らいだ。


だが。


「なら」


不知火が顔を上げる。


「男たちはなんだ」


「奴隷みたいに働かせてるだろ」


黒闇の目が冷える。


「信用できるか?」


「……なに?」


「DVするクズ共を野放しにするか?」


「何するか分からねぇ男を自由にするか?」


「管理するしかねぇだろ」


不知火が言い返そうとする。


でも。

完全には否定できなかった。


その空気の中。

華がピエロを見た。


「……ピエロさん」


不安そうな声。

ピエロはポケットを探る。


風船。

細長い一本。


慣れた手つきだった。

くるくる。

ねじる。

あっという間に完成。


犬。

華の目が少しだけ丸くなる。

受け取る。


「……ありがとう」


笑顔ではない。

でも。


ほんの少しだけ、

口元が緩んだ気がした。


ピエロは動かなかった。

声は出さない。


ただ。

見ていた。

そのときだった。


パンッ!!


乾いた銃声。

全員が凍る。


黒闇の身体が揺れた。

腹。

血が滲む。


「……っ!」


膝が落ちる。


「黒闇さん!!」


部下の悲鳴。

振り向く。


そこにいた。

奴隷として使われていた男たち。


一人が銃を握っていた。

目は怒りで血走っている。


「ふざけんな……!!」


震える声。


「お前が正義ぶってんじゃねぇ!!」


黒闇が苦しそうに顔を上げる。

男が叫ぶ。


「俺たちの家族を返せ!!」


「嫁や子供はおれと暮らしたいんだ!!」


「お前の勝手な正義で閉じ込めやがって!!」


「働かせやがって!!」


「守ってるだぁ!?」


「笑わせんな!!」


黒闇の部下たちが銃を向ける。

華が悲鳴を上げる。


「きゃあっ!!」


華の母親が抱きしめる。

不知火が動く。


的場が銃を構える。

盗丸が身を低くする。


ピエロが反射的に華の前へ出た。

黒闇が血を吐きながら笑った。


「……そうかよ」


朝のホームセンター。

誰の正義が正しいのか。


もう、

誰にも分からなかった。

消滅ワード


1日目 “法律 ”

2日目 “ 電気”

3日目 “ 罪悪感”

4日目 “ 鍵”

5日目 “ 痛覚”

6日目 “ 肉”

7日目 “ 地図”

8日目 “ 鏡”

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