12.零れた本音
爽やかな風が吹き抜け、街に活気が満ち始めた頃。露店が並ぶ大広場から少し外れにある長椅子に座って、コハルとアカツキはサンドイッチを食べていた。
「………」
「………」
アカツキは薄切り肉が何層にも重なって挟まっているサンドイッチを黙々と食べていた。前回食べてよっぽど気に入っていたのだろう。今食べている薄切り肉のサンドイッチは5つ目だ。
そしてコハルが食べているのは前回と同様、花苺のデザートサンドイッチ。アカツキと違って1つ目のサンドイッチをゆっくりと食べている。
(もったいないなぁ…せっかく花苺のサンドイッチを食べてるのに味が全然わからないなんて…)
今度のお休みにレイを誘ってきちんと食べに来ようかな——…とコハルが思っていると、不意にアカツキの静かな声が降ってきた。
「…コハル」
「は、はい、どうされましたか?」
コハルが慌てて顔を上げると、アカツキがすまなそうな顔をしてコハルを見つめていた。
「…この間は悪いことをした…」
「悪いこと、ですか?」
コハルはきょとんとした表情を浮かべた。
「…その、お金を持たず外に出てしまったから…コハルにお金を支払ってもらうことになって、悪いことをしたなと思ってたんだ」
前回、アカツキはお金を持たずに窓から飛び出した。そのためサンドイッチの代金をコハルが代わりに支払ったのだ。ちなみに今回は事前にお金の用意をしてから屋敷を出たので問題はない。…お金の出所はカナメだが。
『あ!手持ちがないお兄さん!また来てくれたんだね、いらっしゃい!』
サンドイッチ店の店主はアカツキとコハルを覚えていたらしい。サンドイッチを次々と手に取るアカツキに初めは懐疑的な眼差しを向けていたが、今回はちゃんと手持ちがあることがわかると『これに包んじゃいましょう』と言って白と黄色の縦縞模様が入った大判の布を広げてサンドイッチを包んで渡してくれた。そして最後は『ありがとうございますカナメ様!またお待ちしています!』と笑顔で見送ってくれたのだ。
(どうしてアカツキ様のことを『カナメ様』って呼んだのかしら?)
コハルはサンドイッチ店でのやりとりを思い浮かべながら、アカツキへ返事をする。
「あ、いえ、それなら大丈夫ですよ。カナメ様から後日お支払いをいただきましたし」
それなら良かった、とアカツキは安心した表情をすると、6個目のサンドイッチに手を伸ばした。
(…それにしてもアカツキ様、よく食べるなぁ)
薄切り肉のサンドイッチの次は揚げた白身魚が挟まれたサンドイッチを食べ始めたアカツキ。大広場で売られているサンドイッチは男性でも2、3個食べたら充分にお腹が満たされる大きさになっている。味だけではなくその量も人気の理由だ。その分、他のサンドイッチ店より値段が高く設定されているが。
(アカツキ様がよく召し上がるっていうお話は聞いたことなかったけど…)
コハルが横目でそっとアカツキの様子をうかがっていると、アカツキとぱちっと目があった。アカツキはわずかに目を見開いたあと、柔らかな笑みを浮かべた。
「…コハルと一緒に、ご飯を食べられて嬉しい」
「あ、いえ、そんな…」
コハルは慌ててしまい、返事ともつかない返事をしてしまった。そんなコハルの様子を気にかけることなく、アカツキは目を細めてコハルを見つめる。
コハルは気恥ずかしくなり視線を逸らした。
「……」
「…………」
コハルは前回、道案内役として連れ出されたと思っている。しかし、今回も同じサンドイッチ店へ行くなら道案内役は必要ないはずだ。
(私、どうしてアカツキ様と一緒にご飯を食べてるんだろう…)
『——…コハルと一緒にご飯を食べたい』
アカツキは目覚めるとコハルにそう言った。
『——…最近知り合いになったんだ』
(知り合いになったらご飯くらい一緒に食べることはあるけど…)
『——…寝ている間に親しくなったんだ』
(親しい知り合いならなおさら…)
コハルはふと動きを止めた。
(…親しい知り合いってどういうこと?)
コハルからすればアカツキは『親しい』と呼ぶには程遠い存在だ。
(ただの知り合いじゃなくて、親しい?懇意にしているってこと?私と?アカツキ様が?——)
「私たちはいつから仲良しになったんでしょう…?」
頭が混乱してうっかり零れ落ちてしまったコハルの言葉に、アカツキは目を丸くし動きを止めた。




