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328.次はゴドラン音楽の祭典

 年の暮れも迫った冬に、ヨーホー映画はゴドランを始めとする特撮映画音楽の主題を生演奏する音楽祭を企画した。


「リックさんもトリック創立記念コンサートやりませんか?」とマッツォ社長が言い出した。

「ゴドランとスプラルジェントの、音楽の饗宴かあ」


 リック社長は心の中で異世界の偉大な作曲家に感謝を捧げつつ、企画を始めた。


 ヨーホー作品はナート師の作品で、「交響的狂詩曲」を3曲とアレグロメドレー「戯画的輪舞」を編曲。


 トリック作品はアスペル師の作品で4楽章で英雄の章、怪獣と未来兵器の章、宇宙と人間の章、激闘と勝利の章が編曲された。

 英雄の章は各作品の主題曲メドレーとなり、アンコール用にシンセス師のメドレーも編曲された。


 それぞれゴドラン誕生25周年記念、スプラシリーズ15周年記念と銘打たれ、予約はあっという間に完売した。


 リック社長は3師の元に通い、編曲を依頼した。

 編曲が終わると、音楽に合わせた映像の編集に入ろうとするが、それには待ったがかかった。

「音楽だけを楽しんで、映像は心の中で再生頂きましょう。

 これは映画音楽という分野にとっても、大きな試みなのです」

と、マッツォ社長が押しとどめた。


 今まで映画の主題歌や有名な主題曲が演奏される事はあったが、ここまで組曲的に長尺で編集され演奏される事は無かった。

 その観点でも画期的な試みでもあったのだ。


******


 昨今の、若者による過去の特撮作品への再評価のため、公開当時に発売された音盤は、古い在庫も中古品も消え去っていた。


 更にこの音楽祭の企画が発表されるや、ヨーホー音盤、すでに公社ではなく民営化された音盤商会に問い合わせが殺到した。

 再版を求める声も多く、その再版も売れた。


 コンサートの前には、ヨーホーの人気映画の主題曲集も発売され売れたが、やはり特撮モノの売上が突出していた。

 この動きに半信半疑で動いたテレビの再放送や映画放送も高視聴率をはじき出していた。


「リックさん!これはもうゴドランもスプラルジェントも復活させるしかありませんよ!」

「ん~…今更感はないかな?」

「こないだの特撮映画祭の盛り上がり、凄かったじゃないか!」

「確かに嘗て5歳とか10歳の少年が10年も経って、未だゴドランもスプラルジェントも忘れ去られていないのは、主の優れた仕業であるなあ」

「そんなの難しく考えないで、音楽祭の反応見りゃいいんじゃない?」


 仲間達は嬉しそうだった。

 やはり大なり小なり関わって来たかこの仕事が熱気を以て指示されているのがうれしいのだ。


「先ずは、音楽祭だね!」

 リック社長は、かつて異世界で巻き起こった好事家による大ブームに正面から挑む覚悟を決めた。


******


 音楽祭では最初の口上を頼まれたが、

「スターさんの方がいいよ」

と、ゴドラン第一作でゴドラン抹殺を決意したアゲちゃん、アゲンス・テッテー氏に頼んだ。

 更に特撮作品にほぼ全登場しているユーちゃん、ユース・バンジョー氏も登壇して貰うことにした。


 当日、王立中央劇場は朝から行列が出来た。

 全席予約なのだが、集まった若者たちがひたすら昔の児童雑誌や玩具を見せ合い、特撮への情熱を語り合っていた。


 リック社長は劇場に掛け合って会場予定を大幅に繰り上げて貰った。


 開幕。

 アゲンス・テッテー氏が白衣を纏って登壇する。

「人間とは弱い物だ。

 極大魔法対極大魔法、その上この恐るべき魔法を使用できないと誰が断言できる!

 ああ!こんなものさえ作らなければ!」


 アゲちゃんは第一作ゴドランの演技を再現した。


「この台詞を演じたのももう四半世紀前になりますか」

 場内は割れんばかりの拍手喝采に覆われた。


「僕はゴドラン映画の全てに出演しています!」

 ユース・バンジョー氏の特撮愛にも拍手喝采が巻き起こった。

 本当は数作出演してなかったのだが、誰も突っ込まなかった。


 そして「交響的狂詩曲」演奏開始。


 巻頭、ゴドラン登場の主題が鳴り響いた!

 そして第一作の戦車隊アレグロ、一転して「宇宙迎撃戦」のデート場面の夜想曲。

 そこからキメラヒドラの主題、第一楽章の締めくくりは「宇宙迎撃戦」タイトルアレグロ曲、「全怪獣総攻撃」の防衛隊アレグロが交互に混ざり合い、激しい演奏で突如終わった。


 全三楽章あるのだが、一楽章の終わりで早くも大喝采が沸き起こった。

 音楽祭の作法を覆す熱狂がそこにはあった。


 第二楽章では異国情緒を漂わせた「セリコム王城物語」の変奏曲、マハラの島の祈りの歌やプロメテの末裔を迎撃する光線車のアレグロ、第三楽章では「全怪獣総攻撃」のヨーホー映画マークから始まって「快猿王の逆襲」の主題、最後は「地球騎士団」のアレグロで幕を閉じた。


 激しい演奏は余韻を残さずバン!っと終わった。

 これに応えるかの様に沸き起こった拍手は鳴りやまなかった。


 予定していたアンコール?に「戯画的輪舞」が演奏された。

 冒頭、「深山の怪物 大怪獣ベヒモド」の陸軍出動のアレグロが繰り返され、続いて怪獣映画マーチの象徴の様な「怪獣大侵略」の光線砲車のアレグロ、更に「ベヒモド」のアレグロ群がメドレー的に演奏された。

 音楽的には「戯画的」という主題の発展がない雑多な音楽だったが、「交響的狂詩曲」に現れなかった人気のアレグロの行列に聴衆は興奮し、惜しみなく喝采を送ったのだった。


 リック社長はというと、それはもう顔面グチャグチャで泣きながら聞いていた。

 そしてそのままインタビューに引っ張られて行った。


「もうね、私異世界の知識で飯を食わせてもらってるだけなんですよ、でもね、xxx先生の音楽をこうして」


 リック社長の泣き乍らのインタビューを、熱烈なファンたちがホールで聞いていた。

 そして誰もが思った。

(((子供っぽいなあ)))

と。


 しかしそれは軽蔑でも嫌悪でもなく、憧れと尊敬を伴った思いだった。


 一部の好事家はこのイベントで「ゴドラン復活振興会」を名乗り、署名運動やスタッフへのインタビュー記事を纏めた出版物の刊行を訴えた。


「ありがとう!協力しますよ!」リック社長は若い発起人に協力を約束した。


「今年、ゴドランやりますか」

 同席したセシリア公爵夫人にマッツォ社長が聞く。

「それを決めるのはあなたですよ?」


 この夜、「ゴドランの復活」の企画はほぼ決定した。


******


 更に続いてトリック特技プロ15周年行事として「交響詩スプラルジェント」が上演された。


 最初の「スプラルジェント」の作曲はナート師の紹介で起用したパトリア・パラチム師の作品で、これを序曲とした。

 パラチム師はテレビで活躍している音楽科で、自作が音楽祭で演奏されるとは思っていなかった様だ。


 彼は劇中にはない、歴史活劇の様なファンファーレを冒頭に持ってきて、そこから主題曲、防衛隊TISIの主題曲、激闘の曲のメドレーで開幕を飾り、喝采を浴びた。


 第一楽章はアスペル師の作品の主題を構成して演奏された。

 目下最終作となった「スプラ・ファブラ」の英雄集結の主題で終わった。


 第二楽章は怪獣出現の動機、怪獣出現、防衛隊メドレー、激闘の主題。


 第三楽章は広大な宇宙、光の国の主題、そして本編で多用された古典音楽に神殿音楽。


 第四楽章は激戦の主題、各作品の最終回での離別のメドレー。


 ヨーホー特撮音楽祭が音の洪水ならこちらは音のドラマだった。

 第四楽章の終わりには、各作品の最終回を思い出して泣いている人も多かった。


 そして鳴りやまない拍手に応え、まさかのシンセス師のメドレー。

 ショーウェイの許可を取って「スプラ・カピタリウス」から始まり、「スプラ・イントレピド」「スプラフィニス」の胸躍る主題曲が奏でられた。


 例によってリック社長は泣きながら、更にアイディー夫人も泣きながらインタビューに応えていた。


「ホントにあの人は特撮映像や空想世界を愛しているんだなあ」

 聴衆ももらい泣きしていた。


「今年は忙しくなりますよリックさん」

 インタビューを終えてなお涙が枯れないリック社長にマッツォ社長が意味深に語った。


「その通り!

 今年はスプラルジェント復活の年だ!」

「「え??」」

 何故かその場にナントカ氏がいた。

「そもそもスプラシリーズはキリエリア2のものだ」


 リック社長の涙が逆再生で引っ込んだ。

「追い出したのアンタじゃん」

「今こそ帰る時だ」

「ヤダベンジョー、オシリペンペーン」


 あまりに餓鬼っぽいリック社長の返しに聴衆は

(((子供だ)))

(((さっきまでの感動返せ!)))

モーレツに脱力した。


「やるならヨーホーテレビですからねー」

「何だとコラ!オイちょっと待て!」

ナントカ氏はアックス氏とデシアス監督に引きずられて行った。


 高名なプロデューサーに対する容赦ない判断に、テレビ関係者は呆然とした。


 そんな事はお構いなしに、ファンの反応は全く別のものだった。

「「「やるなら?」」」聴衆がざわめいた。

「あー、まだやるって決まった訳じゃ」

「スプラルジェントが復活するぞー!」

「「復活だ!」」

「「ゴドランも?」」

「「「うおー!!!」」」


 会場のサロンにいた人々が爆発した。


「こ、こりゃさ、やんないといけなさそうだねえ~」

「ええ!やりますか!」

 二人の夫人が満面の笑顔で応えた。


「よっしゃ!やるぜ!」

「トリック特技プロ15周年記念作品!がんばりますー!」

「妻よ…」


 このイベントで、映画のゴドラン、テレビのスプラルジェントの復活が決まった。


******


 この音楽祭の録音盤は、これまた凄く売れた。


「音楽としては非常に醜く、芸術的ではない」

 と音楽評論家たちは嫌悪感を表したが、王立学院は逆に

「独特の音階による旋律は注目に値する。

 また映画音楽という分野が、音楽単体として注目される事例を成し遂げた偉大な先例である」

と讃えた。


 その結果、音盤だけではなく、楽譜まで売れ、学校で音楽教育にまで使われた。

 学生たちは心躍る音楽を、独特な音階や変拍子に苦心しながらも生き生きと演奏したのだった。


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