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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
三章 ゴブリン王国 編
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34話 再会

〈一部修正1/7〉

視界が真っ白に染まり、一瞬の虚脱感の後に双眸を開くと、そこはもう荒れ果てた先ほどの村ではなかった。

豪華絢爛ーーー具体的に表すなら、ヨーロッパの古代の城みたいな感じだ。


初めてのテレポートに少し戸惑いながらも状況を確認すると、中々に切羽詰まったような状況だった。

酒々井は壁を突き破って倒れている。ここからでは生死の確認はできないが、最悪の場合を考えて、さあっと体温が下がった。


そして、酒々井を攻撃したらしい双剣を抜いたフードの人物と、ーーー私たちと同じ黒色の容姿をした、少女。


ーーーどくん、と。心臓が、動揺に震えた。

一瞬で、何もかもが考えられなくなる。

真っ白な花の髪飾りの少女。

まるで何かに操られているように感情が削ぎ落とされた彼女の

姿に、鼓動が加速する。


その感覚に、私はただ戸惑った。

どうしてこんなにも動揺するのか、全く分からない。

(知っている)

全身を揺さぶる既視感。

両目をただ見開き、口は開いたまま震え、指先に力が入らなくなり、杖を握り直すこともできなくなる。


「…ぁ…ぁ…、」


水を失った魚のように喘ぐ口から漏れるのは、言葉にならない呻きばかりだった。

真っ白になった思考とぼやけていく視界。

フラッシュバックする赤。ノイズのように、ちらつく。


「ぁ…」


迫る光の矢にも、指ひとつ動かすこともできない。


「ディア様ッ‼」


突然の叫び声に私の意識は現実へと引き戻された。と同時に、後ろから服の襟を掴まれ、圧倒的な力で私の体も後ろに引き戻された。

その影響で襟が首に食い込んで、一瞬息が詰まって私は、


「うぇっ」


なんて蛙が潰れたような情けない呻きを漏らす。

不意のことだったので、体勢がうまくとれず勢いよくしりもちをついてはまたさっきと同じように痛みに声を漏らした。

何があったんだ、と咳き込みながら元いた場所に目をやれば、床には絨毯を貫いて小さめの穴があいていた。見る限りここの床や壁は大理石に似たもので作られているらしい。つまりは石に容赦なく穴をあけるような攻撃が来たということで。メリーさんが私を引っ張らなければ全身串刺しになっていた未来が過ぎり、背筋が静かに、そして一瞬で、氷柱に差し替えられたが如く冷たく凍った。


「あーあ、一人も殺れてない…。

あーるじー、予定外の侵入者が6…いや7ほどー。しかも“黒”が4人も。戦力、寄越してくれませんかね。


…あぁ、はい、わかりましたよ。


<命令(オーダー)>ノワール、できるだけ侵入者の足を止めろ。だができることなら殲滅しろ」


忌々し気に舌打ちをしてフードの人物は、ここにいない誰かと交信らしき一人言を零した後、


「<炎牙(カグツチ)>」


一言の呪文と共に右手の剣に炎をまとわせた。


「メリー!ディア達を離脱させろ!」


相手側の臨戦態勢に、ディートリヒさんは腰の長剣を抜いた。

マーレさんも大剣を構え、戦闘に備える。



「え、あ…」


それに、必要以上に混乱していた私はうまく反応できない。

ここから離れることに、後ろ髪を引かれるような思いを、抱いてしまっていた。


「生川!翻訳しろ!!」


私伝いでなければ言葉を理解できない物集が叫ぶ。


「あ、酒々井を連れてここから、離れろって…」


言われてから辿々しく答えると、物集と酒々井妹は未だ意識を失った酒々井のもとに急いだ。

私は……その場から、足を踏み出す気が起きなかった。


頭の奥の何かが、ここから離れたくないと私の足を掴んで放さない。


「生川!早く来い!」


扉の向こう側で、酒々井を肩にかついだ物集が叫んだ。


「ーーー…」


私がただ呆然とするなか、

爆音。

突如、背後の壁が爆音と共に大きく破壊された。屋敷の遥か高い天井にすら届きそうなほどに巨大なーー何か、否、ー瞬それが何か理解できなかったが、おそらくはゴブリンが、その体格にそぐうような大きさの斧を携えて、自らが破壊したと思われる壁の穴からのっそりと現れたのだった。


まさに、ゴブリンの王とでも呼ぶべきその圧倒的な存在感。


「ヴォァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「ッ!!」


反射的に身が竦むほどの空間全体を揺るがす咆哮。それは、以前マーシュさんの依頼で遭遇した魔法生物化した巨木のものとは比べ物にならないほど強大であった。


巨大なゴブリンは手斧を掲げ、この空間ごと切断でもするかのように軽々とそれを振り下ろす。部屋の家具調度品は音と破片を撒き散らしては紙のようにぐしゃりと容易く次々と壊されていく。


「なんだその化け物は?!」


ディートリヒさんの驚愕に満ちた叫び声が背中越しに聞こえた。


「生川!!」

 

もう一度、物集が叫んだ。

が、例え物集のもとに行こうとしても、ゴブリンが明らかに邪魔をして通れそうにはなかった。

それどころか、獲物を選び定めるようなゴブリンの視線が私へと向けられた。明らかな敵意を持って、ゴブリンは斧を持ち上げる。


「ディア様!」 

「大丈夫、です…!」


身の危険が私を現実へ否が応でも引き戻す。二三歩たたらを踏んでは、かかとを二回、うち鳴らして、叫ぶ。


「《円風曲(ワルツ)》!!」


すると、足元に風が巻き起こって私の体を持ち上げ吹き飛ばし、メリーさんは大きく後ろに跳躍し、ゴブリンの一薙ぎをかわす。

が、直後、ゴブリンの前に大きな魔方陣が浮かび上がった。


「なっ…、」


一体何が。

そう理解する前に魔方陣が赤く光輝き、轟音と爆風を撒き散らす。

立っていられない程の豪風に、宙に浮いていた私の体は成す術もなく吹き飛ばされて、勢いよく壁に叩きつけられた。


「あぐっ…!」


そのままバランスを崩して自由落下する私を、メリーさんが受け止めてくれたためにさらなるダメージは回避できたが、防具があるとは言え、背中が焼けるように猛烈に痛い。


「ディア様、大丈夫ですか?!」

「…一応」


痛みに顔をしかめて立ち上がる。軽度~中度の打ち身で済んでいる筈だ。動き自体に大きな影響があるほどではない。


「…あんな巨大なゴブリン、私は見たことも聞いたこともありません」


今だこちらに狙いを定めるゴブリンを見上げ、メリーさんは愕然とした様子で動揺に声を震わせた。


「これ…勝てます?」


体のサイズだけで見れば普通に勝てない相手に、すでに私は内心逃げ腰だったが、とりあえずは疑問を投げ掛けてみる。すると、メリーさんは、弾かれたようにゴブリンに向かって駆け出した。


「メリーさん!」


突然の行動に私が声を張る。

しかしメリーさんはそれを気にも留めず、一直線に振り下ろされる雷撃にも等しいゴブリンの斧を、超人的な跳躍力で回避しては、ゴブリンの腕を足場に急接近していく。


「はぁぁぁぁぁッ!!」


ゴブリンの眼前に身を躍らせたメリーさんは鼻頭に向けて、華奢な腕からは想像もできない鋭い拳を突き出したが、鈍い音と共に黄色い壁に阻まれる。私たちもよく使う、魔法による防御壁だ。


小手調べの一撃らしく、追撃はせずに戻ってきたメリーさんに、どうでしたと問う。


「攻撃は大振りですのでかわすことは容易ですが、あの防御壁のせいで攻撃が通りません。正直、魔物として下級のゴブリンごときが魔法を使うだけで驚きなのですが、あれほどの硬さ…いったいどれほどの魔力を有しているのか」

「つまりは…」

「あのゴブリン単体でも厄介ですのに、あそこの正体不明の人物も相手取ると考えると…状況は非常によくありませんと正直に申させて頂きます」


私達の背後で繰り広げられている、ディートリヒさんとマーレさんたちの戦闘。激しい金属音やら、爆発音やらが聞こえてくる。


やっと、思考がはっきりしてきた。

どうするべきか、と自らに問う。

大きく分けて、二択だ。


この部屋から離脱する?

そうなると、物集やディートリヒさんと別行動になる。メリーさんがいるとは言え、良い手とは断言できない。そして、残ったゴブリンが手負いの酒々井を背負った物集や交戦中のディートリヒさんたちに矛を向けるのは、避けたい状況だ。


ここに残ってゴブリンと交戦する?

果たしてメリーさんと私でできるものなのか。物集は無理としても、酒々井妹なら参戦できなくもないが、そもそもこの部屋に今いるのか。この状況で自分達だけで逃げるのは、仕方がないことだ。

いたとしても戦闘に関する素人が二人。自らの魔法の素質を知り得てもいないのに戦力として数えるのは、あまりにも厳しい。

…正直、あの斧を私の魔法壁で防ぎきれるかもわからないし、試したくもない。できなかった体が文字通りの一刀両断だ。

先程、敵の言っていた『戦力』がこれのことなら、目的は戦力の分散だろうか。数は力だ。ましてや(素人だが)黒の民が、意識無いヤツも含め四人もいる。たった二人で立ち向かうのは厳しいだろう。…例え一人が、黒の民だとしても。


「ーーー…」


ノワール、と呼ばれた、花の髪飾りをした黒い少女を思い出して、また思考が鈍る。


「ディア様っ!」


メリーさんに呼ばれて、ハッと我に返って、こちらに近付いてくるゴブリンを見上げる。


「ディア様、大丈夫ですか?」

「…大丈夫です。すみません」


不安そうな声音に、私は素っ気なく返すしかできなかった。


「……ディア様は、お逃げください」

「…」

「私は、ここに残ります。ディー様にこいつを向けさせるわけにはいきません。ですが私はあの方に忠誠を誓っております故、ディア様方を離脱させる命には従わなくてはなりません」

「それは…」


それが一等に良いんだと、私はようやく理解した。

素人の私達がここにいたところでメリーさんの足を引っ張る可能性だって高いんだ。なら私達だけでも逃げて…逃げて、どうする?逃げた先に現状の打開を見いだすことは出来るのか?…違う。打開以前に、酒々井という負傷者を抱えているという問題をどうにかしなければならないんだ。


「…分かりました。物集…リヒトたちと離脱します!」


強く、ひたすら強く後ろ髪を引かれる心を奥底に押し込めて、私はメリーさんに背を向けた。扉近くの物集と目を合わせ、ひたすらに脚に鞭打って大広間の外へ逃げた。


長らく時間を空けまして申し訳ありません。また再び、気まぐれに好きなように書いて更新していきたいと思います。次回35話「現状理解」

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