335.ゴドラン、堂々の復活!
「ゴドランの復活」、試写の反応は上々だった。
絵の綺麗さや、話の畳みかける様な早い展開も概ね好評だった。
その出来はテレビでも紹介された。
ゴドラン映画としては久々のロードショー興業まで組まれた。
予約はたちまち完売し、ロードショー期間の延長となった。
新聞も追随するかの様に賑わいを伝えた。
そして、ロードショー初日。
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既に年末も近かったのだが、寒空の中の公開前日から大行列が出来た。
大部分が冬の猟師の様に着込んだ若者だった。
中には数日前から並んでいる猛者もいたが、ヨーホー社員から咎められた。
「お客さん、臭いので体を洗って下さい、帰ったら一番目に並び直していいから!」
と整理券を渡された。
「いやいや、俺は良いから」
とその猛者は他人事の様に返すが。
「あんたはどーでもいいんだよ!
他の観客の迷惑なんだよ!」
と追い出され、近くの大浴場を案内された。
行列のすぐ後ろで爆笑が起きた。恐らく友人知人だったのだろうか。
この猛者が帰って来た日付が変わる深夜。
リック社長たちが煮込み料理や熱い茶を振舞った。
「指定席券を持つ人は次からは並ばないで下さいよー」
と言いながら器を渡す姿は滑稽だった。
「次の作品があれば行列を禁止しますからねー」
と釘をさしていたが。
「次回作あるんですね!期待してます!」
とそれはもう熱気が籠った目で返されてしまった。
止む無く劇場は終夜トイレを解放する事にした。
「徹夜で並びたいっていうのも、好事家の誇りなんだろうけどさあ」
料理の振舞いに同行してくれた夫人たちにリック社長は呆れた様に言う。
「臭いのはヤだよねぇ~」
「もしかして、異世界にもそんな方がいたのですか?」
「やだなあーあはは」
(((いたんだ)))
夫人たちは納得した。
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ロードショー初日。
来賓や貴族は若者たちの行列に少々驚いた。
そして一般客の入場。
ロードショーでは通常公開と違って関連商品の販売は行われず、若いファンたちは落胆した。
開幕。
若いファンの拍手喝采が沸き起こり、タイトル曲の最後までそれは続いた。
彼らは主演や音楽、特撮本編両監督だけでなく、脚本家、美術、合成、出演者も端役に至るまでしっかり記憶し喝采を浴びせたのだった。
特に画面の端にトリック特技プロの名が出た時は
「ヨーシ!」「リック監督ー!」と叫び声まであちこちで巻き起こった程だった。
その後もアゲちゃんやユーちゃんの登場シーン、更にはアレグロに載って陸海軍が出動する場面、脇役怪獣登場場面でも拍手が沸き起こった。
そして白熱線でベヒモドを一蹴し、ゴドランが登場する場面では…
「「「オオー!!!」」」「「「ヨーシ!!!」」」割れんばかりの拍手と絶叫が沸き起こった。
最大の見せ場、王都襲撃シーンでは例の劇場に高速鉄道が突入するシーン、やっぱり一同後ろを向いて、そして爆笑。
ラストシーン、結構泣いているマニアも居た。
そして「終」。
場内が爆発するかの様な拍手が起きた。
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初回上映後には壇上に主演、社長、本編特撮両監督が挨拶を述べた。
だかその後に「トリック監督ー!」「リッちゃーん!」というファンの声が上がった。
事情通はリック社長が本作に深くかかわっていたことを何故か知っていた。
無論、英雄チームも、ザナク伯爵夫婦もこの劇場のボックス席にいたのだが。
「来るべきじゃなかったかなー?」
と後悔するリック社長を
「胸を張りなさい。
あなたが拓いた道なんですから」
とセシリア夫人が肩を叩いた。
最初のゴドランに関わった英雄チームとセシリア社長が立ち上がって場内に頭を下げると、更なる拍手が沸き起こったのだった。
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この日のサロンは招待客や貴族専用となり、平民のファンたちは近くの酒場で燃え滾る思いを語り合っていた。
リック社長は英雄チームと一緒に招待客へ挨拶を済ませた後、先日来のイベントで顔見知りとなったマニアを訪ねて感謝に向かい、若干の酒代を寄贈した。
どのマニアたちも拒んだが、
「ヨーホー特撮次回作の宣伝費だよ、次も観てねー!」
と渡したら、大喝采された。
「お客さん、他の皆さんの迷惑です!!」
「あちゃー、怒られちゃったー」
「「「わはははは!!!あ、シーッ!」」」
こんなやりとりが五回くらい続いた。
「行きたかったよー。こっちゃさあ、おエラいさんたちのご機嫌伺いでさー」
ショーキさんは酒があればどこへでも行きかねない人だ。
そこにファンが待っていればなおの事だろう。
「はっはっはー。門外漢ならではの気楽さだねー」
「またああいうイベントあったら行くか!」
「行きましょー!」
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そして一般公開の初日、各地の劇場は興奮に包まれた。
劇場ではパンフレットや新調されたゴドランのヌイグルミを精密に模した人形だけでなく、好事家向けのポスター、音盤まで発売され、それらも上映開始前にほぼ売りつくされた。
「ここにあるの全種類下さい!」
と売店に突っ走る猛者もいた。
馬鹿デカい袋に戦利品を詰め込んで観客席に戻ると、
「全部って言ったのにアレとコレないじゃん!」と言い出して再度売店に駆け出した。
アレとコレが無いのを短時間で把握するあたり、恐ろしい情報力と集中力である。
その話を後にマニアのイベントで聞いたリック社長は笑い過ぎて窒息しそうになったそうだ。
そして上映。
そして喝采。
舞台挨拶で更に喝采。
要らぬ混乱を避けるためセシリア社長とリック社長以下英雄チームも登壇する事になった。
満足して帰宅する、或いは熱い感想を語るため周囲の酒場に向かう若者の姿を眺め、両夫人と英雄チームが言った。
「やりましたね、リックさん!」
「うまくいったよね~」
「みんなリックと今のヨーホー陣を尊敬してくれてんだな!」
「そうだ。その通りだ」
「大したもんよねー。ちょっと臭かったけど」
相変わらず数日前から並んでた猛者が来ていた。
後に猛者曰く
「いやあ、70mm版と35mm版両方見ないといけんでな!」
だそうだが。
リック社長はあえて言わなかった。
(異世界の轍を踏ませる事だけは避けられてよかった)
と。
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「スプラテリトス」の放送も快調、相変わらず視聴率は60%前後を維持して健闘している。
後半戦、侵略者の組織的な介入による地球破滅戦争を人類が回避する。
最終章4クール目は。
異星人軍団の侵略を根絶するため、主人公とスプラトリテスは宇宙船でバージニア星座方面楕円形ジェット銀河系へ向かい旅立つ。
地球同様、侵略者の内部侵略の策略で自滅へ向いつつあった惑星たちを救う。
更に宇宙警備隊殲滅を企む軍団との最終決戦に臨む。
ここに来てモーションコントロールカメラを駆使した宇宙特撮が多用され、「スプラフィニス」的特撮が満開となる。
内容は宇宙を舞台に汚職や内通、買収、報道の独占に経済操作。
これを主人公が、スプラトリテスが問答無用で打ち破っていく。
最初は難しい理屈が述べられるが、最後は大乱闘で侵略者たちは侵略中の惑星から撤退して行く。
難しい撮影だが、追加予算を得てデシアス麾下トリック特技プロの特撮陣は撮影を進めて行った。
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そんな中、ゴドランが早々に15億突破の朗報が齎された。
祝賀会には英雄チームも呼ばれ、白亜の殿堂の旧友と乾杯を捧げた。
席上、続編を期待する声が上がり、
「次も頼むよリッちゃん!」
とショーキさんは彼を逃さなかった。
「次はみなさんでどーぞ!
俺はスプラの次がまだなんですよ!」
珍しくマッツォ社長が強く出た。
「逃がしませんからね!」
リック社長の手を握った彼には解っていた。
もし、安易にキメラヒドラやマキナゴドランとの戦いにしていたら。
高層建築からヒロインの脱出劇を延々とやっていたら。
ゴドラン好きを自称する著名人を目立たせていたら、ファンが逃げるイベントをそのまま流したら。
他にもエンディングを売り出し中の歌手の歌にしろというゴリ押しもあったのだが、リック社長の姿を見て流石にマッツォ社長が独断で却下したのだ。
(それ全部入ってたら、あんな反応無かっただろうなあ。
そうなるってリックさんには解っていたんだろうなあ)
逃がさない、と言って握った手に力と想いが籠った。
(彼がいなくても、我々でしなければ!)
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「スプラテリトス」の最終回三部作はスプラルジェントの母星、宇宙警備隊が舞台となった。
UGSの宇宙艦が侵略軍団を打ち破り、スプラルジェントの命の源「プラズマスパーク」を守るため共闘する。
反射テープが煌めくセットの中での撮影は今まであまり類がないため、感度の合わせが困難だった。
しかし例え俳優の顔が逆光になろうともリック社長は光の乱反射を喜んだ。
「こん位常識を崩さなきゃ、スプラルジェントの世界は広がらないよ」
最後の決闘は模型だけではなくスプラルジェントたちを中のヌイグルミ俳優ごと操演して、それも多重露光で、宇宙らしく上下のない空間を心掛けてのアクションが撮影された。
人間操演は初の試みで、不自然に見えるカットが多かった。
しかしリック社長は採用した。
鑑賞に耐えうるカットを選んで最終決戦を編集し、侵略軍団との決戦を描き切った。
今までスプラルジェントに救われていたばかりの地球がスプラルジェントを救う、人間たちが一歩足を前に進めた最終回だった。
(次回作、何にしよ)
ほぼ「スプラトリテス」の指示を出し終えたリック社長は、悩んだ。
彼の異世界の記憶の中にある作品群と、彼の感性に合う作品が無かったのだ。




