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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第一章

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潜んでいた悪意

 そういえば——。


 小春のもとへと向かっている最中で、佐助はふと一つの疑問が思い浮かんだ。


 太郎坊は、なぜ菊男のところにあの手紙を送ったのだろうか。


 『宿短子、愛宕神社にて我々と共に、諸君ら魔性討伐軍を待つ』


 そんな宣戦布告が送られてきたと菊男が屯所に駆け込んできたのは、早朝のことだった。


 なぜ魔性討伐軍ではなくて、菊男のところに送ったのか。こっちに送りつけるのが筋ではないか。


 それに……と一つ思い浮かべばまた疑問が浮かんでくるらしく、もう一つの違和感に気づく。


 ——お前、魔性討伐軍に追われてるんだろ?


 太郎坊はそう言って短子に話しかけてきたのだという。


 短子が討伐軍の拠点から逃走する場面を、太郎坊はたまたま見かけたのだと話していた。


 滅多に人里に降りない太郎坊が、偶然短子が逃走する場面に出くわした?


 どうにも胡散臭い。


 まさか——。


 佐助はその場で立ち止まる。


 菊男と天狗は——。


 踵を返して、佐助は屯所の方へ駆け足で戻る。


 執務室にいる統一郎の元へ行かなければいけない気がした。


 ***


 「それでなんの用だ? 岡田」


 統一郎は、入室してきた岡田に問いかける。


 岡田次郎(じろう)は、一年ほど前に入隊してきた隊員で、殺人鬼から善良な江戸の民を守りたい——というのが入隊理由だった。


 漠然とした魔性討伐軍への憧れで、入隊してきたのだ。


 「腕の調子はどうだ? 酷く痛むのか」


 統一郎が気遣わしげな視線を向ける。


 「大丈夫です。結構血は出ましたが、折れてもいないしすぐに包帯も外せそうです」

 「それは良かった。——今日は皆、本当によく頑張ってくれた。誰一人欠けることなく帰還できて本当に良かった」

 「誰一人欠けることなく、ね……」

 「どうした?」

 「いえ。なんでもありません。——実は局長にお見せしたい物があるんです」

 「見せたい物?」


 予期せぬ言葉に首を傾げる統一郎。


 「はい。近くに来てもいいでしょうか」

 「構わないが」


 岡田は統一郎にわからぬ程度に笑むと、一気に距離を縮めてきた。


 大地を震わすような破壊音が執務室に響き、それと同時に殺気が立ち込めた。


 「なんの真似だ。岡田」


 統一郎は内心動揺しながらも、それを表には出さずに、なんの前触れもなく攻撃してきた部下を見上げる。


 彼の背後にある壁は、めり込んだ岡田の拳で破壊されて外が見えていた。


 「嘘だろ。今のを避ける?」


 そう言いながら岡田は、部屋の中央まで下がる。


 統一郎は刀を抜かない。両手を体の横につけたまま、部下である男の真意を探ろうとするようにじっと見つめる。


 その時、扉が開く音と共に「局長!」という声が聞こえてきた。


 入り口に佐助が立っている。岡田の姿と部屋の中のただならぬ気配を認めて、予感が的中していたことを半ば確信する。


 しかし、彼は最後に命令する。


 一抹の期待を込めて。そうであってくれるな、と願いながら岡田に命じる。


 「岡田。——お前の両親の名前を言え」

 「佐助? お前急に何を——」


 佐助の強い眼差しに、統一郎は言葉を引っ込める。


 そして、佐助と共に岡田に視線を注ぎ、その口から容易く紡がれるはずの答えを待つ。


 「どうした。自分の親の名前くらい考えなくても答えられるはずだが?」


 岡田——いや、"岡田の体を乗っ取った菊男"に、圧をかける佐助。


 「お前——何者だ。岡田をどこへやった」


 統一郎が強い怒りを纏って、菊男に尋ねる。


 「宿家はあやかし一族だったのです。他人と体を交換する能力を持ちます」

 「ならここにいる男は岡田の体に入った宿短子——そういうわけだな」


 いやそうではなくて、弟の菊男の方です——佐助がそう説明しようとした時だった。


 「そうだ! 俺は宿短子だ!」


 菊男が高らかに宣言した。


 愉快そうな声音——この状況からまだ逃げられる! とわかって嬉しくてたまらない様子だった。


 「こいつ——」


 なおも短子に全ての罪をなすりつけようと考える菊男に、佐助が刀に手をかけた時だった。


 佐助の体が外に吹っ飛ぶ。


 壊れた壁を通って、五メートルほど吹っ飛ばされ、佐助は地面を転がりながら、体を戦闘態勢にしていく。


 速い。抜刀する暇も与えなかった。


 受け身を取るので精一杯だった。


 短子も強かったが、菊男(こいつ)は頭ひとつ抜けて強い。


 ——俺一応兄ちゃんなのにさ。兄弟喧嘩まったく勝てないわけ。間違った弟を殴ることもできないのよ。


 短子の掠れ声が思い出される。


 続いてやってきたもう一撃の鉄拳を、佐助はかわすので精一杯だった。


 情けない。

 こんな奴に負けたくない。


 こんなゲスに——。

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