355.リックの超騎士団作品、始動!
春先。
リック社長の長男、探検家である英雄ブライの新大陸発見、そして異文化人、異人種である娘を連れての帰国で、キリエリア周辺が賑わった後に。
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嘗ての様に大所帯で自社スタッフを抱え、他社に特美を発注して、というスタイルを改めたトリック特技プロは、少ない自社スタッフで時間をかけて企画し撮影するというノンビリした姿勢に改めていた。
10年前であれば、週二作、しかも放送終了と並行して新番組の企画を進める必要があったが、今は相当ノンビリしている。
次の企画もじっくり仲間達で考え、特美を仕込みパイロットフィルムを撮影してからセールスするというスタイル…
「これどう見ても仕事じゃなくて道楽よね?」
「ウチは根が太いからこういう贅沢が許されるんですよ。
ね?社長?」
呆れるセワーシャ夫人にミーヒャー専務がツッコむ。
とは言え、時々他社の、ヨーホー映像やヨーホーテレビ、そのライバルであるショーウェイテレビ、国際テレビなどにも助っ人に呼び出されて日銭も稼いでいる。
「それだって10年前とかヨーホー映画時代に比べれば安いもんじゃない?」
「あのな。その分みんなに仕事を廻して、黙ってたら仕事を失ってたヨーホー映画の仲間達に仕事を廻して、そんで今があるんだよ」
「解ってるわよ!解ってて、言ってんの!」
「何でだ?」
アックス氏のツッコミと、デシアス監督が疑問に思った。
だが、セワーシャ夫人はどこか遠くを見て呟いた。
「あの無茶苦茶な時代も、どうなるかわからなくて、楽しかったなあって、ね」
一同、セワーシャ夫人の言葉に深く頷いた。
そして夫であるアックス氏がセワーシャ夫人の肩を抱いて、言った。
「そりゃな、年…」
「あ”?」
強烈な殺気が空気を切り裂いた。
「…を過ぎるとそう思うもんだよ、忙しさってもんはなあ」
「よし!」
一瞬冷や汗をかいたもののアックス氏は上手く躱した。
デシアス夫婦は下を向いて震え、アイラ夫人は後ろを向いて震えていた。
「ぶひゃひゃひゃ」
遠く二階の工房からアイディー夫人の爆笑が聞える。
「ゴルァ!ディー!!」
「ひー!」
セワーシャ夫人がスっとんで行った。
「また春が来るねえ」
全く他人事の様にリック社長がワインを傾ける。
「今度は何を撮ろうかねえ」
そう言いつつ、半分人型、半分戦車か飛行機の様なゴーレムのイメージスケッチを描きながら、暖かくなった空気を楽しんでいた。
「ウギャー!」「うりうりうり!」
遠くから美女たちの戯れる声が聞こえる。
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リック監督には一つの不満があった。
「超騎士団」シリーズだ。
いや、ショーウェイの変身英雄シリーズに対して、だ。
これら作品は、確かに楽しい。
子供が夢中になる。
しかし、幼児教育から初等教育に移る段階、10歳程度で徐々に卒業してしまうものなのだ。
何よりショーウェイは歴史活劇の本流。
ワンパターンの美学、毎度おなじみの流れを守る、大見得を切る、大殺陣で魅了する。
超騎士団シリーズはそこに無理やり怪物の巨大化と巨大戦艦の登場、巨大ゴーレムの戦いを挿入している。
しかも特撮と言えるのは毎回使う巨大戦艦発進、ゴーレム登場、オプチカル合成を駆使した必殺技、つまり第一回目と全く同じライブラリフィルムのみ。
「面白いんだけどなあ。
物語は面白い。
宇宙とか地球とか、敵味方の確執とか、途中の凄く深い人情劇とか、流石はショーウェイなんだけどねー。
特撮かって言われると最初の3話以外、特撮ないんだよねー」
「それがショーウェイなんだから、それでいいんじゃない?」
「いやね、英雄のアクションとか音楽とか物語展開とかムチャクチャカッコイイんだよ?!
それ、特撮ありで、もっと現実寄りで出来ないかな~って、思わない?」
「…もう考えてるんでしょ?」
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早速、新作会議が開かれた。
「ウチは特撮セットの中では殺陣はヨーホーにも負けない。
だけど本編で、あのショーウェイの流れる様な殺陣とカメラワークの連携はとても敵わない!
それに本編の、難しい説明を徹底的に排除してポンポンポンポン話が進むあのテンポ!
それに加えてユニヴァ・ポン先生の軽快な音楽!
一度それに挑んでみたいって思うんだ」
「えー?社長は、ペルソネクエスみたいなのやりたいんですか?」
若い企画部員が恐る恐る訪ねた。
先に右から左の伝書鳩みたいな企画部チーフがキリエリア2局消滅事件で追い出されたのを若手スタッフたちは余程恐れていた。
「いや、やっぱりウチは巨大なナンカが出てガチガチドカンドカンやるのが売りだと思う。
なので、10歳過ぎても卒業させない超騎士団ってのを一度試してみたいんだ」
リック社長はヤル気だった。
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この企画は半年26回で1億8千万デナリ、近年更に物価が上がって来た状況では低予算に片足を突っ込んだ小規模の作品だ。
「『スプラ・イントレピド』と超騎士団シリーズの中間線みたいな企画ですねえ」
「もっと等身大アクション寄りだよ」
物語は電算機が家庭でも使われ、ラジオやテレビすら無線通信で電算機を通して利用される未来。
その一方で今と変わっている様で変っていない社会。
そこに突如世界各国の王都が巨大ゴーレムと潜水艇から発進する噴射式戦闘機隊が出現!
各国の軍がそれらを撃退するが、事前に察知できなかったため膨大な死者と損害を出した。
世界条約軍はこの襲撃を調査し反撃する特殊部隊を編成する。
その選定に世界最優秀の電算機が駆使されたが、隊長に選んだのは未開国家の救済や開発支援を行う学者だった。
彼を鍛える為一流の軍人が指導するが、軍人の読む敵の侵入路を主人公は否定する。
「恐らく敵は社会に恨みを持つものです。
先進国の知らない販路で部品を集め、下水の底で、スラムの中で巨大ゴーレムを作り上げ、復讐を果たそうとしています!」
彼の読みは当たり、膨大な死を生み出す巨大ゴーレム工場を事前に5人の装甲兵が急襲し、叩き潰す。
登場した巨大ゴーレムも、巨大輸送機が戦車状の巨大ゴーレムを送り出し、これが半分起き上がる形で敵を粉砕する。
仲間達は空戦のエース、海戦の勇者、上陸戦の怪物、情報戦の魔女と言われる曲者揃い。
そんな中で戦いを知らない主人公は敵に利益を齎す現地人の苦悩や恨みを知り、敵の狙いを的確に予測する。
しかし、そんな現地人を敵とみなし銃殺せんとする友軍の前に主人公が立ちはだかった。
その背後から貧民の少年が撃った凶弾、これをかばった教官が殉死する。
戦場において甘さ故恩人を失った主人公が愕然とする。
教官は
「お前が信じる道を行け、それが世界を救う…」
と言い残し、絶命する。
彼は同僚の誹謗と、同時にそれと相反する様な期待を受けつつ敵を粉砕する。
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「これは、シビアねえ」
「主らしいが、子供には辛いかも知れない。
でも、俺はこれで行くべきだと思う、これを撮りたい!」
「でもさ、こん位過去の作品にもあっただろ?」
アックス氏が言う通り、超騎士団シリーズでも殉職話は時々出た。
大抵、役者が都合で降板、交代する理由付けなのだが。
だが、アイディー夫人が震えながら言った。
「デシアスは流石だね。
リックきゅんが書くとね、ホントに目の前で人が死んだニオイがするんだよ。
だから、結構辛いかもね」
この後物語は、敵の超騎士団が登場する。
主人公達は役割に応じた色を纏った装甲服を着る。
敵は黒を基調とし、差し色に金、銀、銅、青銅といった派手な色だ。
「これは…メカニコスのデストロスか?」
「はは!バレた?」
戦闘用自動二輪を駆使して緒戦を飾る設定だ。
この敵のデストロ騎士団も、殺戮と戦乱を愛してやまない狂気の武人を頂点に。
敗北し蹂躙された亡国の騎士。
虐殺された被差別民族の生存者。
殺人兵器の危険性を訴えていた筈なのに危険人物扱いされ復讐を誓った学士。
それぞれに癖が強すぎる。
「物語としては面白いが…」
「子供が悪夢を見そうだ」
「悪夢を見ないため、こうならないでね、って話にするつもりだよ?」
「「「違うと思う!!!」」」
「えー?!」
あーだこーだ言いつつ、この未来の水面下の、わずか5人の装甲騎士団による戦争物語4回分が1億デナリを掛けて撮影された。
初回の各王都襲撃、各国軍との攻防。
集結する5人の装甲騎士、頼りないが正鵠を射て敵の侵略ルートを指摘する主人公。
そして出現する敵巨大ゴーレム、そして巨大空母と変形戦車、変形飛行機、それらが合体して登場する主人公側のゴーレム!
夜間のミニチュアを破壊しつつ戦う両者と、それを支援する王国軍の戦闘機!
ショーウェイの変身英雄では主人公と敵の一騎打ちとなり、軍や警察という第三軸はあまり登場しない。
しかしトリック特技プロ作品らしく主人公の背後にある防衛組織、軍が主人公の巨大ゴーレムを牽制し、主役ゴーレムが止めを刺す!
夜の大都会の中心で爆散する敵巨大ゴーレム!
続く二回目で主人公の戦士、軍人としての適性に疑問が持たれるが引き続き敵の狙いを正確に的中させる。
三回目で仲間の筈の他の騎士から間諜の疑いがかけられ、逮捕される。
電算機の導き出した結論に異議を挟む主人公がいない。
出撃したチームは敗北し、敵は王都発電所を破壊。
王都では病院で患者が多数死亡、食品の流通が留まり高騰を呼び治安が崩壊する。
四回目で教官が主人公の本音を聞く。
主人公は敵が高度に成長した社会に恨みを抱き、破壊を企む愉快犯だと告発する。
そして敵に装甲騎士が出現、味方4騎士を圧倒する。教官が主人公を解放し、鮮烈に加えるが敵は貧民の子供達を盾に軍に殺戮を強いる。
主人公は撤退を主張するが誰も聞かず、貧民の子供達が次々射殺される。
彼らを守ろうと立ちはだかった主人公を後ろから撃つ少女、主人公をかばい教官は致命傷を負い、少女を射殺する。
主人公は冷静を装いつつも、単独で極大魔法兵器を使用し敵のゴーレムも輸送戦艦も無視し、主要拠点を消滅させる。
「この戦いを終わらすのは簡単だ。
敵は皆殺し。
敵の拠点を捜索して疑わしい場所は虱潰しに極大魔法兵器で潰す。
お前達はそれでいいだろう。
だが、そんな戦い方では、戦争の憎しみと愉しみを世界にまき散らすんだ。
俺は、この、世界を焼き尽くして、それでやっと終える戦いに進むべきか?
それともお前達が撃ち殺されるのを眺めながら敵を宥める負け戦を続けるべきか?
コイツと同じ様にな?」
主人公は薄気味悪い笑いを浮かべ、教官の亡骸を踏みつけながら仲間達に迫った。
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「流石に最後は変えましょう。
それ以外は…」
「それは出来ません。
主人公を戦いに引き込んだ教官の死体を踏みつぶさなければ主人公は敵を殺せません。
敵を殺す様に追い込んだのが、彼をなじった世界の軍と4戦士と、教官です」
「そんなもの子供に見せたくないよ!」
思わずトレート氏が叫んだ。
天を仰いだリック社長が、顔を覆って、吐き出す様に応えた。
「俺もそう思います。
4回目は一部を撮り直しましょう。
主人公は、貧困に苦しみ世界を破壊せんとする愚かな人々に対し、それでも優しさを捨てられない、そんな人のままにしましょう。
その代わりに、教官が彼の優しさを守る形で殉職する形にしましょう」
「その方がいい、僕はそう思います!」
熱気を込めた目で見つめられ、リック社長は
(この人と一緒に仕事が出来で良かったなあ)
と思った。
こうしてショーウェイにしては結構な予算を掛けた超騎士団の傍流作品「エクィテフェリー(鋼鉄騎士団)」がスタートしたのだ。




