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320.「スプラフィニス」対「OVI」

 ヨーホー映画が一つの歴史に区切りをつけた頃、ボウ帝国での条約祭典は成功して終わった。


 大陸西側からの前代未聞の来客による景気と、今迄貿易商人だけが接していた西側の文化が帝都へ、地方へと伝わって行った。


 何より、長年脅威であり恐怖であったテッキ王国、その最強の戦士が競技に登場し、勝敗が決するや直ちに行われた交流。

 無論、その裏に様々な駆け引きや公に出来ない諍いはあったのだが。


 この言葉に出来ない驚きは、ボウ帝国の、東国の人々の広大な帝国とその文化圏に新しい時代の息吹を吹き込んだのだった。


 特に剣闘のエキシビジョンマッチ。

 テッキ王国国王と衛統帝陛下の馬上試合は、腰が低く弱虫と思われていたガタイ皇帝もとい衛統帝陛下が、下馬評を裏切って粘りに粘って引き分けとなった。


 疲労困憊した衛統帝陛下はテッキ王との握手に応えた。

「勝てないけど、何とか頑張った。

 民が後ろにいた故」

 すると、彼我から喝采が沸き起こった。


「リック~、ヒドいよ~」

 舞台袖で泣きそうに新皇帝陛下が言った。


「まあまあ。死ぬ気で頑張ればあの位なんとかなったでしょ?」

「途中三回くらい死んだ気がするよ?!」

「耐えたんだからOKです!」


 どうやらリック監督にヘンな魔法で身を護る特訓を受けて耐え抜いた様であった。

「どこにそんなヒマがあったのかしら?」

「東国が崩れたら特撮どころじゃないでしょ?」

「そりゃまあそうよね」

 セワーシャ夫人が呆れた。


「やはりそなたは我が国の恩人…」

 迫るカチン大臣をサっとブロックする二人の夫人。


「はあ。このやりとりも懐かしいのう。

 ご夫人方もゆるりと祭典を楽しんで欲しい」

「いえ、新作がありますのでこれにて失礼します」

「またね、のんびりしたら会いたいよね~」

「はあ。寂しいのう」


 ボウ帝国とテッキ王国の交流を裏で支えつつ、世界が興じる祭典に目もくれずリック監督は特撮のため帰国した。


******


「スプラコスモス」改め「オーミネス・エト・ユニバースム」は10話構成。

 書籍は上下巻の構成となる。

 1クールには3回分足りないが、これは別番組に宛てる事で王立放送局は納得してくれた。


 早速前半5話の特撮部分の撮影が開始された。

 一番肝心な学士本人が出演する場面は執筆完了後となるが、スケジュール的に厳しいものがあって特撮カットが先行する事になった。


 それに先んじて、「スプラフィニス」が製作発表された。


 当初こそ

「1799年の二番煎じ」

「またスプラシリーズのオモチャ広告」

等と揶揄されていたが、発表会場でのパイロットフィルムの上映後は絶賛の嵐が吹き荒れた。


 更に発表会場にはモーションコントロールカメラが展示され、テレビ放送用のビデオカメラと接続させ、簡易クロマキー合成で撮影の原理が説明された。


 この発表会のため、この装置の移設だけで数日がかり、数十万デナリを要した。

 しかし、今までの撮影方法との違いを大いに宣伝する武器となり、人々の見る目が変わった。


 そして本編セットも、今迄はセット内を均一に照らして撮影していたが、会議シーンやドラマシーン等は白を基調にした明るい場面に、反面宇宙船の操縦室等ではモニター群やスイッチ類が光って目立つ様に明暗を強調した撮り方に変えた。


 操縦室だけでなく本編でもあちこににあるモニターも1799と違い、小型テレビを使いまくり、走査線が見える方法をあえて採用した。


 しかしそれらの基本的な構想やデザインのモチーフは、スプラシリーズ開始当初から、いや「地球騎士団」「宇宙迎撃戦」から、基本的に大きく変わるものではなかった。


「所詮は異世界の知恵を拝借しただけだからねえ」

「リックきゅ~ん?それをいっちゃあ~、おしめぇ~だよ~?」

「あははっ!」

 リック監督は恥も外聞もなくアッケラカンと言い放つのだった。


******


 こうして「1799」の二番煎じ、という評判ではなく、「1799」の次に来る娯楽活劇として「スプラフィニス」は放送開始が待たれた。


 特撮、クランクイン。

 第一回目ではパイロットフィルムで撮影された未来都市破壊、防衛隊による侵略者の迎撃がそのまま使われた。


 そして本編。

 未来の地球を含む惑星連合が前面衝突回避のため、局地戦にとどめるべく決断。

 民間を装った傭兵団に調査を命じる。


 腕利きの傭兵団の高速巡洋艦コスモスが出動し、敵斥候艦と戦闘、強硬接舷。

 敵艦内を銃撃戦で制圧し、データを持ち帰るまでをスピーディに描いた。


 第一回目はパイロットフィルムを多数使った。

 追加で撮影するカットは、後の話で使うシーンと一緒に一気に撮り上げられた。


 本編も同様に、惑星連合の会議シーン、天井が高く大型モニターが合成されるシーンは相当先の話まで撮影された。

 特に各惑星の代表はヨーホーの名優が起用され、往年の映画ファンにとっては嬉しい配役であった。


 特美班も大わらわだった。

 第二回目で姿を現す敵戦艦、毎回の見せ場となる敵の特務宇宙艇。


 敵側は紫、後に判明するが、敵母星の大気、空の色で塗られ、かつ曲線を多用しどことなく古代竜の肋骨を思わせる凹凸を配している。

 直線を交差させ、地球を含む惑星連合の白い宇宙艦と一目で区別できるデザインとなった。


 見せ場としては、毎回デザインが異なる敵の戦闘艇と、傭兵船の一騎打ち。


 全部で2クールの予定のため、6回毎目安に各話以上のスペクタクルが用意される。


 1クール目中盤、敵軍勢の概要が判明し、全面対決に備えた惑星連合艦隊が出動する話では、地球軍戦艦、巡洋艦等に加え、巨大な折り畳み式移動ドックまで登場する。


 1クール目終盤では植民惑星の共同統治と両者の平和交渉が進むが、交戦派が先走り植民惑星を破壊する大スペクタクルが描かれる。


 登場する未来兵器の数もサイズも点数も、怪獣こそないものの、今までのスプラシリーズ以上だった。


 しかし、全カットをモーションコントロールカメラで撮影する訳にも行かず、一部は従来通りの吊り撮影と、ピント固定のカメラで撮影され、合成ナシの多重露出も行われた。


「あー!また宇宙船だ!」

「ほー、デカイなあ!」


 庭園鉄道周辺の柵に、嘗ての怪獣少年だけでなく、今のアニメっ子達が群がる。

 大規模なミニチュアのモーションコントロールを使わない撮影は0番スタジオで行われる事になった。

 とは言え、その大きさ精々2m程度。

 嘗てヨーホー特美でポンさんが作り上げた近未来戦記の戦艦や機送艦には遥かに及ばない。

 でも、やはり大きく見えるものなのだ。


「やっほー!」


 例によって0番スタジオへ宇宙船のミニチュアを運んで行く列車を運転するのはリック監督本人。


「あー!リック監督だー!」

「あの人、歳取んないなあ」

「聖女様達もだぜ?」「いーなー」


「よほほほー!」

 成長してマセガキになった元怪獣少年含め、久々の声援にこたえてリック監督は超ゴキゲンだった。


******


 今やライバルとなった17th世紀プロも、「OVI」で昔ながらの技法で、しかし「1799」で培ったデザイン感覚の各種未来兵器が活躍する作品の撮影を続けていた。


「スプラフィニス」も「OVI」も、どちらも「1799」の後とあって、大人びた雰囲気の作品なのだが。


「考えて見りゃスプラシリーズだって最初はしょっちゅうは子供出さなかったし、フツーだよね」

「子供は大人っぽいものに憧れるものさ」

「でもねえ。あんましとっつきにくいのもねえ?」

「セワーシャ、活劇に言葉は要らない、顔と殺陣で魅せるものとも言うのだ。

 そのつもりで撮れば子供だって飽きることなく食い付いてくれよう」

「ふ~ん?」


 デシアス技師、本作ではリック社長が監督となって、今まで監督していた剣聖デシアスはチーフカメラマンに戻っていた、が言った。

 とっつき辛さが無い様に、異文化の衝突という難しい話も25分で彼我両者の違いを浮き彫りにする様、芝居を強調して解りやすく撮影する事にした。


******


 一方、「OVI」は1時間枠。

 しかも大人っぽいシリアスな人間ドラマを交えている。

 秘密裏に侵略者を撃退するため、主人公達は自分達の行動を明らかに出来ず、その結果、家族や恋人と離れてしまう。


 或いは宇宙人に操られた旧友や部下を容赦なく殺害し、過酷な使命に打ちひしがれる。


「どっちがどう評価されるのか。

 それも、今だけじゃなくて、今後10年、20年後に。

 そんな未来も楽しみだよ」

「今評価されて稼いでくれなきゃそれでオシマイですー!!」

「怒られちゃったー!」

「妻よ…」


 リック監督のいう事も一理あるが、企業としてはミーヒャー専務の言う通りである。


******


「OVI」の放送開始と「スプラフィニス」の放送開始は、ほぼ同じ日となった。


 リック監督の励ましで様々に考えられた、「トニトアビス」よりさらに進化した未来兵器の撮影も進んでいる。


 ドラマ部が毎回の主体になるため、特撮はかなり使いまわしが多い。

 それでも随時、各エピソードのための撮り足しが行われ、話によっては新撮の割合がかなり多くなる時もある。


 そういう時、リック監督は撮影所に顔を出し、時々差し入れては撮影用模型を眺めて抱えて動かして

「ウオー!カッチョイー!エアロ1発進!どびょ~!!」

と悦に浸る。


 そして

「ジャマなんでオフィスに戻って下さい!」

「また怒られたよー!」

と追い出されるのが常だった。


「全くあの人は変わんないなあ」

 呆れつつ笑い出す17th世紀プロスタッフは、言い知れないやる気を彼から貰っていたのかもしれない。


 両者は違う土俵で、しかしお互い影響し合って、確実に進歩していた。

 そして放送開始を迎えたのだった。

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