4 シュレディンガーのネコ
「それから先はよくわからない。体が熱くなって、何も考えられなくなって……気付いたら、ボクのラーメン屋で使っていた寸胴鍋からスープを取り出し、店主にかけていた。そしたら、ボクと同じ顔になった。フフフ、これでみんな同じなんだ。ボクが標準なんだ。だれもブサイクじゃないんだ。これがボクの革命だ。ハハハハハ」
「何言ってるんだYO!そんな悲しい革命があってたまるかYO!」
イエローブルーがブサメンマンに詰め寄った。
「ブサメンでも出来ることはあるんだYO!お前はブサメンを引きこもった言い訳にしてるだけだYO!ううう」
イエローブルーが泣いている。
「なんだ、ボクのために泣いてくれるのか」
「辛かったな、辛かったなあ。ブサメンマン」
「イエローブルー、あんたはすごいよ。オレは学校って言う顔面ヒエラルキーに耐えられなくなって逃げ出した。からかわれることに疲れたから。でも、あんたは逃げ出さなかったんだな……」
「……オレは、ブサメンじゃないけど、おしゃれなCD聞いたり、流行りの洋服を着たり、できることからやっている奴はオレの友達にいたYO」
「おしゃれなCDや流行りの洋服は、本当にお前が欲しがったものか?」
ブサメンマンはイエローブルーの肩を握る。
「や、やめろYO……」
「そんなに周りに媚びて、アンタは何か得たのか。教えてくれよ、ボクとは違う道を行ったアンタはその道で何を得たんだ、教えてくれよ。ボクもアンタもブサイクなんだ。仲間だろ?」
「ち、違う……オレはブサイクなんかじゃないYO……」
ブサメンマンはイエローブルーのサングラスを取る。
「あ、ああああああ!」
イエローブルーは目を抑える。
「見るな、見るな!オレを見るなぁ!」
「いつから、サングラスなんかかけた。アンタは、瞳を隠した。ボクと同じだ。結局、自分の本心を隠して生きてるんだ。アンタはブサイクなんだ。こんなもので隠しても、にじみ出てくるんだ。ボクと来いよ。アンタを自由にしてやる」
イエローブルーはブサメンマンに優しく抱かれた。
「うああああああああ!」
ピンクブラックがイエローブルーの手を取る。
イエローブルーが震えだした。
「あああああ!アー……もう、ダメだ。気持ちが落ちてどうしようもない……」
イエローブルーはへたり込んで地面の土をいじっている。
「ああ!イエローブルーがブルーになってしまった!イエローブルー、楽しいことはこの世に一杯あるわ!」
ピンクブラックが駆け寄って話しかける。
ピンクブラックの声は届かないのだろう。
イエローブルーはぼうっとした瞳で空を見上げる。
「なあ、ピンクブラック教えてくれ……」
「な、なに?イエローブルー」
ピンクブラックはイエローブルーの手を握る。
「オレはブサイクなのか?」
「そ、そんなこと……」
ピンクブラックは目を逸らした。
「レッドグリーン」
「……」
オレも目を逸らしたよ。
「ピンクブラック、オレとお前は幼馴染だったよな」
「……そうだね」
そう、ピンクブラックとイエローブルーは幼馴染なのだ。
「オレは中学3年のとき、お前に告白した。受験勉強があるからってお前は断った。すべての受験が終わった後、もう一度告白した。その時は他の奴と付き合ってるからごめんって断られた。なあ、おかしいよな。オレ受験終わったその日に告白したんだぜ?日にちの計算が合わないよな?だれと付き合ってるか聞いても教えてくれないしさ」
オレもいつまでもうずくまってるわけにも行かないな。
ピンクブラックがウインクしてきた。
えー、オレが言うの?やだなあ、お前が言えよ。
えー、言ってよ。お願い。
てなことをウインクで何回かやりとりをした。
「何でピンクブラックはまばたきをパチパチしてるんだ?」
イエローブルーは不思議そうにしていた。
「ピンクブラックはきっと受験中のお前を傷つけないように気遣ってたんじゃないか」
「う、うん、そうだよイエローブルー!試験がうまく行くように、それまではショックを与えないようにって」
「ああ。あの時、お前のことを思ってたんだと思うよ、ピンクブラックは」
「ね」
「ねー」
ピンクブラックと二人で息ぴったりな説明をした。
「……お前ら、ま、まさか」
「「ごめんなさい、実は僕たち(私たち)付き合ってましたー!」」
「……言い出せなかったけど、オレとピンクブラックは、実は付き合ってたんだ」
「あー、イエローブルーに正直に話せて良かった。内緒にしておくの辛かったもんね」
「ああ、そうだな。7年も内緒にしてたこと話せて良かったな」
「ねー」
「ね」
オレとピンクブラックがすっきりしている反面、イエローブルーは震えていた。
「お、お前らあああああああああああ!」
イエローブルーが怒りに震え、立ち上がった。
「オレを虚仮にしていたのか、お前ら二人でッ!オレとお前らは同じ中学だった。友達だと思ってた。だから、お前に恋の相談をしたんだレッドグリーン!そのときからオレのことをバカにしていたんだな……」
「違うぞ、イエローブルー。バカになんてしてない、受験もあった。オレ達はお前のためを思って……」
「うるさい、うるさい!だれも信じられない!なあ、ピンクブラック。なんでレッドグリーンなんだ。オレのほうが、勉強も、運動だってできた。お前、オレのくだらない冗談に笑ってくれていたじゃないか」
「……」
「なあ、何でオレじゃないんだ、何でレッドグリーンなんだ、答えろよ!」
ピンクブラックがイエローブルーに微笑みながら近づく。
「くす。本当に答えが聴きたいの?イエローブルー」
ピンクブラックの目が怪しく光る。
桃色の天使の隠していた闇が顔を出した。
「この手を取れば、本当のことを教えてあげる」
伸びた手がイエローブルーに近づいていく。
「この手を取らなければ、あなたは傷つかずに済むかもしれない」
ピンクブラックは微笑みを絶やさない。
「……オレは……」
イエローブルーは、逡巡したあげくその手を取れなかった。
「フフフ、臆病なあなたに教えてあげるわ。結局、私とレッドグリーンはうまく行かなかった。大学生になってすぐつまらないケンカをして別れてしまった。私たちの青春の思い出は、それで終わりにしましょう」
「ううう……」
ピンクブラックは選択したイエローブルーの望む答えを出した。
みんな、勇気があるわけじゃない。
結局、みんな臆病なんだ。
でも、別にそれでいい。
何もすべての真実を背負って生きていかなきゃいけないわけじゃない。
ブサメンマンがイエローブルーに肩を貸す。
「さて、体も温まって来たし、ブサメンマン。オレと勝負だ。思い残すことは無いか」
ウォーミングアップをして戦いに備えた。
オレはブサメンマンを倒して決着をつけることにする。
お前の叫びは聞き届けた。
だから、もうお前を倒すよ。
「ハハハ!先ほどみじめに倒されていたのは誰だったかなあ。いいぜ、相手をしてやる」
オレと、ブサメンマンの一騎打ちだ。
ブサメンマンはぼうっとつぶやき続けるイエローブルーを座らせた。
「オレから行くぞ」
ブサメンマンとの距離を一瞬で詰める。
「は、速い!」
オレは右手拳で乱打を見舞う。
ブサメンマンは腕でガード。
オレの左手もブサメンマンの顔を狙ってガードさせ、
隙のできたボディへ右手で一発入れる。
「ぐうう」
苦しむブサメンマンの顔にそのまま右手で裏拳を食らわせる。
少し距離を取り、挑発。
「来いよ」
「ちくしょう!」
ブサメンマンが突撃して右こぶしを出してきた。それに右蹴りを合わせ、その勢いのまま回転し、左足でブサメンマンの延髄にかかと落としを決めた。
「がはっ……てめえ、さっきはわざと手を抜いてたのか」
ブサメンマンがうずくまりながら、問いかけた。
「お前の魂の叫びが聞きたかったのと、あの時はおなかがすいてたんだよな。今もだけど」
倒れたブサメンマンを見下ろす。
「思い残すことは無いか」
「特にない」
「そうか」
「あるでしょう、ブサメンマン。アナタは結局、勇気がなかったのよ」
ピンクブラックはどこからか女ディレクターを連れてきた。
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