365.愛する人々との別れ
リック社長は異常な程高い魔力の所為で、老いる事も病にかかる事もなく、時は流れ、変わらぬ持ち味の特撮作品を生み出し続けた。
英雄ブライは2人の息子と2人の娘を設け、世界各地で未知の部族社会を8件発見し、緩やかな交流を行った。
諸国条約会議から「新規接触部族交渉役」として子爵位を賜った。
妻、ワタシノラバ夫人の部族からキリエリアに留学が行われ、衛生や教育、部族の文化歴史の記録が行われた。
更に部族の上位に立つ王との交渉が持たれるまでになった。
これを妨害し未開人を征服せんとする一派もいたが、リックたちが密かに殲滅した。
そのため交流は穏やかに進める事が出来たのだが。
「父上…」
「ん~何の事かな~」
「まだ何も言ってません!」
ブライ子爵はそう言いつつ心の中で感謝した。
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キャピー嬢。人形特撮以外にも各国の伝承をテレビで人形映画化した。
しかしそれは、各国の歴史、民俗、衣装、食事、習慣などを記録し、現地の有識者の監修を受けて製作された、芸術的、学術的にも価値ある作品となった。
完成した作品は各国では宝物扱いされ、主役の人形は家々の守り神の様に売れ、貴ばれた。
そして、諸国条約で各国間の調停役を務める貴族と共に文化理解の仕事を協力する様になり、その若き官僚から見染められ、結婚した。
次女ブロム嬢も歌に絵に才能を発揮した。
しかし彼女は、何故父が凄いのに王や貴族になっていないのか不思議に思っていた。
そして人魔戦争の歴史の裏を学び、父に母にかなり粘って記録を残した。
ついに両親の反対を押し切って記録を纏め王家へ献上、
「知ってた」
そう直接カンゲース7世から言われて愕然とした。
「君の父上、我が心の叔父さんは、名誉なんか求めてない。
みんなが平和に暮らせるようにして、その後に特撮映画を撮りたかっただけだよ」
穏やかに、まるで労うかの様に国王陛下から言われた彼女は不明を詫びた。
その後1年引きこもった。
両親は心配はしなかった。彼女は自分の何が不明だったのか、両親たちの思いは何だったのかを改めて学び直したのだ。
そして、彼女は特撮を記録する事に舵を切って、再び記録を取り直し始めた。
父が執筆した「ヨーホー映画特撮半世紀記録」を検証し、不自然なまでに父の姿が無い事に唖然とした。
その実像を知ろうにも、父を知っている人はほぼ他界した後だった。
父の同僚の弟子を訪ね、父の業績の片鱗を集めている内に、アイラ夫人が、アイディー夫人がこっそり色々教えてくれた。
「お父さんはね、異世界の特撮映画が大好きなの」
その父の思いは、この世界の映画の発展を歪め、個人の趣味に付き合わせてしまった、そう父リックは思っていた。
それを父は心のどこかで申し訳なく思い続けていたのだ。
まあ、結果は正反対で、みんなも大好きになってしまったのだが。
書き上げた記録を再度国王陛下へ献上すると、
「これは、我が心の叔父は発表に反対するだろうなあ」
と笑顔で答えた。
「公表はしません、でも研究者に求められたら個別に開示する事にします」
「それが良い。ここに記されたリック殿の行いには、その価値が充分にある」
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英雄チームは100を超え生き、トリック特技プロの報酬で不自由なく暮らした。
その子供達も有り余る才能を生かし、各界の要職に就いた。
英雄アックスは魔力切れを起こすまでリック社長を手伝い、予算の目途が立たない場合には、70を超えながらも、自らスプラルジェントとなり怪獣や宇宙人となり、見事な殺陣や怪獣の演技を見せた。
だが、魔力が枯渇すると急激に衰えた。
それでも笑顔は若々しく、話は面白く、「リックには内緒だぞ」と多くの秘話を披露してくれた。
そんな彼も、100を超えついには魔力が尽きた。
ある人突然倒れ、急激に老いた。
そして数日後、「セワーシャー!」と叫んで、命が尽きた。
聖女セワーシャは死した彼を抱きしめた。
リック社長も
「兄貴…兄貴…」
力無く泣き続けた。
あまり彼がアックス氏を頼る事は無かったかに見えたが、彼の心の中では、初対面の彼を仲間として受け入れてくれたアックスは如何に頼もしかったのだろうか。
幾度の危機から国を救った英雄に、国葬が捧げられた。
その後、彼女は諸国巡礼の旅に出た。
「リック、アイラ、アイディー、ごめんね。
本業頑張るわ。
デシアス、ミーヒャーちゃん。
リックたちをよろしくね?」
長女ソラチム嬢とともに諸国の衛生、教育、生活の質を王家に報告し、問題の改善を献策している中で、魔力が枯渇した。
リック社長が急行し王都に引き取り、多くの人々が彼女に感謝を捧げる中で息を引き取った。
長男ハンマ、デシアスの長男ヘルムは上司部下として兄弟の様に母の死の礼拝を護衛した。
ソラチム嬢は母の遺志を継いで諸国を視察し、国土の改善のため尽力した。
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デシアス監督は出番の少なくなった監督業の傍ら、古巣の騎士団を指導した。
過去のものとなった剣術ではなく、銃の射撃、戦車の操作をリック社長とともに絵入りの教本で指導し、その成果は各国随一のレベルにまで高まった。
しかし流石は元剣聖、最前線での経験を生かし、銃弾尽きた後、接近戦になった際の銃剣の戦いも指導した。
かつては映画でも厳しい人だったが、映画の世界はそれではダメだとリック社長に指摘され、柔和に振舞った。
その反動か、騎士団では鬼教官と畏れられたが、演習ではずば抜けた成果を発揮し、新世紀騎士団長と尊敬され、伯爵位に昇爵するに至った。
彼の両親、義両親にとって紛れもなく彼は英雄だった。
子であるヘルム騎士団長も頑張った。
紛争とあれば軍を率い戦車隊や自動車部隊を率い、鉄道連帯と協議し輜重計画を纏め上げ軍を紛争地へと展開した。
ただ、大体の問題をリック社長たちが解決してしまう。
そこで更なる高機動部隊、魔法を併用した電撃戦部隊を立案し「リックエキテス(騎士団)」構想を立ち上げ、その初代指揮官に任ぜられた。
「その名前無し!」「ダメです!」盟友アックス氏の長男、ハンマ団長がリック社長の反対を却下した。
マーニャ嬢はブロム嬢とともに、何故自分達があれほど楽しい日々を過ごせたのか、トリック特技プロとは何だったのかを究明しようとブロム嬢の調査を手伝った。
ミーヒャー夫人は英雄チームに比べ魔力が低く、彼らより一足先に世を去った。堅物と知られたデシアス監督もその老いていく妻に、常に付き添った。
彼女が最後に人前に姿を現したのは、クラン祭りだった。
彼女も夫人たちも、ヨーホー映画を離れてなおクラン祭りの実行委員に参加し「いつも楽しいヨーホー映画」を実感させるお祭りの演出に労を惜しまなかった。
これも、トリック特技プロの業界内での地位を高める一助となったのだ。
ゴドランを演じるアックス氏、宇宙服を纏うデシアス監督に先導され、車椅子でマーニャ嬢に場内を案内される彼女。
しかし若いころ彼女が慕ったスターたちは。
マイちゃん、マイト・スォード氏も、騎士団長、ダン・ウェラー氏も、もうポスターの向うの人だ。
「死んだらまたあの方たちに会えるかしら?お会いしたいなあ」
クランの住民も、ヨーホー映画ファンも、彼女の事は知っていた。
伯爵令嬢だというのに、お祭りを率先して仕切り、場内案内やトラブル対策に駆け回って、子供達の相手までしてくれた彼女を尊敬していた。
多くのスタッフにとっても、仕事の少ない時には他社での手伝いを斡旋してくれた彼女は恩人だ。
若く可愛らしく、大スターに憧れてスっ飛んで行った微笑ましい彼女の老いた姿に、一同は敬意を捧げつつも悲しみを隠せなかった。
「ああ、幸せ。デシアス様の妻になれてよかった」
その数日後、彼女は世を去った。
妻の死と共にデシアスも抜け殻の様になった。
「主、申し訳ない。
我は、主よりも妻の方を重く思っていたようだ」
「それでいいんだよ。それでこそ俺達の仲間だよ。
奥さんが一番なんだ。
俺だってそうだよ」
「ありがたい。主と共に生き、働けてよかった」
それまで壮年の気を纏っていた彼は、息を引き取ると、瞬時に老いた姿になった。
一人、一人、この世を去った。
「寂しいよ。
寂しいよー!
みんな俺を置いていくなよー!!」
「私達だけになっちゃいましたね」
「こどもたちがいるよ~?」
「でも、でもさあ!」
家族同然にいつもいた仲間達が、リック邸に集まる事は、もうない。
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それから三人はよく旅に出た。
少しでも思い出を残したい。楽しい思いをしたい。
ブライ伯爵が交流を結んだ地に行き、
「あ!リック様だ!」
秒でバレた。
「偉いのは俺じゃないよ、息子だよー!」
「ご謙遜を!」
二人の夫人は一歩引いて同列に座さなかった。男尊女卑の強い地だったからだ。
「良く調べてくれたねー」
三人は息子の調査結果を良く調べて、各地の風習に合わせた。
しかし数日の滞在の中で、現地の病気治癒や衛生改善を行ううちに、二人の妻は同列に座す様に求められた。
そしてキリエリアへの留学を望む声が押し寄せられた。
旅は数年続いた。
行く先々で過去の映画を上映しては子供達を夢中にさせ、現地の若者達と一緒にゴドランショー、スプラルジェントショーを行い、どこの場所でも変わる事無い子供達のパワーに圧倒され、ショーの成功をみんなで喜んだ。
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そんな諸国行脚の末、アイラ夫人が衰えを訴え、自宅へ戻った。
子供達も全員集合した。
「私は幸せです。
リックさんがいなければ、あの時死んでいました」
「そんな事無い!
そんなの俺が許さない!
君は幸せになるべきだった、それだけなんだ!」
リックは今までの恩人や仲間と同様、終末治療を始めた。
アイディー夫人、そしてリック社長が常に、子や孫たちは交代で彼女と共に寝る。
ある晩、彼女は孫を抱きしめたまま、老いた姿となって目を覚まさなかった。
「寝てるみたいだよ~。
幸せそうだよ~。
アイラ、アイラあ~!
うわああ~ん!!」
孤独だったアイディーを姉の様に受け入れてくれた、リック社長の二人目の妻として受け入れてくれたアイラの死を、彼女は人目もはばからず泣き、叫んだ。
「ママ!」
「お母さん!」
子供達が泣き止まない彼女を抱きしめた。
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アイディーは人生最後の仕事と覚悟を決め、新時代の電算機と天然色テレビを組み合わせた「誰でも使える電算機」の開発に取り組んだ。
画面に文字や図が表示されるため、民間商社の電算部門だけでなく、一般の従業員でも、学校の子供でも文字を打ち、家庭でも家計簿を簡単に作れる「個人用電算機」だ。
成功すれば多くの情報を図表に変換したり、高性能印刷機に文章や図表、細かい点で表した写真まで紙に残せるよいう情報整理、情報伝達の革命児となるだろう。
その最初の試験に、故セシリア夫人の孫、現ザナク財務卿が財務諸表を打ち込み、過去数年の成長率を産業種別ごとに表示させ、印刷した。
事前に作成された、人手による諸表と、図示化した「グラフ」と比較した。
数日掛けて書いたものと、今数秒で出されたものは同一だった。
歓声が沸き起こり、その中で満面の笑顔のアイディー夫人は倒れた。
リック社長は彼女を自宅で看取った。
「たのしかったね~。
あたし、みんなのお役に立てたね~」
「ああ、君は偉大だ、みんなが君に感謝してるよ。
優しい可愛いい俺のディー!」
「待ってるよ~、リックきゅん、天の国で」
かつて、魔王軍討伐で知り合い、共に戦った仲間が。
その後助けた妻が、みんなこの世を去った。
「うわああああー!!!!」
いつも柔和な父が、祖父が泣きわめく姿に、子達が、孫たちが驚き、そして悲しんだ。
「ディー、さようなら!ありがとう!
俺は幸せだった、アイラ!ディーを迎えてあげてー!
兄貴、セワーシャ、デシアス、ミーヒャーさん。
俺も、俺もそのうち行くから!
先にみんなで、飲んでてくれよ!」
そういいつつも、涙が止まらなかった。
「俺も…そっちに…行くからさあ」




