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第四話「崩れる」
音が消えた。
戦の後の静けさではない。
何かが抜け落ちたような、空白。
「……いない」
誰かが言った。
その声は小さい。
だが、重かった。
視線が集まる。
同じ場所へ。
そこにいるはずの者が、いない。
戻らない。
その事実だけが残る。
「……間に合わなかった」
別の声が落ちる。
責める響きはない。
だが、逃げ場もない。
徳川家康は動かない。
ただ、見ている。
何もない場所を。
(間に合わない)
その言葉が残る。
消えない。
もし、もう少し早く動いていたら。
もし、もう一歩踏み出していたら。
変わったのかもしれない。
だが、動かなかった。
動かなかったから、崩れなかった。
だが、救えなかった。
「正しかったのか」
誰の言葉か分からない。
だが、全員が聞いていた。
風が吹く。
冷たい風だった。
三河の戦の時とは違う。
何かを奪っていく風だった。
家康は目を閉じる。
思い出す。
動かなかった時間。
耐え続けた時間。
すべてが、ここに繋がっている。
(待つ)
(耐える)
それは間違いではない。
だが――足りない。
決定的に、何かが欠けている。
「……次は」
小さく呟く。
誰にも聞かせるものではない。
だが、確かにそこにある。
「――見捨てない」
その言葉は、これまでと違う。
待つだけではない。
耐えるだけでもない。
変わるという意思。
まだ形にはならない。
だが、確かに芽生えていた。




