5 愛と勇気
ピンクブラックは女ディレクターを連れてきていた。
彼女はブサメンになっていなかった。
「お前、彼女にはラーメンスープをかけてないのか」
「フフフ。彼女の顔が好きだったんだ。結局、オレだって人を顔で選んでしまうんだ」
ブサメンマンはヨロヨロと立ち上がる
「叶わないとしても、アンタに伝えたいんだ」
ブサメンマンは、女ディレクターの前を向き、頭を下げ、手を差し出した。
「あなたが好きです。ボクと付き合ってください」
女ディレクターはブサメンマンの手を取って、
「はい」
「「えええええ」」
オレ達はビックリする。どうせ無理だろうと内心思っていたからだ。
女ディレクターは微笑んでいた。
「あなたを怒らせてしまった私に、あなたを慕う権利はないと思っていました。上の意向に逆らえず、本当に好きだったあなたのラーメンのことを放送できなかったこと、お詫びします」
頭を下げた。二人して頭を下げて手をつないでいる。
「二人とも顔を上げたら?」
ピンクブラックが声をかけ、二人とも顔を上げた。
二人で顔を見合わせて照れている。
「そんなときにあの人が声をかけてくれた。つい嬉しくなって……でも、土下座をしてまで私の感想を求めてくれたあなたのことを好きになってしまいました。一緒に過ごしてくれませんか、私と」
「はい……はい!」
ブサメンマンは彼女に触れるのを怖がっているように思えた。
「来てくれませんか?私はあなたに触れて欲しいです」
真っ赤になって手を広げる女ディレクター。
そんな彼女をブサメンマンは、戸惑いながらも抱きしめる。
そして――
二人は唇を重ねた。
その瞬間、祝福するように雲間から光が差して――
「雪だ」
ピンクブラックの頬に粉雪が当たった。
道にうずくまってる人たちへ雪が降りかかる。
「か、顔がもとに戻っていく」
人々の顔がみるみる元に戻っていく。
ブサメンマンも、3メートル級の怪人から少し背の低い人間へと戻った。
「さて、みんな戻ったし帰ろっか」
ピンクブラックが声をかけてきた。
「ああ」
イエローブルーも気を取り直したようだ。
3人で歩く。
「それにしても、ピンクブラックは何で高校の制服なんて来てるんだ?」
オレ達はもう大人だ。
ピンクブラックが高校生の制服を着ているのはおかしい。
これには深い理由があるのだが……
「えっとね。レッドグリーンと久しぶりに会ったんだよね」
「そうなのか、なんだよ。オレも呼んでくれよ、水臭いな」
イエローブルーがオレの首に手を回す。
「それでね。久しぶりだったからお酒飲んでたし、盛り上がってさ」
あ、おい。
それ以上話すな、やめろ。
「昔付き合ってた頃を思い出してね。お互い制服なんて着ちゃって……昨日は盛り上がったね。レッドグリーン」
「お前ら、まさか……」
いや、ここまで話してしまったらマサカもなにもないだろう。
「別れたけど、たまに会ったりしてる」
仕方なくオレは話した。
「泊まりに行ったり来たりしてるね」
だから、一言多いよピンクブラック。
わざわざ傷口に塩を塗り込むなよ。
「ま、まさか」
イエローブルーが震えだした。
「いや、だからマサカも何もたまに遊んだり、泊まったり」
「寝たりするよね」
だから、わざわざ刺激的な言葉を使うなあ!
「いやああああ!」
イエローブルーが逃げ出していった。
「逃げて行ったね」
「お前がわざわざ傷口に塩を塗り込むからだろうが」
ピンクブラックがオレの肩に寄り添ってくる。
上目づかいも忘れない。
「だって、二人で昨日の続き……したかったんだもん」
悪魔の所業の後の天使の微笑み。
ピンクブラックの笑顔は年がたってもあんまり変わっていなかった。
ただ、コイツオレと二人きりになるためだけにイエローブルーに塩を塗り込んだのか。
怖いな。さすが腹黒桃色天使。
「ねえ、早く帰ろうよ。私制服だから目立っちゃうよ」
「そうだな。腹が減ったな、ピザでも取ろうか」
「あ、いいね」
降りしきる雪の中、家路を急ぐ。
とある怪人は自らの勇気によって自分を取り戻した。
イエローブルーは結局ピンクブラックから真実を聞くことができなかった。
さて、オレはどうする?
立ち止まる。
「どうしたの?」
ピンクブラックがオレの顔を覗き込んできた。
些細なきっかけでケンカ別れしてしまい、会えば遊ぶ。
気楽と言えば、気楽なのだが。
「ピンクブラック、いや黒野桃」
「ふふふ、何だい。赤間緑夢くん」
二人で本名を呼び合う。
オレがキラキラネームな件については、とりあえず気にしないでくれ。
ピンクブラックこと黒野桃を抱き締める。
昔、抱きしめた体が今手の中にある。
制服も付き合ってた頃のまんまだ。
心はどうだろうか。
「オレと付き合ってください。あなたが好きです」
桃と見つめあってからゆっくりと抱きしめた。
初めて抱きしめた時のように、心臓が鼓動を早める。
「ふふふ。私の策略にかかったね。赤間緑夢くん。元カノの制服を見て、昔を思い出したかな。ふふふ。そうだとしたら、私の勝ちだね。覚えてる?中学の時はね、私から告白したんだよ」
桃が人差し指を立ててオレに話してくる。はは、昔よく見た桃の癖だ。
覚えてる。
嬉しかったから。
好意を伝えるのは、実は難しいことなんだ。
気持ちを伝える手を振り払われはしないかと。
はねつけられたときに傷つくのではないかと。
傷つきたくないと思うから。
「覚えてるよ。だから、オレからお前に伝えたかったんだ」
「ありがとう、好きだよ緑夢」
桃を見つめる。
ファンデーションを塗り、紅を引いた桃は昔よりきれいになっていた。
見つめあって、二人は昔のように口先だけのキスをした。
「……続きは部屋でしようね」
少しだけ、オレはオレの中に宿るグリーンの力を借りることにする。
オレは今、嬉しいから。
寒さに震えながら手をつないで帰る家路を楽しいものにしたいから。
オレは手をぐっと握って、大きく広げた。
見る見るうちに大通りの桜が、花を咲かせた。
突然の桜の開花に道ゆく人々は驚いているが、みな粉雪と桜を喜んでいた。
「春だね、春が来たんだよ」
「一緒に帰ろう、桃」
「うん!」
わがままで作った桜並木をゆっくりと歩いて帰る。
普段は恥ずかしくてやらないが今日くらい手をつないで帰ろう。
読んでいただき、ありがとうございます。
これにて完結です。
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