焦熱の牙を持つ者たち
「試合開始――!」
リカルド先生の声と同時に、紅と黒の間に火花が散った。
「燃え尽きろ!」
ユリウスが一歩踏み出した瞬間、足元から炎が噴き上がった。赤熱した剣先が稲妻のように突き出される。
「ルカ、下がれ!」
ブランが飛び込み、大剣で炎のレイピアを受け止めた。金属音と共に火花が弾け、観客席がざわつく。
「ほう……防いだか」
ユリウスの瞳が愉快そうに細められる。
「ブラン!」
僕は慌てて叫ぶが、背後から別の声が響いた。
「視線が甘いな、虚無の坊や」
フランが槍を滑らせるように突き込んでくる。
「うわっ!」
咄嗟に剣を上げた。けれど、体勢は崩れる。
《集中しろ、相棒。あの二人は手加減しねぇ》
「できるかぁぁぁぁ!」
僕は必死に踏みとどまったが、足がすべりそうになる。
◇
「ストーンシールド!」
マルコが土壁を張り、僕とフランの間に割り込ませる。
だが、炎の槍に貫かれて一瞬で崩れ落ちた。
「なっ……!?」
「土か。火に弱いのは当然だな」フランが鼻で笑う。
「くそっ、舐めやがって!」マルコが額に汗を浮かべる。
「小物は小物らしく地面に這いつくばってろ」
フランの一撃一撃は冷酷で、槍の突きは蛇のように鋭い。
◇
「お前らが蒼に勝った? 滑稽だな」
ユリウスが踏み込み、炎の突進が迫る。
「うわああっ!」僕は慌てて剣を振るう。
すると黒い霞が弾け、炎の軌道が一瞬だけ途切れた。
「おや……今のは?」ユリウスが眉を上げる。
「“虚無”か。なるほど、だから奇跡を起こせたわけだ」
《よし、その調子だ! 相手の魔法を“掴んで”消せ!》
「わ、分かってるけど! 怖いんだよ!」
(炎に突っ込むとか死ぬって!)
「なら死ね!」ユリウスが再び突きを繰り出す。
炎の線が迫る。喉が焼けるほど熱い。
「ルカッ!」ブランが横から火球を放ち、ユリウスの注意を逸らす。
「行け!」
「い、いけって言われてもぉぉぉ!」
僕は必死に剣を突き出した。
黒い点が軌道を裂き、炎の突きが霧散する。
観客席がざわめいた。
「今の……消した?」
「やっぱり虚無は反則じゃ……」
◇
「なるほど、魔法を消すか」ユリウスが不敵に笑った。
「だが、俺たちの技は魔法だけじゃない」
「そういうことだ」フランが割って入る。
槍を大きく振るい、炎の弧を描いてブランとマルコを押し込む。
「ぐっ……重い!」ブランの大剣が押し返される。
「マルコ、サポート!」
「やってるってば!」
土槍が放たれるが、フランに軽く弾かれる。
「その程度か。お前たちは俺たちの足元にも及ばない」
「ふざけんな! 俺たちだって――!」ブランが吠えた。
「だめだ……」僕の喉から声が漏れる。
「僕らじゃ、勝てない……」
《黙れ! ビビる暇があるなら剣を握れ!》
「ひぃぃっ!? わ、分かったから脅さないで!」
心臓が張り裂けそうなまま、僕は剣を構え直した。
◇
再び、紅の二人が同時に踏み込んでくる。
炎槍と炎剣、二つの殺意が交差する。
「ルカ、今だ!」ブランが叫ぶ。
「一瞬でいい! お前の“虚無”で――!」
「わ、分かってる! やる! やるからぁぁぁ!」
僕は震える手で剣を突き出した。
黒い裂け目が走り、二人の攻撃が一瞬だけ止まる。
その刹那――ブランとマルコが横から同時に叩き込んだ。
炎と土の衝撃波が爆ぜ、闘技場が揺れる。
「……っ、今のは……」ユリウスが眉をひそめる。
「へぇ。ちょっとは面白いじゃねぇか」フランが口の端を吊り上げた。
◇
観客席から歓声と嘲笑が入り混じる。
「黒が……押した!?」
「いや、偶然だ!」
「でも、今のは……!」
僕は息を荒げながら剣を握る。
「はぁ……はぁ……無理だって……これ以上は……」
《まだだ。まだ“喰える”。お前は虚無だろうが》
「ひぃぃぃ! 頼むから優しくしてぇぇ!」
笑い声と歓声の渦中で、紅と黒の戦いはますます熱を帯びていく――。
紅クラスとの戦いがついに始まりました。
ユリウスとフラン――その圧倒的な実力に、ルカたちは翻弄されっぱなし。
ですが、ネメシスの煽りと仲間の必死のサポートが、ルカを一歩ずつ前に進ませます。
次回は、彼らの戦いがどんな結末を迎えるのか。ぜひ見届けてください!




