340.映画「スプラ9戦士・惑星を救え」
トリック特技プロにとって再編集映画を除けば「エクソダス」以来二作目の「スプラ9戦士・惑星を救え」の製作が開始された。
しかし完成台本は仕上がっていない。
国際テレビの若手俳優とジャイエン系の大御所を招いてのキャスティングも製作発表を前に決まったばかりだ。
その他諸々、調整が必要だったのだが。
「じゃあキタハーさんやコージーさんは俺が挨拶…」
「社長はどっか行っててくださーい!」
「妻よ…」
リック社長は追い出されてしまった。
「ここはミーちゃんの言う事を聞きましょうね」
「温泉いこ~よね、リックきゅ~ん!」
「パパとお出かけ、行きたーい!」
「はっはっは、しょうがないなあ、じゃあ専務連絡はこまめにね」
「しません」
「えー?!」
リック社長は「スプラ9戦士」の検討中にトリック特技プロを、自宅を追い出されてしまったのだ。
「なんでー?!」
「新作のパイロットフィルムと『スプラレグリナス』の編集でどんだけ無理してると思ってんですか!」
例によって「スプラレグリナス」も70mmワイドのネガから6チャンネル音声への編集で相当無茶をして、無敵且つ最強の英雄リックをしても目の下に隈を作っていた。
無論、「スプラレグリナス」の俳優たちと映画化を巡るギャラの交渉も彼が直接行い、良い条件で承諾して貰ったのだ。
「ご両親、国王陛下のお墓参りのついでに温泉で休む事!」
ミーヒャー夫人が三つの花束を渡した。
「そうだぞ!」
「これは…妻の言う通りだな」
「デシアスいい奥さんもったよねー!」
「そうだー!」
「あら?」
「お!俺と一緒でなー!」
「よし!」
リック一家は苦笑して旅路に出るしかなかった。
ゴルゴードに、そして各地の温泉、そして王家の墓地へと向かったリック一家は1週間、ノンビリした。
しかし温泉旅館に楽器やチェンバロがあれば、ついつい異世界の旋律、ゴドランやスプラルジェントで使われなかった音楽を演奏してしまう。
「あ!怪獣の神様だー!」
目敏い子供が食い付く。忽ち子供達が集まる。
子供達に囲まれたリック社長は、
「こういうこともあろうかと!」
取り出した厚紙に即興でゴドランやスプラルジェントをチャチャーっと描いて子供達に配った。
「そこまでしなくていいのにも~!」
「でも、楽しそう!」
「パパ、シャチク?」
「あれは好きでやってるの」
「そだよ~」
興奮冷めやらぬ子供達を前に、スプラルジェントのスーツで握手しようと旅館に許可を求めるが
「絶対許すなと御社の専務様から言われておりまして」
「断られちゃったー」
先を読まれていた。
仕方ないのでゴドランやスプラルジェントの主題曲や主題歌を演奏して、子供達も声を合わせて歌って…
「そろそろ食事の時間です」
解散させられた。
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船でゴルゴードに向かうと、何故かあちらの海軍が敬礼して迎えてくれた。
そして演奏されるゴドランの主題と「怪獣大侵略」のアレグロ。
「なんで?」
「英雄リック様は、ゴルゴード海軍の誇りを取り戻して下さった恩人です!」
士官、いや海将級の礼装を着た軍人が最敬礼を捧げてくれた。
「特撮映画も撮り続けてみるもんだねえ」
「これからも楽しみにしています!孫がファンです!」
「こりゃがんばんなきゃ!」
一家で深くお辞儀を返すと、墓地まで迎えの車が用意されていた。
みすぼらしかった墓地も整備され、冷淡だったモノホーリ派の小さな神殿も総本山から神官が派遣され、結構な規模に建て直されている。
「今こんなに出来るんなら、せめて父さんや母さんの葬式くらい手伝ってほしかったよ」
「お気持ちはわかります」
「昔はモノホーリーがイキがってたしねえ~」
「パパががんばったからだよ、そうじゃなかったら、消えてたお墓も沢山あるかも知れないよ?」
「はは。ブロムちゃんは賢いねえ」
リック社長とブロムちゃんが、墓石だけは昔と変わらない故人に花を捧げた。
二人の夫人も、会う事がなかった義理の両親に祈りを捧げた。
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更に温泉でノンビリ、子供達に囲まれ即興で絵を描く歌を演奏する、パイロットフィルムを上映するなどサービスしつつ
「休養になって…いない様な、いる様な。ふふ!不思議ですね」
「子供達に元気を貰っているんだよ。にわかスター気分だね!」
「リックきゅんはね~。も~、子供達には大スタ~、なんだよ?」
「パパはスターよねー!」
夜には思いつくまま映画用の隊員服やミニチュア設計図を描いたりした。
なんとなく忙しくも楽しい旅をノンビリ過ごした。
最後に王都手前。
もう一人の父親と名乗って下さった前国王陛下に花を捧げ、
「俺はこれからも好きに生きます!」
と報告した。
その夜。
リックは両親とアイラ、アイディー両夫人、子供達と共に王宮へ招かれた。
そこには亡き国王陛下、ザナク公爵夫妻がいた。
彼はみんなを映画博物館を案内して、自分の夢を語った。
みんな笑顔だった。
しかし、いつの間にか両親も、前国王陛下もいなくなっていた。
目が覚めた。
それが夢だと知ると、泣いた。
悲しくはなく、嬉しくて泣いた。
(俺はこれからも好きに生きます!)
改めて彼は夢の中に消えた両親と前国王陛下に誓った。
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「お土産とイメージデザインだよー」
各地の菓子、酒、そしてデザイン画山盛り。
「休みになってないじゃないですかー!」
「だって好きなんだモーン!」
「パパ大人気だったんだよ!」
「ええ、ええ、アチコチで絵入りサイン会したり主題歌合唱したり上映会したり!
宿泊先からウチへ金払わなきゃいけないかって問い合わせがワンサカ来ましたよー!」
「パパ、悪い事したかなー?」
「違うよー、俺たちこれで食ってんだよ?」
「ハア。ちょっとは休んでほしかったのにー」
ムリヤリでも休みを取らせて、リック社長に元気になって欲しかったミーヒャー専務はガッカリだった。
「まあまあ、妻よ。
今主は疲れた様に見えるか?」
「なんかまた新しい事考えてそうに見えますよ」
「それが主だ」
「倒れませんかね?」
「旅立つ前より意気揚々に見えるが?」
「色々挨拶済ませたんでしょ?」
「会えたんだろ?父さん、母さんに」
「みんな、ありが…ありがとう!」
リック社長は、仲間達に頭を下げた。二人の夫人も深く下げた。
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結局製作費は1億デナリ、昔ならヨーホー特撮映画1本並みだ。
そもそも配給の劇場からの出資は期待できない。
その上今の配給網では70mmなど夢のまた夢だ。
「パイロット版、70mmで撮ってたりしないでしょうねえ?」
「流石にそれはないよ」
それでも製作費は自社持ち出しとなる。
収益は客の入り次第だ。
正式に撮影が開始された。
クライマックスが撮影済なのも昔のヨーホー特撮っぽい。
勝手知ったる大怪獣都市破壊が夜に、昼に行われる。
本編も若い王立学院のルーキーを、旧ジャイエンの大御所が良く面倒見てくれて、良い演技を引き出してくれている。
そこで思わぬ事件が起きた。
製作発表を聞いて、かつてスプラルジェントを演じた俳優達が集まり、特別出演を申し出てくれた。
「実はマッツォさんから言われまして」
「ナイショだって言われたんですが」
「みんなが集まるなら何度でも来ますよ!」
中には結構売れっ子となってギャラが高い俳優もいたが、来てくれた。
これはリック社長も驚いた。
二度目の一時休止となった「スプラグラディエ」では、変身前のスプラルジェント、各作品の主人公を演じた俳優達はそれぞれ別撮りだった。
それ以降の「スプラ・ファブラ」「スプラテリトス」での変身前の主人公達が全員集まる事はなかった。
それが今、一同に会してくれようとしている。
「ありがとうございます!
でも、ちゃんとギャラは払います、特別出演は勘弁願います!
もし数年後ウチが左前になったらその時は助けて下さい!」
「「「わはははは!!!」」」
「よっしゃ、やるぞ!デッカイ祭りだ!」
「ひー!イケメン俳優様がいっぱいー!」
「ははは!専務さんも相変わらずお綺麗でなによりです!」
「はひー!うれしー!」
「妻よ…」
この、かつて子供達を、今や青年となって貴族から平民に至るまで世の中を動かしている人々の憧れの英雄が集まった事も世間を騒がせ、テレビで雑誌で報道された。
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しかし自社スタジオは国際テレビの巨大変身英雄「アルジェント・ヒーロー」が撮影中。
自社スタジオが使えないとあって、リック社長は何と自ら自宅で未来兵器が格納庫から滑走路に出るシーンを撮影した。
なおウキウキで工房を小スタジオに改造していた模様。
また、怪獣に破壊される未来風建築も自分でチャチャっと作った。
夜景用に内部が光り、更に各部に爆薬が仕込まれたり閃光を放つ電球が仕込まれたり、色々内部から仕込める破壊用モデルだ。
無論、侵略軍団の手先となる過去の人気怪獣のヌイグルミも修理した。
そして自作した数々のミニチュアを乗せ、第二スタジオに列車で向かう。
クランの住民や子供達が手を振る。
怪獣たちのヌイグルミは外から見える様にした貨車から解る様になっている。
夜に昼に、怪獣列車は往復して子供達の、いやそれ以上にリック社長本人の夢を運んだ。
そして自社作品では初めてとなる宣伝行脚も行った。
過去作の主人公達には正規の出演料を支払い、代わりに都合がつく限り、過去作の防衛隊委員服で各地の宣伝に向かって貰ったのだ。
各地の二番館や、その地で劇場主と仲の良い商店街がイベントを歓迎してくれた。
そして多くの家族連れが集まったそれらイベントには、見慣れた若者たちの顔があった。
テレビや雑誌媒体主導だった、「スプラテリトス」「ゴドランの復活」とは違う、下からの宣伝による話題の盛り上げが行われつつあった。




