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1 話 減らそうか

昼、15時。


屋上のフェンスに手をかけたまま、下を見ていた。

街は、いつも通りだった。


車が走って、信号が変わって、コンビニの明かりが点いている。


何も変わらない。

何も変わらないまま、終わるはずだった。


あと一歩で。

それで全部、終わる。


「……」


ポケットの中で、スマホが震えた。

取り出さない。

どうでもいい。

全部。


どうでもいいはずだった。

そのはずなのに。


違和感。

風が、止んだ。


いや、違う。

“音が減った”


遠くの車の音が、途中で切れている。

人の話し声が、繋がらない。

世界が、少しだけズレた。


見上げる。

空が、黒く染まっていく。


雲じゃない。

夜でもない。

青が、剥がれている。

その下から、別の“何か”が出てくる。


スクリーン。

そう思った瞬間、それが違うと分かる。

あれは、映しているんじゃない。

“見せている”。


「……なんだよ」


同じ言葉が、あちこちから聞こえた。

一人じゃない。

全員が同じものを見ている。


スマホを取り出す。

画面が勝手に切り替わる。


【空がおかしい】

【これ見えてる?】

【世界同時】

【終わり?】


トレンドが、意味を持たない速度で更新されていく。

ニュースアプリが立ち上がる。


『速報です。現在、世界各地で同様の現象が確認され——』


キャスターの声が、微妙に遅れる。

スタジオの後ろで、誰かが立ち上がっている。


指示が飛んでいる。

画面が乱れる。

空の映像に切り替わる。


どの国も、同じだった。

黒い空。


その中央に、“それ”はいた。

輪郭が曖昧だ。


人の形に見えたと思った瞬間、崩れる。

顔がある気がするのに、どこにもない。

なのに、“視線”だけは分かる。


『やあ』


声が、直接頭に入る。

耳を通らない。

逃げ場がない。


『こんばんは』


意味は分かる。

でも、その言葉に乗っている“感情”が分からない。


『神だよ』


どこかで、誰かが笑った。

すぐに止まった。

笑っていいものじゃないと、全員が理解したからだ。


『最近さ』


その“神”は、少しだけ傾いた。

そう“見えた”。


『多すぎると思わない?』


何が、とは言わない。

けれど、分かる。


『物も』


『ルールも』


『感情も』


『……全部』


言葉のあとに、沈黙が落ちる。

その沈黙が、長い。

長すぎる。

時間の感覚が、歪む。


誰も動かない。

動けない。


『だから』


『減らそうと思うんだ』


軽い。

あまりにも軽い。

それが、一番怖い。


『シンプルな方が』


『きっと』


『幸せだよ』


“幸せ”という言葉だけが、浮いている。

意味が、合っていない。


『やろうか』


『減らそうか』


『実感してもらおうか』


視界の端に、光が走る。

何もない空間に、ウィンドウが浮かび上がる。


近い。

逃げられない距離。


【神様サバイバル】


・残り日数:30

・消失対象:未定

・防衛キーワード:未設定


理解できる。

触れていないのに、“操作できる”と分かる。

気持ちが悪い。


『30日間』


『毎日0時ひとつ』


『世界から“ なにか”を消す』


背後で、叫び声が上がる。

どこかで、車がぶつかる音。


まだ何も消えていないのに、

世界はもう壊れ始めている。


『一人につき一つ』


『防衛キーワードを設定できる』


『それはね』


『自分だけを守る』


一拍。


『他は守られない』


言われていないのに、理解させられる。

喉が渇く。

フェンスを握る手に、汗が滲む。


『30日間、生き残ったら』


ほんの少しだけ、間があった。


『報酬をあげるよ』


その一言だけが、妙に重い。

頭に残る。

離れない。


『じゃあ』


『最後の晩餐』


『楽しんでね』


唐突に、終わる。

黒が剥がれる。

空が戻る。

音が、一気に戻る。


クラクション。

叫び声。

スマホの通知。


全部が重なる。

現実が、押し寄せる。


「……現実、か」


トレンドはさらに加速している。


【神様サバイバル】

【報酬って何】

【防衛キーワード】

【やばい】


ニュースが混乱している。


『政府は現在、事態の把握に——』


誰も、把握できていない。


「……報酬」


口に出していた。

どうでもよかったはずなのに。


全部。

終わるつもりだったのに。


「……30日」


ウィンドウに表示された数字を見る。


30。

期限。

終わりまでの時間。


「……どうせ」


死ぬつもりだった。

だったら。


「……最後まで、見てやるか」


フェンスから手を離す。

足を戻す。


その瞬間。

ウィンドウが、再び黒く染まる。


『あ、そうだ』


同じ声。

同じ軽さ。


『一日目』


世界が、息を止める。


『消すのは』


一瞬の静寂。


『“ 法律”ね』


理解した瞬間。

遠くで、ガラスが割れる音がした。


誰かが叫ぶ。

誰かが笑う。

誰かが、殴る。


「……最悪だ」


呟いたときには、

もう始まっていた。

【神様サバイバル ルール】


・期間は30日間。


・毎日0時、世界から1つのものが消失する。

(消えたものは元に戻らない)


・消失は全世界共通で発生する。


・各参加者は1つだけ「防衛キーワード」を設定できる。


・防衛キーワードは、消失の影響を“自分に限り”無効化する。

(他者には影響しない)


・防衛キーワードは変更不可。


・30日間生存した者には報酬が与えられる。

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― 新着の感想 ―
新連載おめでとうございます! くれげと違って不穏な雰囲気! どんなサバイバルが始まるのか楽しみです。
新連載! 早速読みに来ました! 面白い設定で一気に引き込まれますね…… 最初に消えるのが法律……それはヤバい。 誰も信じられない。 これは続きが気になります! 防衛キーワード……何にしたらいいのか…
連載スタートおめでとうございます。 第一話から「続き読みたい!!」と感じる面白そうな設定です。 ブクマさせていただきますので、続きを楽しみにしてます。
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